I.神族



  1)神霊
 唯一神とその分身たる存在であり、それぞれが唯一神のある1面を表現する。古くからその存在は認められており、ユダヤ教の文献にはその名を散見することができよう。


     ヤーウェ 《Y.H.V.H.》  出身地:イスラエル
 『旧約聖書』に現れるイスラエル人の最高神。世界が何もない混沌とした状態だった時に目覚め、混沌の中から全てのものを創り出した創造神。宇宙、人類、天使、そして悪魔など全ての父である。秩序を司る神であるが、混沌そのものでもあり、創造と破壊の2面性を持っている。『出エジプト記』には「我はあってあるものである」とされている。
 『聖書』のヘブライ語原典には子音のみで記されているが、後にこれに母音が加えられ、エホヴァ(またはイェホヴァー)《Yahweh》と称されるようになった。現在の『口語訳聖書』では「主」と訳されている。「天帝」「上帝」とも呼ばれる。
 余談ではあるが、『旧約聖書』にヤーウェの名は6000回以上も記されている。

     エロヒム 《Elohim》  出身地:イスラエル
 古代ユダヤの太陽神。普通は神と訳される。また、Y.H.V.H.の別名としても用いられた。カバラの神秘学体系の生命の樹においては、10のセフィロトのひとつ、イェホヴァーが司る理解(ビナー)に対して、知恵(コクマー)を司る者として位置づけられる。また、より古代では、イェホヴァーの慈悲(ケセド)に対して、正義(ゲブラー)に結びつけられた。
 エロヒムの名は、太陽のセフィロトであるイェソドの女神エローアに対する男性名詞の複数形であることから、「神々」という意味が原形ではないかとも思われる。こうした解釈の上からは『聖書』が別の形で読み取れる。『聖書』には「始めにエロヒムが天と地を造りたまえり」とあるからだ。「神々」ととると、唯一神がひとりで創造したのではないことになる。また、『聖書』には「エロヒムはアダムを造った」と書かれ、さらに「その後イェホヴァー・エロヒムはアダムを形造った」とあるので、エロヒムが霊的に創造し、イェホヴァー・エロヒムが肉体を造って霊と結合させたのがわかる。こうしてみると、カバラのセフィロトの樹の頂上の「在って在るもの」から発した創造の光が、エロヒムの段階でデザインされ、イェホヴァーの段階で物質化されたのが分かる。
 エロヒムはまた、エル・エロヒムとも呼ばれることがあるが、「エル」もまた「神」という意味である。エロイム・エッサイムなど、召喚魔術でもこの神の加護を得る呪文がみられる。

     シャダイ 《Shaddai》  出身地:イスラエル
 生命の樹のセフィロトのひとつ、イェソドは霊と肉の結合の神秘を司っている。その力は月と関係する。実際地球上の生命はすべて宇宙電磁波の影響によってその生成のサイクルを形作っており、月は電磁波の嵐である太陽風を遮ることによって生命に多大な影響を与えている。生命においての電磁波の影響は、肉体に直接なされるのではなく、霊体、あるいは霊と肉体をつなぎ合わせているものに影響を与えるようである。
 また、シャダイはシャダイ・エル・カイイム、あるいはエル・ハイ・シャダイと言われ、生命の最高の王として、イェソドの支配者とされている。

     ツァバト 《Zabaot》  出身地:イスラエル
 「万軍の主」と意訳される。やはり神名であり、厳密にいうと「万軍」であるため、複数であり森羅万象に浸透した神の光であろうと解釈できる。通常は主を称える言葉として使われる。
 ツァバトの力は、「力の儀式」と呼ばれる魔術によって呼び出される。13人の神官で手をつなぎ、回転しながら踊り、祈祷することでツァバトの神の力を得るという。すなわち自然に浸透するエーテル体のパワーの神格化がツァバトであるといえる。



  2)威霊
 あらゆる創世神話において、自ら、あるいは他の神にその身を引き裂かれ、我々の住む世界そのもの、もしくは礎となった神。全ての始まりより存在していたとされ、神々の中ではもっとも古い歴史を持つ。


     ティアマット 《Tiamat》  出身地:イラク
 バビロニアの原始の女。原初的混沌とも呼ばれる最初の地母神。蠍の尾を持った豊満な肉体を持つ、絶世の美女として想像される。
 「塩水(海)」を意味する巨大な神々の母であり、巨神アプスー《Apsu》(原初的深淵、地下の大洋、淡水の精)と交わって、多くの神々を生み出した。自ら巨大な龍と化し、7頭の大蛇、龍、大獅子、嵐の悪魔などの11種類の怪物を引き連れて、自分の息子である神々と戦った。
 ティアマットは「大洪水を起こす龍」とも呼ばれ、戦いの場では毒を撒き散らし、敵ばかりでなく味方まで圧倒する鬼気を発し、呪力でもって敵をなぎ払ったという。こうしたことからサタンの原形とも考えられている。
 ティアマトは多くの神々を産み出したが、彼らがあまりに暴れまわるので一度滅ぼそうと考えた。その考えを知った子孫たちは、マルドゥークを代表として戦いを挑んだ。ティアマトは自身で産み出した11匹の怪物とともに戦ったが、結局マルドゥークの雷霆(三又矛)の前に敗れ、その体から世界が創られた。まず身体をふたつに切り裂いて、天空と大地が創られた。両眼はチグリス・ユーフラテス川の源となり、唾液や口の泡から雲が、砕かれた頭からは山が生まれた。

     九頭龍 《Kuzuryu》  出身地:中国
 世界を支えていると言われる9つの頭を持つ中国の龍。龍は風水(フーチー)においては地脈の象徴である。
 地脈はおおよそ山脈に添って流れており、これが平野で尽きる場所を龍頭という。龍頭の先には龍が水を飲む大きな池があり、これに誘われるように龍脈は野に広がり、大地を力あるものとするのである。九頭龍はこうした地脈の龍の最も巨大なものである。このうちの頭のひとつが日本にあり、日本列島を背に乗せているのである。

     アプスー 《Apus》  出身地:イラク
 シュメール伝承に伝わる神格化された混沌の甘い淡水。ティアマトとならび、宇宙の最初に存在したとされる神。
 子孫の神たちが騒ぎだしたとき、これを止めさせようとして霧の宰相ムンムと相談していたところを、エア神に殺害された。

     ガイア 《Gaia》  出身地:ギリシア
 大地が神格化した女神。ゲー《Ge》とも呼ばれる。カオス(混沌)から初めて生まれた神であるとされ、天空神ウラノスとの間にティターン神族、サイクロプス、ヘカトンケイルなどの巨人族を産んだ。
 大地母神としてデメテルやキュベレなどと混同視されることもある。
 近年にいたって生まれた、地球それ自身は意志のある1個の生命体であるとする「ガイア思想」の語源にもなっている。

