V.龍族
1)龍神
世界各地に伝わる龍族の長たち。あらゆる神々の中でも特に古い歴史を持ち、人知を越えた能力を秘めている。龍神伝説は全世界に分布しているが、どの伝説においても凄まじい力があることから、強大な神々であり、人々の畏怖の対象になってきた。
燭陰 《Syokuin》 出身地:中国
伝説の霊山・鐘山に棲む、大自然の摂理を司る神。深紅で果てしなく長い体を山に巻き付け、何も食べず、何も飲まず、眠りもせず、息すらせずに世界を見ている。縦に並んだ眼を開くと世界は昼になり、閉じると夜になる。息をはいて雲を起こせば冬になり、息を吸えば夏になるという。
インドの大蛇ナーガが伝わって、神になったといわれる。
アナンタ 《Ananta》 出身地:インド
インド神話に登場する永遠不死の世界蛇。1000もの頭を持つ蛇(キングコブラ)と言われる、ナーガ族の大王。名は「無限」を意味する。
ヴィシュヌは、ブラフマーの夜と言われる宇宙の静寂期間はこの大いなる蛇のとぐろの中で眠るという。ヴィシュヌ神が横になって夢想している時、アナンタはその首をもたげて差しかけ、天蓋とする。この夢想が世界を創るのだという。
人間の姿をとることもあり、ヴィシュヌの化身と言われるクリシュナの異母兄、バララーマとなる。しかしある日、物思いにふけっていたところ、口から蛇が這い出てしまい、以後、バララーマは魂の抜け殻になってしまったという。
一般的にはシェーシャの名で呼ばれる。
ラハブ 《Rahab》 出身地:イスラエル
ユダヤの海龍であり、全身水でできている。『旧約聖書』の『ヨブ記』に登場し、ヤーウェと戦って頭を割られ、身体を刺し貫かれて死んだ。
名の意味は「凶悪」「嵐」などで、ユダヤの民が敵対するエジプトを呼ぶ時の名でもあった。ユダヤの伝承では、神が天地を創造するにあたって、まず水でできたラハブの身体をふたつに引き裂いて上下に分け、天と地に与えたという。天に与えられたラハブの身体は雨や雪などに、地の方は海や川などになった。この水がエデンの園に降る雨となった時、アダムに「海の天使」の知恵を授けたという。
また、モーゼが紅海を渡った時に左右に分かれた水も、ラハブが再び神に打たれたためという伝承もある。
ムチャリンダ 《Muchalinda》 出身地:インド
仏陀が悟りを開いた菩提樹の根元に住んでいた大蛇の精霊。嵐に気づかずに瞑想していた仏陀にとぐろを巻き、喉を広げて傘にして嵐を防いだ。
グクマッツ 《Gukmaz》 出身地:メキシコ
古代マヤ文明の叙事詩『ポポル・ブフ』に登場する海蛇。緑と青の羽毛をもつとされる、天地創造にかかわる神でもある。
イルルヤンカシュ 《Illuyankas》 出身地:アナトリア
ヒッタイトの古い神話に登場する、海を支配する凶暴な龍神。洪水の象徴と言われる。嵐神との争いが有名。一度は勝利したが、女神イナラシュの計略にはまり、宴席で動けなくなるまで食べさせられて、その場で嵐神に復讐された。
イルルヤンカシュは、人間にはあまり歓迎されない神であったようだ。
イツァム・ナー 《Itzam Na》 出身地:メキシコ
双頭のイグアナの姿をしたマヤ神話の火の神。両性具有である。最高神フナブ・クを父に持ち、天空、昼と夜、食べ物、薬、文字を司る。4本の柱に囲まれたベッドである「世界の家」に浮かんでおり、両性が結合すると4隅から4匹のイグアナが湧き出てくる。雌である背にはトウモロコシが生えており、雄である太陽のような顔から生命を与えられ、ベッドの天蓋から降り注ぐ雨によって、豊かに実っている。人間にトウモロコシとココアを紹介し、ゴムの利用法を教え、文字を発明するなど、文化を広めた。