     火之迦具土神 《Hinogakutsuti no kami》  出身地:日本
 「ほのかぐつち」とも読む。伊弉諾尊、伊弉冉尊夫婦の最後の子として生まれた火の神である。生まれた時、母の伊弉冉尊の陰部を焼き、彼女を死に至らしめた。伊弉諾尊は怒り、十握剣で火之迦具土神の首を切り落とす。その剣先についた血から、武甕槌神を始めとする8神の天津神が生まれ、死体からは8神の山神が生まれた。
 また、火之迦具土神の神霊の宿った剣は、そのものの名で呼ばれる。



  3)魔神
 インドや北欧など世界各地で、主神と崇め奉られている中心的な神々。魔を統率するものの中で、最も強い力を持っている。どちらかといえば享楽的であり、その意味で人々にも悪魔にも受け入れられやすい。だからこそ広く親しまれているのであろう。


     ヴィシュヌ 《Visnu》  出身地:インド
 インド神話の神。『リグ・ヴェーダ』では単に太陽の光を神格化したものであったが、後世ヒンドゥ教においてはシヴァ、ブラフマーと並び最高神の位置を占める神となった。
 宇宙の維持発展を司る。妻はラクシュミー、乗り物はガルーダ。4本の腕を持ち、額にはV字の印が刻まれた美男子として描かれる。。彼はチャクラムと呼ばれるリング状の刃物を武器とする。しかしその武器を使って戦うことよりも、様々な姿に変身し、その姿で世界を救うことのほうが多い。ヴィシュヌの変身した姿の中で有名なものは次の10種類である。
    ・マツヤ 《Matsuya》
 世界が大洪水に見舞われた時、人間の始祖マヌの乗った船を守った大魚。ヴィシュヌ第1の化身。
    ・クールマ 《Kluma》
 神々とアスラが乳海の攪拌を行った時、乳海に潜って攪拌棒のマンダラ山を支えた大亀。ヴィシュヌ第2の化身。
    ・ヴァラーハ> 《Varaha》
 ヒラニヤークシャというアスラが大地を海中に引き込んだ時に、これと戦い大地を引き上げた大猪。ヴィシュヌ第3の化身。
    ・ナラシンハ 《Nrisinha》
 ヴィシュヌ第4の化身。神獣ナラシンハの項を参照。
    ・ヴァーマナ 《Vamana》
 巨人バリに奪われた三界を取り戻すため、ヴィシュヌは小人になり、3歩で歩けるだけの土地を貰える約束をする。その瞬間ヴィシュヌは巨人に姿を変え、三界のすべてを3歩で歩いてしまう。ヴィシュヌ第5の化身。
    ・パラシュラーマ 《Parasurama》
 王族階級が世界を支配し、バラモン階級が弾圧された時代にヴィシュヌが人間の子として生まれ、王族階級を全滅させる。ヴィシュヌ第6の化身。
    ・ラーマ 《Rama》
 ヴィシュヌ第7の化身。英雄ラーマの項を参照。
    ・クリシュナ 《Krsna》
 ヴァスデーヴァとデーヴァキーの間に生まれた人の子だが、人間離れしたところがあったため、ヴィシュヌ第8の化身と見られている。宿敵カンサ王を殺し、平和な町を取り戻した後、鹿と間違えて放った猟師の矢によって絶命する。
    ・ブッダ 《Buddha》
 「覚者」「智者」という意味。ヒンドゥ教でのブッダはヴィシュヌ第9の化身であり、人間に教えを説くのではなく、悪魔に異教を広め堕落させる役割を持っている。
    ・カルキ 《Kalki》
 ヴィシュヌ第10の化身。魔神カルキの項を参照。

     アルダーナリシュヴァラ 《Aldernalisubara》  出身地:インド
 シヴァと彼の妃パールヴァティーの合体した姿である。右半身がシヴァ、左がパールヴァティー。シャクティズムの理想を表した象徴。
 タントリズムは性的な力を魔術的に応用した秘教だが、アルダーナリシュヴァラはその最高完璧状態を、つまりサハスラーラ・チャクラにおけるシャクティ(=性力、性のパートナーとしてのパールヴァティの別名と考えてよい)とシヴァの結合を、体現しているのだ。

     ヴィローシャナ 《Vairocana》  出身地:インド
 アスラ族最高の大王である。真言宗の最高仏、大日如来。音字で毘盧遮那仏。「偉大なる」という形容詞をつけて「マハーヴァイローチャナ」といい、「偉大な日照者」という意味を表す。早い話、奈良の大仏さんである。
 白い蓮華の花の上で、静かに瞑想した姿で描かれる。彼が瞑想している周りには、宇宙の秩序に沿って、彼からの発現がさまざまな形象をなしている。真言密教においては、金剛胎蔵両マンダラに大日如来の真理が表現されている。金剛界において、ヴィローシャナの瞑想より生まれる発現は、理念の世界である。また金剛界は父権社会のごとく秩序だっており、厳しい修業の世界である。ここでの大日如来は厳しく厳かである。
 一方胎蔵界は、母権社会的な愛の世界である。大日如来は慈しみすべてを許し、悩める者を包み込む。
 また、ゾロアスター教においては光明神アフラ・マズダとなる。隣国であり敵対していた歴史をもっていたペルシアとインドは、たがいの主神格を自国の神話に敵役として、善なる神アフラ・マズダに対抗する悪神をインドから、また逆にアフラ・マズダを神々に反抗する存在アスラとして、それぞれ取り込んだのである。

     バール 《Baal》  出身地:シリア
 古代セム語で「主」という意味である。狭義ではカナアンの主神。ダゴン神の息子であり、アスタルテ(イシュタル)の夫でもある。メソポタミア一帯で、豊饒神として長い間崇拝されてきた。隣国エジプトのオシリスや、ヘブライのアドナイと同じ機能を持つ神である。
 冬に作物が枯れてしまうのは、冬の間はバール神が冥界につれ去られてしまうからと考えられた。こうした植物神としての機能に、雷と嵐を司る雨神の機能が加わり、海の主である七頭龍を倒した英雄としても民衆に崇拝された。
 『聖書』においてはバールは魔に堕とされた。バエルはバールの変形であり、ベルゼブブやベルフェゴール、ベリトなどもバールから派生した悪魔である。

     ラー 《Ra》  出身地:エジプト
 古代エジプト神話の太陽神、最高神。光明、生命、正義の支配者。レーとも。おもにナイル・デルタのヘリオポリスで信仰されていた。中王国テーベの興起とともに劣勢になり、テーベの主神アモン《Amon》(アメンとも)と融合し、アモン・ラーとして崇拝された。帝国の神、神々の王とされる。
 始めはガチョウとして表現されていたが、のちに牡羊と結び付けられ、これが定着した。
 第5王朝以後のファラオは必ず「ラーの子」なる称号をとる。