その名は「火と家」という意味であり、インドのアグニ神らと同じく、家の火の神である。カマドの各部分がイツァム・ナーそのものであると考えられた。
青龍 《Seiryu》 出身地:中国
中国神話で四神と呼ばれる聖獣のひとつ。東西南北の方位を守護するが、このうち東方を守護した。中国の東方には東シナ海が広がっており、青龍は海の神格化であるといえる。
龍は中国では特別な存在である。全ての生き物が龍から派生したという考えまであり、皇帝の絶対権力と結び付いて、最も神聖な存在として考えられるようになった。歴代皇帝は好んで自分の出自を龍と関係あるものとして書かせたほどである。
中国で広く崇められ、漢代には厄よけの言葉として四神の名が鏡に刻まれている。
パトリムパス 《Patrimpas》 出身地:リトアニア
スラブの第1神格。人の頭を持つ蛇神だが、麦の穂の冠をかぶった若い男としても描かれた。海と水の神で、人間の基本的欲求を満たすために必要なものを与えてくれる。
ケツァルコアトル 《Quetzalcoatl》 出身地:メキシコ
アステカ神話の創造神のひとり。トルテカ族の太陽神にして、金星の神。「羽毛を持った蛇」と呼ばれ、鳥類と爬虫類の属性をあわせもつ。この点は古代メソポタミアの「ヘビ=ハトの神々」に通じるところがある。神々の父であり母でもある老神ウェウェテオトル(オメテオトル)の4神の息子の3番目で、白い神と呼ばれ、風と生者の世界である西方を司る。創造と破壊の2面性を持つ神で、「死」を象徴する兄弟神のショロトルと背中合わせに結合した形で表される。
ケツァルコアトルを含めた4神の兄弟は勢力争いを繰り広げ、勝利をおさめた者が新たな世界が創造するということが繰り返される。最後に勝ったケツァルコアトルが現在の世界を創り、地下世界ミクトランから貴重な骨のかけらを持ち帰った。ケツァルコアトルは自らの体を傷つけ、その骨の粉に自分の血をかけることによって人間を創り出す。と、神話の中では英雄的な存在なのだが、現実での民間信仰での主神はケツァルコアトルの弟ウィツィロポチトリであり、ケツァルコアトルは彼の手によってトゥーラの都から追い出されてしまっている。しかし、いつか再び戻ってくると信じられ、恐れられた。
アステカ帝国の最後の王モンテスマは、侵略者コルテスをケツァルコアトルの再来と誤解し、帝国を悲劇に導いた。
白龍 《Pek Young》 出身地:朝鮮
朝鮮の守護神。文字通りの白い龍で、白は朝鮮の国を表し、龍は東の方角を表す。すなわち、東の水平線から昇る太陽の光を神格化したものである。朝鮮の国の名自体が、「朝日の美しい」という意味であり、白龍は国の名を内に秘めた神龍なのである。
また中国と同様、朝鮮の王たちは自分の家系を龍の末裔であると考えたのだ。
マカラ 《Makara》 出身地:インド
河や湖に棲息していたといわれる巨大な魚の一種で、ワニを基本とし、カバや象、龍(ナーガ)の特徴を合わせ持った複合獣である。ガンジス川の女神ガンガーや水の神ヴァルナなどが、マカラの背に乗って旅をしたという。
『大唐西域記』には、ある商人の船がマカラに襲われた話が記されている。
マヤ 《Maya》 出身地:メキシコ
太陽の民マヤ族を護る大地の龍である。全ての植物の育成を司り、生き物たちに恵みを与える。水と火、女と男を表す双頭を持ち、片方の口には人間の顔をした太陽がくわえられている。
ガンガー 《Ganga》 出身地:インド
インド神話のガンジス川の女神。パールバディの妹。
人間の姿に変身したガンガーはプラティーパ王の息子シャーンタヌと結婚し、『マハーバーラタ』の英雄ビーシュマの母となる。またシヴァとの間に軍神カルティケーヤをもうけた。
コワトリクエ 《Cowatlikue》 出身地:メキシコ