     ゼウス 《Zeus》  出身地:ギリシア
 秩序、正義、律法などを支配するギリシア神話の最高神。雷を象徴し、名は[Djeus(名)天、光]に由来する。手に王錫、雷電を持ち、ワシを従えた姿で表される。
 父神クロノスを主神の座から追放し、兄弟たちとともにティターン族と激戦の末にこれを制圧。また、大地母神ガイアの送り込んだ怪物をことごとく退け、その地位を確立した。オリンポス山に神々の館を定め、嫉妬の女神ヘラを正妻とした。しかし、その奔放な愛により、様々な神や人との間に幾多の子をもうけている。処女神アテナ、双子神アポロンとアルテミス、戦争神アレス、山神デュオニソス、英雄ヘラクレスなど、これらはほんの一例に過ぎない。
 ローマ神話に入るとユピテル《Jupiter》と呼ばれ、やはり主神として崇拝を受けた。

     八幡神 《Hatiman no kami》  出身地:日本
 菩薩号を付して八幡大菩薩と呼ぶこともある。やわたのかみとも。
 弓矢の神として尊崇され、古来広く信仰されてきた。八幡神の起源として、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)とする説もあるが、普通は応神天皇、比売神(ひめのかみ)、神功皇后の3神とされる。
 国家鎮護、厄除け、安産、育児など幅広い神徳がある。また、源氏一族の守護神とされていたことから、鎌倉時代以降、武家の守護神とされるようにもなった。八幡神をまつる社は、小さなものも入れると400以上にものぼる。

     カルキ 《Kalki》  出身地:インド
 世の終末に現れ汚れた世界を破壊する、ヴィシュヌ第10の化身。
 カルキの現れる時代カリ・ユガは、社会的モラルが最低に堕落している時代である。統治者たちは短い治世の間に力を貪ろうとして、この世の終わりに向かうような風潮を定める。真実と愛はこの世から消え去り、男女の絆はうたかたの好色のみとなる。民衆は真の富でありえないうわべだけの富を求め、堕落したものをありがたがり、外見が幅をきかせるようになる。野蛮な人々が治世者を装い、執務者の服が統治の権限を表すかのようになる。そしてこのようなことが続いた結果、文明は崩壊し、人は動物の生活に戻る。その時カルキは白い馬に乗り、輝く抜き身の刀をかかげて現れ、世界を滅ぼして新たな黄金時代を築きあげるという。
 『黙示録』にある「主」に破壊を許された騎士たちと同一の存在とも言われる。

     南斗星君 《Nantoseikun》  出身地:中国
 中国では北斗七星の近くに南斗六星があり、これを神格化した道教の神。生きた人間を裁く神。死んだ人間を裁く北斗聖君にくらべ、幾分穏和な性質を持つようである。

     アタバク 《Atavaka》  出身地:インド
 阿咤縛迦と漢音写される。毘沙門天の眷族の八大夜叉王のひとり。十六夜叉将の内にも数えられる。
 仏陀入滅に際して、すべての夜叉明王や四天王、阿修羅族、鬼神や龍などを集めて、仏教に帰依することを誓わせたという。そのため、今でも真言を司る天王、鬼神や明王たちの総帥である。
 八大夜叉王とは、宝賢、満賢、散支、衆徳、応念、大満、無比力、密厳の八夜叉の総称。

     オーディン 《Odin》  出身地:北欧
 ゲルマン神話の祖先ブーリの孫でゲルマン神話の主神。魔術と戦い、詩人、王の神。
 オーディンは魔術によってどんな姿でもとることができるが、大抵は立派なあごひげを生やした老人の姿で登場する。知恵の泉の水を得るために巨人に差し出したので片目は空洞となっており、見えない現世の代わりに冥界を見つめている。オーディンの武器はグングニルという投槍で、ドラウプニルという黄金の腕輪を身につけている。「意志」と「記憶」を象徴する2羽のカラスを使役し、空中を飛ぶように駆け抜ける8本足の駿馬スレイプニルに乗る。ヴィリとヴェーという兄弟を持つ。
 オーディンと彼の兄弟らは、神々が生まれる前から存在していたユミルという名の氷の巨人を倒し、ユミルの遺体を使って世界を作り出した。その世界は世界樹イグドラシルというトリネコの大樹に支えられており、ウルズ、ヴェルザンティ、スクルドという3人の運命の女神たちが神聖な泉の水をかけ、大樹が枯れないように務めている。その世界樹イグドラシルで首を吊り、9日と9夜の間、自分の身を生け贄として捧げ、生と死の狭間の中でルーン文字を冥界から持ち帰った。
 ヴァルハラの宮殿に住んでおり、戦場で死んだ優秀な戦士をヴァルキリーたちを使ってこの宮殿の連れてくる。来るべきラグナロクの戦いに備え、戦士たちを養成しているのだという。
 ラグナロク到来時には、フェンリルに呑み込まれて最後を遂げるとされている。
 イギリスでは《Woden》、ドイツでは《Wotan》と書く。

     ホルス 《Hols》  出身地:エジプト
 隼の頭という姿で現される、エジプトの天空神。エジプトの主神で、死の神であるオシリスと、母神イシスの息子。
 オシリスが弟のセトに殺されたあとにイシスの魔術的な方法でホルスは身籠られた。これにより「処女イシスより生まれしホルス」と言われる。幼い頃にナイル河の中洲でセトの化身の毒蛇アペプに咬まれ瀕死となるが、トート神などの助けにより復活する。ホルスは成長して、父の仇で叔父でもあるセト神と争う。戦いは神々の法廷と実際の戦いの両方で繰り広げられ、最終的にはホルスが勝者となり、全エジプトを支配することとなった。何度も死に向かい合い、復活するのがホルスのテーマであるようだ。
 元来はナイル・デルタの神らしく、その帰依者がエジプトを支配して全エジプトの神となり、そのファラオは必ず名にホルスを持つとされる。

     トール 《Thor》  出身地:北欧
 ゲルマン神話の雷と戦いの神。雷は雨風に結び付くことから、豊饒神としての性格も持っている。トールは神々の中で最も強く、世界の終わりラグナロクの時まで神々の敵と戦い、ミズガルズとアースガルズを守るのが彼の使命である。
 雷の象徴とも言われ、すべてを打ち砕くハンマー、ミョッルニルというバトルハンマーを持っており、これはどこへ投げても彼の手に返ってくる。このハンマーをふるって、巨人や龍を倒したという冒険譚が数多く残されている。またこのハンマーで、結婚、埋葬等を清める役目も持っている。腰には力のベルト、メギンギョズルを締めており、これがトールの力の源である。
 オーディンが魔術を司り、戦士である貴族たちに崇拝されている神であるのに対し、トールは力を象徴し、農奴である民衆に最も篤く崇拝された神である。また、オーディンが陰鬱で人間に対してもしばしば恐ろしい存在であるのに対し、トールは人情味があり、ロキにさんざん迷惑をかけられても、彼が謝れば許してしまう。
 ラグナロク到来時には、仇敵の大蛇ヨルムンガントと戦い、相打ちになるとされている。