アステカの大地の女神。アステカの部族神ウツィロポチトリの母とされる。
2)龍王
龍神に次ぐ力を持つ龍たちである。龍神に及ばないのは、彼らの強さが肉体的なものでしかすぎないからである。肉体と知恵のバランスがとれていないのだ。しかし個性的な者も多く、一面では古くから人々に親しまれてきた存在でもある。
ウロボロス 《Ouroboros》 出身地:ヨーロッパ
宇宙の統一や永遠を象徴する自らの尾を噛み円環となった蛇。もともとは古代ギリシアの世界を囲むとされた巨大な蛇であったが、その奇妙な姿から「完全」「不死」「永遠」「世界」「叡知」などのさまざまな象徴的意味を獲得し、ついには自身すらも象徴的な存在になった。
その姿は「始源的統一」「永劫回帰」などの意味をもつとされる。中世ヨーロッパにおいて魔術の王として崇拝され、特に錬金術師に崇拝されていた。また翼を持ったウロボロスは揮発性物質のシンボルでもある。蛇が脱皮を繰り返す姿は、古くなった肉体を捨て、新しい生を得るということで「誕生と死の結合」を意味していると考えられており、この二つの概念が合わさって生み出された姿がウロボロスである。ゆえに、ウロボロスは永久に保持する力をもっていると考えられ、自己回帰の象徴とされた。
数学で使われる無限大の記号も、ウロボロスのイメージから作られたと言われる。
八岐大蛇 《Yamata no oroti》 出身地:日本
日本神話に登場する巨大な大蛇。8つの谷と8つの山を覆うほどの大きな身体には苔や桧や杉が生い茂り、樅の芽吹いた8つの頭と8本の尾を持つ。目はホオズキのように赤く、真っ赤にただれた腹からは血が流れ出ているという。もともとは水神として崇められていた。
毎年、高志(こし、越)の国から降りて来て脚摩乳、手摩乳の子を生け贄として要求し、それを食っていた。奇稲田姫に一目ぼれした素戔嗚尊は、彼女を助ける代わりに嫁として迎えることをふたりに承諾させ、八岐大蛇が現れるという淵で、奇稲田姫を櫛に変えて髪にさし、大蛇の好物である酒で満たした8つの瓶を用意して待ち構えた。大蛇はその酒を飲み干して酔い潰れ、いびきをかいて寝ているところを、素戔嗚尊が十握剣を使って、全ての首を切り落として退治した。素戔嗚尊は大蛇の尾を切り裂いて、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ、後の草薙の剣)を手に入れた。
出雲地方の水害を象徴したものともされる。
ペンドラゴン 《Pen Dragon》 出身地:イギリス
イギリスで騎士の盾などに描かれていた紋章に登場するドラゴン。中世のブリテンまたはウェールズの王権を象徴する。「最大のドラゴン」という意味。
アーサー王もその父ウーサーもこの名で呼ばれた。
ヴリトラ 《Vritra》 出身地:インド
インド神話のアスラのひとり。名は「宇宙を覆う者、宇宙を塞ぐ者」の意。干ばつを起こす悪龍。
ヒラニヤークシャやヒラニヤカシプの父カシュヤパが神に対抗できる生き物を授かるために儀式を行い、その結果炎の中から誕生したのがヴリトラである。
彼は地上の7つの川を占領し、太陽を暗黒に包んで地上を飢饉におとしいれていた。彼はインドラ神を倒すために生まれ、インドラの目前で巨大な龍に変身して戦う。インドラは1度ヴリトラに飲み込まれてしまう。この時インドラは緒天の助けで、ヴリトラがあくびをしたところで逃げ出してくる。そこでヴィシュヌ神の仲介によって、和平条約が結ばれた。この時ヴリトラは「木、石、鉄、乾いた物、湿った物のいずれによっても傷つかず、インドラは昼も夜も自分を攻めることができない」という条件を勝ち取った。インドラはこの龍を倒すため木、石、鉄、乾いた物、湿った物のいずれでもない聖者の骨からヴァジュラという武器を作り、それを使って昼でも夜でもない夕暮れ時にヴリトラを撃退した。ヴリトラが倒されると、宇宙の塞がれていた穴が開いて、地に大雨が降りそそいだという。しかしヴリトラは毎年甦るので、この戦いも毎年行われ続けている。
この戦いは自然現象を神格化したものとされていて、つまり乾燥した夏の象徴がヴリトラであり、それを倒すインドラは雷と雨期の象徴であるわけだ。だから、この戦いは毎年行われなくてはならないのである。
ユルング 《Yurung》 出身地:オーストラリア
オーストラリアの原住民アボリジニの伝説に登場する虹の大蛇。医術や未来予知、降雨の力を授けてくれる。空にかかる虹は、身を持ち上げた、もしくは疲れて横たわったこの龍神の姿だという。
ホヤウカムイ 《Hoyau kamui》 出身地:日本・蝦夷
アイヌ伝承に語られる湖の主とされる蛇神で、地方によって「サクソモアイプ(夏に語られぬ者)」とも呼ばれることがある。その姿は頭と尾が長く、胴体が太くなっていて、背には翼がはえ、鋭くとがった鼻先をもち、目の縁と口の周囲が赤いとされている。
ホヤウカムイが住む湖は、異常な悪臭が漂うため近づくことができないと言われており、無理に近づこうとすれば悪臭によって皮膚が腫れたり、前進の毛が抜け落ちてしまうと言われる。
クエレプエレ 《Kerepres》 出身地:スペイン
翼を持った龍。地底に通ずる泉や海底に棲み、財宝を守っていると言われる。
成長段階では陸中の泉に棲み、人間や家畜を襲ってその血を吸うという。クエレプレに襲われないようにするには、大麦とトウモロコシで作ったパンを供えるとよいと伝えられる。
ナーガ・ラジャ 《Naga Raja》 出身地:インド
インド神話の半蛇人。ナーガとは蛇(コブラ)のことで、蛇の生命力と不思議な生態が神格化されたものがナーガ族である。人間の上半身と蛇の下半身を持つ者や、複数の頭を持つコブラの姿した者、中には見事な翼を持つ者もあり、いずれも美しい外見である。
ナーガ・ラジャとはナーガ族の中でも強力な力を持つ者、つまり王族のことをこう呼ぶのである。それらの中でも著名な者としては、ナーガたちの母神カーリヤ、その息子であり1000の頭とあらゆる魔法の源泉である如意宝珠を持つシェーシャ(アナンタ)、神々とアスラが戦っていた時代から大地を支えているというヴァースキ、賢者カーシャパの息子でクリシュナ神の加護を受けたカーリヤ、干ばつを起こす悪龍ヴリトラなどである。
乙姫 《Oto hime》 出身地:日本
海の神である大綿津見神(おおわたつみのかみ、豊玉彦神のこと、大海神とも)の娘の豊玉毘売命(とよたまひめのみこと)のこと。
無くした兄の釣り針を捜しに海の宮殿を訪れた天津神の山幸彦(やまさちひこ)こと彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)に見初められて結婚した。3年の間、ふたりは睦まじく海神(わだつみ)の国で暮らしたが、山幸彦は兄の釣り針を返しに地上へ帰っていった。釣り針にかけられた呪いと海神の助けにより、山幸彦の国は豊かになり、海幸彦の国は貧しくなった。貧した海幸彦は弟の国を攻めるが、潮満珠と潮乾珠で懲らしめられ、山幸彦の軍門に下った。海の民・隼人が筑紫朝廷に隷属するのを表した神話である。
出産の際に豊玉毘売命は山幸彦に「決して子を産んでいる所を見てはいけません」と言ったが、山幸彦は好奇心に耐えかねて覗いてしまう。豊玉毘売命は本来の姿の八尋鰐(やひろわに)の姿になったのを見た山幸彦は驚いて叫んでしまう。豊玉毘売命は恥じて、海中へ去ってしまう。その時の子がうがや草葺不合尊(うがやふきあえずのみこと。産屋を葺き終わらぬうちに生まれたの意)で、玉依姫に育てられた。