     インドラ 《Indra》  出身地:インド
 稲妻ヴァジュラを手に持ち、雨と雷を思いのままに操るインドの雷神。茶褐色の堂々たる体格をしていて、髪も髭も赤く、暴風神ルドラを率いて2頭の馬のひく戦車に乗り空中を駆け回る。後のヒンドゥの世界では6本の牙を持つ白象アイラーヴィタに乗っている。
 外見にふさわしく、豪胆で奔放な性格をしている。彼に力を与える飲み物である神酒ソーマを深く愛し、それに対する満たされることのない渇望がある。また、ソーマをがぶ飲みしては暴れるといった神らしからぬ部分もあるが、その人間ぽさが逆にインドラの人気を高めている。そのソーマの水源を握り、旱魃を起こす龍ヴリトラを倒したことで、最も偉大な神とされた。
 彼はそうしたヴェーダ神話の時代に生きた神であったが、後にヒンドゥの時代になると、ヴィシュヌやシヴァの勢いに押され、劣勢化していった。しかし仏教では、帝釈天として神々の王になっている。
 ちなみに、『リグ・ヴェーダ』の4分の1はこのインドラの賛歌である。

     不動明王 《Hudou myouou》  出身地:インド
 仏教守護の明王。無動尊、無動使者、不動尊とも。五大明王の中心。八大明王のひとり。他の明王は腕や脚、頭部などを複数持っているが、不動明王だけは普通の人間と同じ姿をしている。八大童子を配下に持つ。
 木像や絵に描かれる不動明王像は、左右の目で天と地を同時に睨み、右手に倶利加羅剣(くりからのつるぎ)、左手に羂索(けんさく)という縄を持ち、背後には紅蓮の炎が燃え盛っている。心の内外の魔を祓い、修行僧を守護する鬼神である。
 チベット、中国でも信仰されるが、日本では観音、地蔵と並んで広く信仰され、不動明王を本尊とする新勝寺などの大伽藍も建てられた。
 五大明王とは、不動を中心に、降三世(ごうざんぜ、東)、軍茶利夜叉(ぐんだりやしゃ、南)、大威徳(だいいとく、西)、金剛夜叉(こんごうやしゃ、北)の総称。五大尊とも。八大明王とは五大明王に穢迹(烏蒭沙摩)、無能勝、馬頭を加えたもの、または、降三世、大威徳、大咲、大輪、馬頭、無能勝、不動、歩擲(ぶちゃく)とする説もある。八大童子、正確には八大金剛童子とは、慧光(えこう)、慧喜、阿耨達(あのくだつ)、指徳、烏倶婆迦(うぐばか)、清浄比丘、矜羯羅(こんがら)、制多迦(せいたか)のことをいう。

     アポロン 《Apollon》  出身地:ギリシア
 ギリシア神話を代表する英雄神。ゼウスとレトの間に生まれ、月の女神アルテミスを双子の妹に持つ。若く力強い青年として表され、知性と道徳、秩序、律法の守護者であり、また、音楽(ことにリラ)、弓矢、予言、医療、家畜をも司る多面性の神である。また、光明神としてフォイボスとも呼ばれ、紀元前5世紀頃からは太陽の神と同一視されるようになった。
 デルフォイに住む怪龍ピュートーンを銀の矢で射殺し、そこを自らの神託所としたことから人々の畏敬を受けるとともに、次第にその勢力を拡大していった。

     オシリス 《Osiris》  出身地:エジプト
 エジプト神話に登場する冥界の神。イシスを妻とし、ホルスを息子に持つ。
 死と復活の主神であるが、先史以前は穀物の神とされていた。太陽神ラーに次いで王として地上を支配していた最後の神でもあると言われる。弟セトによって殺害されるが、妻イシスの秘術によって冥界の王として復活したとされる。
 一般的な冥界の神とは違い、オシリスの正しい統治によって永遠に幸福な来世が訪れるとされ、恐怖ではなく敬愛を持って信仰されていたという。

     ルーグ 《Ruge》  出身地:アイルランド
 北欧神話に登場する、あらゆる技能に秀でているとされる光明神。ルー、あるいはルーフとも呼ばれ、その名には「光」「輝ける者」と言った意味がある。魔槍ブリューナクを持って闘うことから「長腕のルーグ」とも呼ばれる。
 邪眼バロールを祖父に持ち、さらにバロールの娘のジャフティニャとの間に大英雄クー・フーリンをもうけた。しかし、正妻は大地の女神ブイだと言われる。
 祖父であり、また宿敵でもあるバロールを、目を射貫いて倒した。

     マハーマユリ 《Maha Mayuri》  出身地:インド
 すべての障害を取り除く、あるいは滅ぼすとされる神。毒蛇を食う孔雀が神格化された存在とされる。仏教においては「孔雀明王」と呼ばれ、同じように毒蛇を始め、あらゆる緒毒、畏怖、災難を取り除く神である。また密教においては、釈迦如来を元にする存在とされ、人々を教化するために釈迦が変化した姿なのだという。
 他の荒々しい姿で表される明王とは違い、蓮華や孔雀の羽を持ち、菩薩のような優美な表情をしているとされ、孔雀に乗った姿で描かれている。

     マルドゥーク 《Marduk》  出身地:バビロニア
 エア神の息子。名は「太陽の雄の牛」と言う意味。メソポタミアの魔物の母ティアマトを打ち倒し、新しい秩序をもって世界に君臨した。

     アティス 《Atys》  出身地:トルコ
 プリギュアの大地母神キュベレの息子であり、また愛人でもあるとされる美青年の姿をした神。キュベレが生まれた際に切り落とされた男根が、地に落ちてアーモンドの木となった。その実が河神サンガリオスの娘ナナの胎内に入り込み、生まれてきた子がアティスであると言われる。
 キュベレはその美しさに恋をするがアティスの反応は冷たく、ペッシヌ王の娘と結婚しようとする。怒ったキュベレは呪いをかけ、アティスは発狂させられる。自らの手で去勢したアティスはその後すぐに死んでしまったという。