蛟 《Mizuchi》 出身地:日本
語源は「水の神」という日本の古語。中国では「蛟(こう)」と呼ばれ、それが日本に伝来したという。
水を司る蛇神で、首の周りに首輪のような白い模様があり、背中には青い斑点がある。体の横側は錦のような5色の光沢に彩られていて、尾の先には堅いコブがある。姿も役割も龍によく似ているが、顔に角がある者がいるところが違っている。
湖や池、河などの淡水に棲む泳ぐ生き物の支配者であり、2600匹の魚が棲む池には、どこからともなく蛟がやってきて、主になると言われている。毒気を吐いて人に害をなすとも言われる。
ナーガ 《Naga》 出身地:インド
インドの蛇神。水と豊饒と生殖の神。人面蛇身で、7層に分かれている地下世界の内、最下層であるパーターラに住み着き、彼らの持つ世界最高の宝石の数々で、地下世界を照らしているという。
女性のナーガはナーギニーと呼ばれ、皆大変美しく賢いと言われている。生と死の両面を司っており、敵を一撃で倒すことのできる猛毒と、体に受けたどんな傷も癒すことのできる不死身の力を持っている。また蛇の神に相応しく、誰にも気づかれずに不意打ちをすることもできる。一般に不意打ちと策略を好むとされるが、例外も多い。
東南アジアでは安産の神とされ、カンボジアのアンコールワットの遺跡はナーガの都と呼ばれるように、ナーガの彫像が多数あり、ナーガ信仰が篤かったことが偲ばれる。
ヴィーヴル 《Vouivre》 出身地:フランス
翼竜ワイバーンのもとになった、コウモリのような皮の翼をもつドラゴン。後に翼をもった美しい女精霊となる。天女のように人間と結婚もできた。
このドラゴンの一族はすべて女性であるといい、普段は額に美しいガーネットをはめ込んだ女性の姿をしているという。このガーネットを手にした者は、さまざまな魔法を使うことができるとして、多くの人間がヴィーヴルからガーネットを奪おうとした話が残されている。また、このガーネットを奪われたヴィーヴルは、その人間の言いなりになるという。
ラテン語の[Vipera(名)マムシ]を語源とする。
野槌 《Nozuchi》 出身地:日本
日本の古語の「野の神」が語源で、元々は神であり、地脈を司る精霊であるが、凶暴な性格を強調された姿で考えられることが多い。柄の取れた槌のような形をした蛇で、ツチノコの姿に近い。頭の先から尾の先まで同じ太さで、体全体は平たくなっており、頭の端には裂け目のような大きな口が開いている。
山に棲んでいて、木の陰や籔の中に潜んでいるという。その気性は荒く、人間を見ると噛み付いて危害を加えようと追ってくる。横になって転がりながら追ってくるという姿は、一種のユーモラスさを感じさせる。
伊弉諾尊と伊弉冉尊の子供たちのひとり、野の神・茅野姫(かやのひめ)であったとされる。
夜刀神 《Yato no kami》 出身地:日本
『常陸風土記』に登場する。頭に角の生えた蛇の姿をして現れ、その姿を見たものの一族は滅ぶと伝えられる。
谷や湿地帯に棲む日本土着の神であったが、大和朝廷にまつろわぬものとして、迫害、殺戮されたという。
3)邪龍
あらゆる龍の中で最も知性が低く、すべて本能だけで行動する。その巨体は純粋なパワーにあふれ、破壊と食欲の衝動がすべてにおいて優先する。欲求を満たそうとするその純粋なまでの行動は、ある意味で混沌のパワーを象徴しているといえるだろう。
ヴァスキ 《Vasuki》 出身地:インド
インド神話創世以前の太古の蛇神。ナーガ族の王ナーガラジャ。
混沌期の乳海を攪拌の棒として使われた。また、神々の不死の食料に毒を吐こうとしたため、シヴァに捕らえられ彼のベルトにされた。
アジ・ダハーカ 《Agi Daharca》 出身地:ペルシア
ペルシャ神話の暗黒神アンリ・マンユに創造された三頭龍。光明神アフラ・マズダが天空に星をちりばめた時、アジ・ダハーカは蛇のように空へ跳ねていき、それらの星に対応する惑星を作った。以来、惑星からの有害な影響が地上へもたらされることになったという。
アフラ・マズダの息子アータルの神話では、一時期、地上を支配していた。その支配は「欠乏と貧困、飢えと渇き、老年と死、悲しみと嘆き、極端な熱さと寒さ、そして悪魔と人間の混淆」を地上にもたらした。だが、アータルと戦って打ち負かされ、深い大洋の底へと引き渡された(一説には高い山の頂に鎖でつながれた)。しかし、世界の終わりにはいましめから逃げ出し、殺される前に人類の1/3を殺戮することを運命づけられている。
ラドン 《Radon》 出身地:ローマ
100の頭を持つ龍。ヘラクレス12の難業のひとつ、ヘスペリデスの金のリンゴの話に登場する龍で、金のリンゴのなる木を守っている。
ヘラクレスはラドンの弱点である喉を矢で射貫くことによりラドンを倒すことに成功するが、ヘスペリデスの園に足を踏み入れることができない。そこでヘラクレスに代わって金のリンゴを取ってきてもらうことになったのが、アトラスという巨人である。
金のリンゴはゼウスとの結婚祝いに、ガイアからヘラへと贈られたもので、西の果てでアトラスの娘たちに育てられているという。
キングー 《Kingu》 出身地:バビロニア
バビロニアの神。ティアマットの2番目の夫である。最初の夫・アプスーが、息子である神々との戦いに敗れて殺された後、ティアマットはこのキングーを次の夫に選んだ。
彼はティアマットから法律を刻んだ石板『天命の書板』を与えられた。これにより、神々すべてを支配する権利を与えられた。
また彼は月神ともされており、後にシン(シナイ山の月の神)と呼ばれる月神として崇められた。砂漠のただ中にあるシナイ山の山頂に玉座を持ち、長らく鎮座していた。
このシナイ山では、エジプトからユダヤの民を率いて脱出したモーゼが、この山でヤーウェに出会って、『十戒の石板』を授かっている。ここでヤーウェはシナイ山の神であると名乗っていることから、モーゼに与えられた石板は、ひょっとすると『天命の書板』であったかもしれない。
ヤム 《Yam》 出身地:パレスチナ
ウガリット神話に登場する、地上の海や川を支配するとされる龍。主神バアルに敵対するとされ、これによって倒されるという。
バビロニアの神話に登場するティアマットと同一の存在であると考えられている。
ファフニール 《Fafnir》 出身地:北欧
ゲルマン神話に登場する邪悪なドラゴン。空を飛び、口から炎を吐き出す凶暴なドラゴンであり、その血を浴びることにより不死の力を得ることができたという。ファフニールの心臓を焼いて食べたジークフリートは、鳥の言葉を理解できるようになり、この世で一番の賢さをも手に入れたと言われている。
ワーグナーの『ニーベルンゲンの指輪』にも登場する。
ニーズホッグ 《Nidhhoggr》 出身地:北欧
ゲルマン神話における最も邪悪な存在。黒い飛龍であり、「怒りに燃えてとぐろを巻く者」「あざ笑う殺人者」「恐るべき咬む者」とも呼ばれ、世界全体を支えているイグドラシルというトリネコの大樹の根の1本に噛み付き、世界の滋養を奪い、世界に暗い影を及ぼしている。そして世界の終末ラグナロクの日には、イグドラシル全体を倒してしまうとされる。
霧深きニフルヘイムにわき出ているフヴェルゲルミルの泉という、有毒の熱泉の底に潜んでいる。ニーズホッグはイグドラシルの根の滋養だけでは飽きたらず、死者を喰らい、その血をすするものとされている。