     プロメテウス 《Prometheus》  出身地:ギリシア
 ギリシア神話はティターン神族のひとり。アトラスの兄弟。名は「先見」の意。
 人間と神が犠牲獣の分配を決めようとしたとき、彼は上質の部分と下等部を脂で巻いたものを人間に作らせ、神々に選ばせた。ゼウスは脂で巻いたほうを取ったので、人間が上質の部分を取ることになった。欺かれた神は怒り、人間から火を取り上げる。プロメテウスは天上から火を盗んでウイキョウの髄に隠して人間に与えるが、これを知ったゼウスによってコーカサス山の岩に縛られ、大鷲に生き肝をついばまれた。しかし夜になるとまた肝が生えたので、毎日鷲につつかれることになる。幾千年の後に英雄ヘラクレスが鷲を射殺して彼を苦痛から救ったとされる。
 彼はまた、泥土から人間を造り、知恵を授けたともいう。

     ディオニュソス 《Dionusos》  出身地:ギリシア
 主神ゼウスとテーベ王カドモスの娘セメレとの間に生まれた。成長するとブドウの実とブドウ酒の作り方を発見し、この功績によりブドウ酒の神とされるようになった。「怒号する者」「雄牛の角を持った神」「2度生まれた者」「雄牛」「男・女の」「木の中にいる者」「生肉を喰う者」「秘儀をうけた者」「騒々しい」など、あわせて16以上もの別名を持つ。
 後に人々の信仰を集めたディオニュソスはその影響力を強め、ブドウ酒の神から植物の神、楽しみの神、文化の神へと変貌する。そしてついにはオルフェウス教において最高神とされるに至る。ディオニュソスは本来トラキアの山地の大神で、自然界の生命を司り、また、シレノスやサテュロスを従者としていたところから増殖の神ともされた。
 数々の遍歴の後にテーベへと帰ったところ、王のペンテウスが反抗したため、王の母を含めた女たちを踊り狂わせペンテウスを八つ裂きにさせたという。女たちはこの神を熱狂的に信仰し、狂気に浮かされると杖と松明を持って山野を乱舞した。

     ブラフマン 《Brahman》  出身地:インド
 ブラフマンとはもともと正統バラモン教の最高原理のことで、賛歌、祭詞、呪詞に内在する神秘的な力そのものとされていた。それがバラモン教自体が祭式万能になる前後に、根本的創造原理とされるようになり、また「梵我一如」という哲学思想も生まれた。
 後にその思想が神格化されて、ヒンズー教や仏教などにも取り入れられていった。

     アガートラーム 《Airget lamh》  出身地:アイルランド
 ケルト神話に登場する主神ヌァザの別名で、「銀の腕」を意味する。神々の王であり、クラウ・ソナスという輝く剣をもって、邪眼バロールの軍勢と戦った。しかし、その戦いでクロウ・クルーワッハに倒されてしまう。

     インティ 《Inti》  出身地:南米
 天空の星を支配し、月の女神を妻にもつ。慈愛に満ちた寛大な神であるとされ、またインカ人を作りだし地上に遣わした存在として、インカの民衆に愛された。インカの王はこの神と同一視されるようになり、王と王妃のミイラは、金色の輿に乗せられ、インティの大神殿に安置された。
 インティの祭礼はライミと呼ばれ、年に2回行われたと伝えられる。

     青面金剛 《Seimen kongo》  出身地:日本
 古神道、儒教、仏教から派生した庚申のこと。日光東照宮で有名な「見ざる聞かざる言わざる」の3猿は、青面金剛の従者である。



  4)女神
 女性の姿をした神々であり、おもに慈愛をもたらす存在である。しかしその魔力は魔神と比べても劣ることはなく、その力を戦いに活かすか、癒しに使うかの違いだけである。その姿が一様に美しいのは、慈愛は美の象徴だからといえよう。


     アナト 《Anat》  出身地:シリア
 雌牛の角をもつ、愛と官能の女神。フェニキアの主神バアルの妹でその妻。アスタルテとも呼ばれる。豊饒神でありながら、死の呪文を司る恐ろしい女神であったとされている。父である天空神エルでさえもアナトの呪いを恐れ、アナトには逆らわなかったという。
 息子であり婿である冥界の支配者モトに、毎年死の呪いをかけることによって大地に豊饒をもたらした。また、男性の血によって受胎するとされており、アナトの祭祀には多くの若者が生け贄となり、流血が絶えなかったと言われている。

     ラクシュミ 《Lakshmi》  出身地:インド
 インド三女神のひとり。北インドでは最も人気があり、仏教では功徳天、吉祥天の名で知られる幸運の女神である。彼女のシンボルである蓮の花に座り、時に4本の腕を持つ女性の姿で描かれる。
 最初は賢者ブリグの娘として存在し、ある賢者の呪いによって神々が追放された時に、彼女は混沌の乳海の中に消えていった。しかし、神々とアスラが不死の甘露アムリタを作るために乳海を攪拌した時、その泡から再び生まれ変わったという。ギリシアのアフロディーテ(=ヴィーナス)も、泡から生まれたということで、彼女らは原型を同じくすることが知れる。
 蓮の花を手にして現れたラクシュミの美しさに、神々とアスラはこぞって求婚を始めるが、ラクシュミは迷わずヴィシュヌの左膝の上に腰掛けた(インドでは男性の左膝は妻の座とされている)。以来彼女は常に夫のもとに寄り添い、ヴィシュヌが姿を変えるとラクシュミも姿を変えてその側に現れる。
 クリシュナの妻ルクミニー、ラーマの妻シーターはラクシュミの化身とされている。

     アリラト 《Arirat》  出身地:アラビア
 アラビア地方で古くから崇拝されてきた母神。原初の月の神ともブドウ酒を守護する神とも言われる。
 同じ名の四面の石を神体として崇拝されていた。また、「死にゆく息子」とも呼ばれる山や星の神ドゥスラを祭ることで、アリラトへの崇拝儀礼が成立したとも伝えられる。

     パールヴァティ 《Parvati》  出身地:インド
 女神の中で最も美しいと称えられるシヴァ神妃。「山の娘」の名を持つヒマラヤの女神である。地母神的な性格も強く、優美さが強調された胸の豊かな女性の姿で描かれる。
 アスラに対する神々の怒りから生じたドゥルガーや、その額から現れたカーリーはすべてパールヴァティの化身であるとも言われる。これらすべてを包含した女神として、「大女神」の意味の「マハーディーヴィ」の名で呼ばれることもある。
 タントラでは女性原理の性力そのものの「シャクティ」の名で呼ばれる。

     フレイア 《Freyja》  出身地:北欧
 最も美しく、最も性に奔放であったと言われるフレイアは、美の化身であり、豊饒の神であり、愛の女神でもあった。恋愛に関する願い事がある民衆は、彼女に祈ることで望みを成就に近づけようとしたという。ブリシンガメンという名の首飾り、空を飛べる鷹の翼を持っていた。
 トール神と共に人間に対して最も親切とされていた彼女は、女神の地位としては第2位であったものの、民衆の篤い信仰に支えられていた。また、戦にも関わりがあり、2匹の猫がひく戦車に乗って現れ、戦場から戦死者の魂を半分選び取り、戦いの野にある彼女の館で催される宴に招くという。
 彼女は北欧の主神たち、オーディンやトールのアース神族とは違い、より南方系と思われるヴァン神族の主神であった。アースとヴァンの長きにわたる抗争を終わらせる手段として、フレイアはアース神族の仲間入りをしたのである。ヴァン神族は必ず夫婦1対であり、フレイアの伴侶は、兄であり絶世の美男子と言われたフレイ《Frey》である(後にオーディンの妻になったとも言われる)。
 英語の[friday(名)金曜日]は、彼女が金星であるヴィーナス(=アフロディーテ)と同一視されたために、その名前ににちなんだ曜日に付けられた。ヴィーナスもまた、元来は戦いに関わりある女神だといい、その共通点は実に多い。
 スノリの『エッダ』では、彼女はオズル《Odur》の妻であり、旅に出て帰らぬ夫を探して世界を巡り、泣いて流した涙は黄金になったという。ようやく夫と巡り会い喜び勇んで故郷に帰ってくると、一歩ごとに花が咲いて春がよみがえったとされる。
 また、フリッグ(これは後に独立する)、メルデル、ゲフィオン、ゲフンという別名を持つ。

     パラスアテナ 《Pallas Athena》  出身地:ギリシア
 ギリシア神界最大の処女神であり、学問、技芸、知恵、戦争を司る。主神ゼウスに飲み込まれた女神メティスを母とし、ゼウスの額から完全武装した姿で生まれた。アテナイの守護神であり、アクロポリスのパルテノン神殿にまつられる。パラスは他から取った別名。
 アテナイの守護神の地位をかけてポセイドンと争い、荒れ地にオリーブの樹を生えさせて勝利を得た。戦時には女神ニケを従えて軍を率い、平和時には技術や織物、工芸を人々に教えるという。戦争の女神ではあるが、自分の国家や家庭を守るために戦い、戦いのための戦いをすることはなかったという。
 古代ローマのミネルウァ《Minerva》と同一視される。

     ノルン 《Nornen》  出身地:北欧
 北欧神話に表れる運命の女神たちで、ギリシア神話にあってはモイラと呼ばれ、運命をつむぐ機織りの女神として描かれる。長女ウルズ、次女ヴェルザンディー、三女スクルドからなり、それぞれ順に「過去」「現在」「未来」を司り、その名には「運命」「存在」「必然」の意味がある。宇宙樹イグドラシルの根元にある運命の泉のほとりに住み、泉の番をすると同時に宇宙樹が枯れぬよう泉の水を根にかける役目を持っている。
 運命の泉の水は生命と精神をもたらし、その流れによって神々は知恵を授かると言われ
る。その流れを監視、あるいは支配するノルンは神々の運命をも支配するとされる。また、人間の生涯の最初の日と最後の日を決定する者であるとも言われている。
 機織りとして描かれる運命を司る女神は、世界中で散見される。

     ウシャス 《Usasu》  出身地:インド
 バラモン教の聖典『リグ・ヴェーダ』の中にある暁の女神。美しく輝く女性の姿で描かれ、太陽神スーリヤは恋人、夜の神ラートリーは姉妹の関係にある。

     ブリジット 《Brigit》  出身地:アイルランド
 ケルトの女神。主神ダグダの娘。名は「気高き者」「偉大なる者」の意味。名前がそのまま「女神」と同義語として使われるほど権威があった女神で、民衆の篤い信奉を得ていた。占い、予言、学問、詩に通じている。鍛治を司ることから火鉢を持った姿で描かれる。また、冬の魔物を追い出して春を呼び寄せるとされる。
 キリスト教がアイルランドに入ったとき、ブリジットがあまりに民衆に崇拝されていたので、教会はブリジットを聖人としてキリスト教に取り込んだ。

     アルテミス 《Artemis》  出身地:ギリシア
 ゼウスとレトの間に生まれた双生神の妹。兄はアポロン。ローマではディアナと呼ばれ、また月の女神セレネと混同されることが多い。森や丘、野生の動物を守り、狩猟を司る狩猟神とされる。出産を助ける多産の神とされることもある。
 山野に住むニンフと猟犬を共に連れ、弓を持って山野を駆け回り、狩りをする。

     サラスヴァティ 《Sarasvati》  出身地:インド
 インドの学問と叡知の女神で、三女神のひとり。創造神ブラフマーの妻。白鳥か孔雀に乗り、額に三日月を抱く白い肌の優美な女性として表現される。音楽などの技芸も司っており、しばしばヴィーナー(琵琶)を持った姿で現れる。神々に捧げる詩『ヴェーダ』は彼女の発明と言われ、ヴェーダの女神として称えられる。
 ブラフマーは彼女の美しさに見とれ、彼女はその視線を避けるために横に逃れたが、逃れる度にブラフマーには新たな顔が生じ、ブラフマーは4面を持つに至った。逃れられぬと諦めた彼女は、彼の妻になったという。
 仏教では弁財天として有名であり、彼女は作物を育て、人々に富や幸福を与えることから、七福神のひとりとされている。
 余談ではあるが、サラスヴァティとはインドの古代河川の名前で、現在は消滅してしまっているが、かつてはガンジス河と並ぶ大河だったようだ。

     レト 《Leto》  出身地:ギリシア
 ゼウスがヘラと結婚する前の愛人で、アポロンとアルテミスの母神。ティターン族。
 ヘラの嫉妬から逃れ、お産の場所を求めてさまよう内にデロス島へたどり着き、そこでアポロンとアルテミスを産んだ。

     天仙娘娘 《Tensen nyannyan》  出身地:中国
 河北地方で崇められている女神で、泰山の神・東岳大帝の娘だとされる。出世、恋愛、豊饒など、人の幸福に関して全般的に願いをかなえる。

     アリアンロッド 《Alianhrod》  出身地:アイルランド
 「白銀の車輪」という意味の名前を持つ、ケルト神話はウェールズ地方の女神。アーリア人の母であり、時を司る女神としてウェールズの最高神であった。銀の車輪は巡る時を象徴するとともに、月を暗示する。その美しさは『タリシエンの書』において「称えるべき横顔」と称された。彼女はかつて地上にあふれていた暴力を、流れる虹を用いて打ち払ったとされている。
 ウェールズの王マスが彼女を妃に迎えようとした際、純潔を確かめるために魔法の杖をまたがせたところ、双子の赤子を産み落とした。ふたりの子供は波の子ディランと、凄腕のフリュウという神になった。