『エッダ』には世界が終末を迎えた後に新しく生まれる世界で、閃光を放ちながら死者を乗せて舞い上がり、広野の上を飛び、やがて沈むと謳われている。
クロウクルー・ワッハ 《Crowcru Whah》 出身地:アイルランド
邪眼バロールがアガートラーム(ヌァザ)を倒すために召喚した悪龍。後に光明神ルー(イルダーナ)
に倒された。
ムシュフシュ 《Mushussu》 出身地:メソポタミア
古代バビロニアの天地創造神話『エマヌ・エリシュ』に登場する、中近東はシュメール神話の怪物。頭と胴と尾は毒蛇で、前足が獅子、後ろ脚が鰐、さらに1対の角まで持つ。シュメール語で「怒れる蛇」の意。
主神マルドゥークと対立する怪物のうちの1体。ティアマトが退治された後は、神殿を守護する聖獣になったとされている。
ピュートーン 《Python》 出身地:ギリシア
デルポイの神殿に棲んでいた龍。ガイアの子でテュホンの母親。この上ない予言の才をもった蛇で、古代より神託所を守ってきた魔物である。「ウソをつく霊の君主」とも呼ばれ、自分に都合のよい予言を行うこともあったが、ガイアの意志に反するような予言だけは絶対に行わなかったという。
後にアポロンに惨殺され、その座を奪われた。
トゥナ 《Tona》 出身地:ポリネシア
人間の少女を誘惑した話で知られるウナギの怪物。恋人になった少女の名は「ヒナ」と言う。
トゥナに飽きて他の男性を求め始めたヒナは、英雄マウイと恋に落ちる。それを知ったトゥナは、波を操って二人に襲いかかるが、逆にマウイに切り裂かれて殺された。その後、トゥナの頭部が埋葬され、そこから最初のココヤシの樹が生まれたのだという。
サーペント 《Serpent》 出身地:イギリス
海に住む龍。シードラゴン。太平洋や南大西洋で数多く出現し、頭部は亀や馬に似ているとされている。
サーペントを含め、海の怪物というものは昔からいろいろと創造されているが、これは海の広大さに対する恐怖、全てを生み出した母に対する畏敬の念によるものだろう。
清姫 《Kiyo hime》 出身地:日本
愛を誓ったはずの旅の僧・安珍に裏切られ、恨みの果てに蛇に変じた未亡人。安珍は鐘の中に隠れたが、鐘ごと炎で焼き尽くされた。
フンババ 《Funbaba》 出身地:オリエント(中近東)
『ギルガメシュ叙事詩』に登場する杉の森の巨人。
タラスク 《Trasque》 出身地:フランス
南フランスのタラスコンに棲むドラゴン。背はガメラのような刺のある甲羅で、6本の足があり、尾は長く先がスペード型の尖っている。ライオンのような頭を持ち、毒ガスの息を吐いて人獣を殺し、さらには糞は空気に触れると炎をあげて敵を焼くという。好きなことは子供を喰らうことと、若い娘を犯すこと。
キリスト教の説話集『黄金伝説』では、聖女マルタが十字架と聖水でもって弱らせた後、自分のガードルで捕らえた。水から引きずり出されたタラスクは、村人総出でめった打ちにされて殺されたとされる。こうした主の力を目の当たりにしたタラスコンの人々はキリスト教に改宗し、近隣の人々もそれにならったという。
バジリスク 《Basilisk》 出身地:リビア
コカトライスと同一の魔獣だが、もともとは蛇の怪物であった。名は「小さな王」を意味するギリシア語に由来する。バジリスクもコカトライスも蛇あるいは蜥蜴と鶏の合体した獣として描かれるが、名前の持つ意味を考えると、蜥蜴の要素が多いものがバジリスク、鶏の要素が多いものがコカトライスと分類される。