     フォルトゥナ 《Fortuna》  出身地:ローマ
 人々に成功と悲惨をもたらす運命の女神。気まぐれと偶然のシンボルであるとされ、運命を象徴する車輪とともに描かれることが多い。ギリシアにおいてはチュケと呼ばれる。
 英語の[fortune(名)幸運]の語源となったこの神は、前ローマ時代において大母神の一人とされる。フォルトゥナの持つ車輪は、特定の人間を引き上げて幸運と成功を導くものであると同時に、それ以外の人々に相応の不運を導くものであるとされた。フォルトゥナが目隠しされた姿で描かれることが多いのは、幸運と不運を非倫理的に選べないようにするためである。

     ハトホル 《Hathor》  出身地:エジプト
 雌牛の女神。豊饒のシンボルであり、美や愛、結婚の守護神である。後に戦いの女神セクメトが吸収され、ハトホルの怒りの化身とされた。

     エルズリー 《Erzulie》  出身地:ハイチ
 ブードゥ教の愛の女神。蛇の神ダンバラ、海神アグウェ、戦いの英雄オグンの夫をもち、指には3つの指輪をはめている。
 贅沢だが愛は惜しまない。生の短さと愛の儚さを嘆き悲しんで涙を流すという。

     スカアハ 《Scathacha》  出身地:アイルランド
 ケルト神話に見られる死者の国に住む女神。「影の国の女王」「英雄の母」などと呼ばれる。武術と魔術に長け、大英雄クー・フーリンにそれらを授けた師でもあり、また彼に魔槍ゲイボルグを与えた。

     奇稲田姫 《Kusinada hime》  出身地:日本
 櫛名田比売とも。国津神の脚摩乳(あしなづち)、手摩乳(てなづち)の娘。
 高天原を追放された素戔鳴尊(すさのおのみこと)が出雲に降臨し、ある家の前に差し掛かった時、そこから脚摩乳、手摩乳老夫婦の泣き声が聞こえた。ここで素戔鳴尊はこの土地に住む恐ろしい大蛇、八岐大蛇(やまたのおろち)と生け贄の娘の話を聞くことになる。その娘が奇稲田姫である。彼は奇稲田姫に一目惚れしてしまい、彼女を嫁に貰うことを条件にオロチを倒すことを約束する。素戔鳴尊は8つの瓶に酒を満たし、それを飲み干して酔い潰れたオロチを退治した。その後素戔鳴尊は奇稲田姫と結婚し、須賀の地に住み着いた。
 彼らの6代目の子孫が大国主神である。

     サティー 《Sati》  出身地:インド
 シヴァの最初の妻。しかし実父とシヴァの仲の悪さを悲しみ、火の中に身を投げて死んだ。そしてパールヴァティに生まれ変わって、再びシヴァと結婚した。

     天鈿女命 《Ame no Uzume no mikoto》  出身地:日本
 天宇受売命とも。神楽舞を司る天津神。彼女を有名にしたのは、何といっても天の岩戸の前で踊った舞であろう。
 素戔鳴尊が高天原で行った悪行のあまりの酷さに、腹を据えかねた天照大御神が天の岩戸に隠れてしまい、神々は岩戸を開くためにその前で賑やかな宴会を開いた。その時、天鈿女命は幾多の神々が見守る中、岩との前に空の桶を並べ、足を踏み鳴らして踊った。激しく踊るうちに衣服がどんどん脱げてゆき、その様はストリップそのものであった。これを見た八百万の神がどっと湧いたので、何事かと天照大御神が顔を出した時に、すかさず岩戸をこじ開け、無事に呼び戻したのである。
 また、天鈿女命は瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)降臨に従い、その前に立ちはだかった猿田彦神(さるたひこのかみ)を前に胸元をはだけて悩殺し、先導させた。
 彼女とその子孫らの技能は鎮魂帰神にある。神楽が巫女術の舞踏の要素から生まれたように、歌や舞によって神を降ろし、神託を得るものである。また彼女はそうした神楽によって、生命を活性化させる「魂振り」の女神でもあるのだ。

     ウルヴァシー 《Uruvasi》  出身地:インド
 『リグ・ヴェーダ』に登場する天女。天界から地上に降りて人間の男と結婚したが、裸の姿を夫に見られたため天界へ帰った。

     泣沢女神 《Nakisawame no kami》  出身地:日本
 日本記紀の中に見られる女神。伊弉冉尊(いざなみのみこと)の死に悲しむ伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の流した涙より生まれた。
 大和の香久山のふもとに住むという。

     媽祖 《Maso》  出身地:中国
 福建省に起源をもつ航海の女神。華僑がアジアに進出するにつれて広がっていった信仰で、本国だけでなく台湾やマレーシアでも崇められている。



  5)秘神
 性的、隠微な部分を司る神々。よって表立って登場することは少なく、各宗教で秘められた神とされてきた。


     カーマ 《Kama》  出身地:インド
 インド神話の性愛の神。オウムに乗り、愛の矢を放つ男神。シヴァの第3の目に睨まれ、殺された。後にマーラと結び付けられ、カーマ・マーラとして複合体の悪魔となる。
 『カーマスートラ』という性愛に関する偏執的なまでの分類書物が有名。これは4世紀ごろの著作。古来、インド人は法(ダルマ)、利(アルタ)、愛(カーマ)を人生の3大目的としてきた。『カーマスートラ』はこの内の「愛」に関する教えを説いたものである。

     歓喜天 《Kangi ten》  出身地:インド
 仏教を守護する天部の善神で、「大聖歓喜自在天」「聖天(しょうてん)」とも呼ばれる。富貴を与え病を除き、夫婦和合、子を授けるといった御利益がある。
 一般的には像の頭をした男女が抱き合う双身の像で表されることが多く、男天は大自在天と呼ばれる魔王、女天は十一面観音の化身とされる。単身の像で表されることもあり、その場合には二臂、四臂、六臂などのバリエーションがあり、刀、果盤、輪、棒、索、牙などを持った姿で表される。
 インド神話に登場するシヴァ神の息子ガネーシャであり、後に仏教に取り入れられて歓喜天となった。

     キンマモン 《Kinmamon》  出身地:日本・沖縄
 琉球神道における最高神で、名は「最高の精霊」の意。常世の国ニライカナイからやってきて、天地開闢以来より琉球国を守護してきたと言われる。
 この神には陰陽があり、天より降りてきたものを「キライカナイノキンマモン」、海より上ってきたものを「オホツカケラクノキンマモン」と呼ぶ。彼方より時を定めて寄り来る客神(まれびとがみ)であり、女性に憑依して人々の前に現れることもあったらしい。

     ヤリーロ 《Yarilo》  出身地:ロシア
 歓喜の神。白馬にまたがり、白いマントと野の花の冠を身につけ、麦の穂を持った美しい女神。春の再生と豊饒、性愛を象徴している。
 その名はエロスを起源とする。

     天太玉命 《Ame no Hutotama no mikoto》  出身地:日本
 大和朝廷において神事を司るとされた神であり、天児屋根命(あまのこやねのみこと、中臣、藤原氏の租)と共に天皇家に仕えていた忌部氏の租神であると言われる。
 天照大神が天の岩戸に閉じこもったとき、天香山の真男鹿の背骨を抜いて「太占(ふとまに)」を行った。
 『日本書紀』においては、高皇産霊神(たかみむすびのかみ)の子とされ、後に天尊・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の降臨の際に付き従った神の一であるとされる。

     猫将軍 《Neko syougun》  出身地:ベトナム
 人身猫頭の姿で、かつて中国領であった安南、今のベトナムに当たる場所に、その廟があった。もともとこと廟は14−5世紀の武将、毛尚書を祀ったものであったが、「毛」の発音が「猫」と同じであったために、「猫将軍」としてうまれかわったらしい。中国では猫は神秘的な存在と考えられたことも、少なからず影響しているのだろう。
 中国では予言をもたらす道教の神であり、神から「予言」を授かった場合、それは「預言」となる。

     加牟波理入道 《Ganbari nyudo》  出身地:日本
 いわゆる便所の神様。盲目。人間が生きていくうえで、欠かす事のできない神のひとり。人に見られることを嫌うため、咳をしてから厠(かわや)へ入る必要がある。
 大みそかの夜に「ガンバリニュウドウホトトギス」と唱えれば、次の年の1年間は、便所で困ることなく過ごせるという。

     ビリケン 《Biliken》  出身地:日本
 「ビリケンさん」の愛称で親しまれている、ぷっくりとした裸の姿と尖った頭、そして吊り上がった眉が特徴の福の神。後光を備えたものもある。
 大阪は浪速の神様として定着しているが、その起源は1908年にアメリカ人女流美術家が作ったことによる。これを備えれば福徳を招くと言われ、やがて世界中に流行していった。「ビリケン」と言う名は、当時のアメリカ大統領であった「ウィリアム」の愛称「ビル」に、愛称語尾である「ケン」をあわせてつけられたものだと言われている。



  6)天津神
 日本書紀、古事記などいわゆる記紀神話で語られる天孫降臨したと伝えられる日本の神たち。太陽神たる天照大神を筆頭に、さまざまな逸話のある神が多い。神道では現在も多数の神が奉られている。


     天照大神 《Amaterasu ohmikami》  出身地:日本
 日本神話中の最高神で、太陽神と皇祖神の2つの性格を持つ。伊弉諾尊(いざなぎのみこと。伊邪那岐命とも)、伊弉冉尊(いざなみのみこと)の2神の3子中、第1子とされる。
 伊弉諾尊が黄泉の国から逃げ帰り、阿波岐原(あわぎはら)で禊をした時、左の目から生まれたのが天照大神とされる。より古い伝承では、天照大神は伊弉諾尊を父にして、伊弉冉尊より生まれたとされる。
 別名の大日靈貴(おおひるめむち)は天照大神の原始的名称と思われ、各部族の太陽神の中で、大和朝廷が尊崇していたものに統一されていった過程があると考えられている。
 現在に至るまで、伊勢神宮をはじめ各地の神明社にまつられている。

     月読命 《Tsukuyomi no mikoto》  出身地:日本
 月弓尊(つくゆみのみこと)、月夜見尊とも。伊弉諾尊、伊弉冉尊の2神の3子中、第2子。天照大神が生まれた時、それと同時に右目から生まれたのが月読命とされる。
 書紀では保食神(うけもちのかみ)を殺したために天照大神の怒りにふれ、1日1夜を隔てて住むことになったという。
 月読命は月の世界を管理する。月の世界はアストラル界、つまり感情を支配する精神世界であり、霊界とも結び付けられる。月読命が黄泉を支配する月黄泉とも書かれるのはこのためである。月は植物の成長や魚の行動に影響を与える。
 また月を読むというところから、暦を定めることにもつながる。暦は農耕にとって重要であり、月読命は農耕や漁労の主語者であるとも考えられた。

     武甕槌神 《Takemikaduti no kami》  出身地:日本
 建御雷神とも。伊弉諾尊が火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)を剣で切った時に生まれたとされる。
 書紀によれば、出雲の国譲り神話の中で、高天原(たかあまはら)から天鳥船神(あめのとりふねのかみ)に乗って、経津主神(ふつぬしのかみ)とともに派遣され、大国主神(おおくにぬしのかみ)に国譲りを交渉、成立させた神。この時、十握剣(とつかのつるぎ)の切っ先を上にして突き立て、その上に座して大国主神と交渉したという。
 雷神、剣神、武神とされ、鹿島神宮、春日大社にまつられている。

     荒御鋒 《Aramisaki》  出身地:日本
 神功皇后征韓の際、天照大神に遣わされた神で、皇后の船の先方に立ってこれを護り導いた。住吉大神(すみのえのおおかみ)の荒御霊(あらみたま)であると言われる。
 また、人の仲を裂く、あるいは男女の仲を引き裂く、大変嫉妬深い女神として描かれることもあり、「荒御裂神(あらみさきのかみ)」「荒御前姫(あらみさきひめ)」と表記される。

     八意思兼神 《Yatugokoro Omoikene no kami》  出身地:日本
 思金神とも書かれ、由来は「多くの知恵と物事の分別を兼ね備える」あるいは「その思慮、千金に値する」という意味である。生まれつきの知恵者であり、天上にある高天原の知恵袋とされる。
 天照大神が天の岩戸に隠れ、世界が暗黒に包まれた時に、その知恵を活かして天照大神を岩戸から出した功労者である。

     天手力男命 《Ame no Tadikarao no mikoto》  出身地:日本
 高天原一の怪力の持ち主。名前もここから来ている。
 天照大神が天の岩戸に隠れた時、思兼神の計略で天照大神が顔を覗かせた所で岩戸を開き、その手を取って引っ張り出したのがこの神の最大の手柄であった。その後、岩戸を下界に放り投げると、その岩戸は信濃国(現在の長野県)の落ちたという。岩戸は山となり、今では戸隠山と呼ばれ、戸隠神社がこの神をまつっている。

     天鳥船神 《Ame no Torihune no kami》  出身地:日本
 古来、鳥(特に白鳥)は死者の魂の運び手であった。また、こうした鳥は船に譬えられ、古代エジプトにおいても死者の魂を運ぶ神鳥が存在したが、天鳥船神もそうした役割を持った神である。
 古来の神話では、武甕槌神がいろいろな所へ派遣される時に乗る船だとされる。


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