バジリスクは雄鶏が生んだ卵を蜥蜴が温めて孵化させると生まれるとされ、雄鶏の声を聞くと死んでしまう。目を合わせた者を石化させる瞳を持ち、口から毒気を発散している。その毒に少しでも触れたならば動物は即座に息絶え、飛ぶ鳥は落ち、岩は砕けるという。この毒気が周囲の植物、水を枯らせてしまうので、バジリスクが住むところは必ず砂漠になってしまう。また、鶏が夏に腐った餌を食べて産んだ卵から産まれるともいう。
また、蛇の王とされたバジリスクは、ケルト系の蛇信仰と結び付き、一度死んで再び復活する儀式の際のモチーフとしても用いられた。
ワイバーン 《Wyvern》 出身地:イギリス
2枚の羽と2本の足を持つ細い身体をした翼竜。翼には鉤爪があり、これが前足の代わりである。
双頭の獅子又は鷲など、盾に描く紋章のための図案として生み出されたものと言われるが、翼竜は神話にもしばしば見られ、単にそうしたデザイン上のセンスから出てきたものではない。16世紀まではウィヴァーと呼ばれ、蜥蜴のような姿をした、羽根のある小さなドラゴンであった。
ワイバーンの姿は、ドラゴンの紋章と区別されるようになったため、現在の姿に落ち着いた。
白娘子 《Hakujosi》 出身地:中国
人間の女性の姿をして現れる白蛇の精。同情の余地もないほど残虐な人食い妖怪であるとされている。
その後、『西湖三塔記』や『三言二拍』などに登場し、悲劇のヒロインとして多くの同情を集めた。
蟒蛇 《Uwabami》 出身地:日本
一般的に大蛇、特に熱帯産のニシキヘビ、王蛇などを指す。
また、大酒飲みに対してこのように言う。
コカトライス 《Ckatrice》 出身地:リビア
バジリスクと同じものであるが、コカトライスの方は名前の持つイメージから考えると鶏の要素が強いように思われる。人間を石に変えてしまう力があるとされる。
ワーム 《Worm》 出身地:イギリス
古いタイプの龍。ミミズや、古語では蛇のことも意味する。元来地中に棲み、龍脈に沿って移動していた。彼らのエネルギー源は龍脈の気であり、彼ら自身大地の力を体現する霊であった。日本での蛟や野槌の原型と、意味を同じくする。彼らが単なる怪物に堕とされたように、このワームも今では、すっかり愚鈍な地龍として扱われている。
お伽話では、水辺や沼地に棲み、若い乙女を好物とし、財宝の番をしているというように、ワームに襲われた話は、たいがいが水辺である。またイギリスでは、ドラゴンを古来よりこの名で呼んでいた。
猪豚蛇 《Chotonda》 出身地:中国
豚のような鳴き声を上げながら襲ってくるという蛇の怪物。体長は3尺ほどで、胴から4本の足が生えており、全身が毛で覆われている奇妙な姿をしていたといわれている。
宋の時代、訓練中の兵士の前に現れ人間を飲み込もうとしたところ、呪術を得意とする軍人に退治された。
アスプ 《Asp》 出身地:エジプト
見た者すべてを眠らせる不思議な視線をもつ毒蛇(コブラ)。視線で寝むらせ、その毒牙にかけることから、死の蛇にたとえられるようになった。
アスプは常につがいで暮らす、情合いの深い蛇だったと伝えられる。もしも一方が他の動物に殺されたら、もう一方が必ず復讐したという。
当廟 《Toubyou》 出身地:日本
中国・四国地方でいう想像の動物で家系につく憑物のひとつ。壷に小蛇を封じて家の神として奉り、家運の繁栄を願うと、その霊が家系に敵対する他の家人にとりついてこれを悩ませるという。これは、家の守護霊として福運を授け、夢に見ると金がもうかるという在来信仰と、中国から伝えられた蛇蠱の話が結びついた信仰らしい。
蠱とは非に害をなす毒虫のことで、そこからそれを利用した呪術のことをさすようになった。
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