VII.獣族



  1)神獣
 神そのものか、もしくは神の乗り物である獣たち。神の猛々しい力の象徴と考えられ、邪悪なるものとの戦いにはその力を存分に発揮するだろう。世界各地には様々な神獣たちがおり、いずれも古い歴史を持つ。獣族の中で、最も高い地位の存在である。


     バロン 《Barong》  出身地:バリ島
 バリ島などで信仰されている聖獣。男性で右手の魔術(聖なる魔術)の使い手。
 もとは人間を食う魔物であったが、供物を捧げられて人間たちの守護神となった。同じくバリ島に伝わる魔女ランダと対極をなす存在で、宿命のライバル同士となっている。
 姿は獅子に似ているが、顔は人間に似ている。バリ島の伝統舞踊のバロン・ダンスで被られる仮面によると、真っ赤な顔に黄金のたてがみを蓄え、これも黄金の冠をかぶり、丸く飛び出た目玉に上顎から生やした2本の曲がった牙を持っていて、白い体毛に覆われた獅子という姿である。その金の顎髭を水に浸すと、魔女ランダに対抗するための聖水を作ることができる。
 バリ島においては、善の象徴バロンと悪の象徴ランダが共にあってこそ世界が完全な姿であると考えられ、バロンとランダの戦いは永遠に決着がつくことがないという。

     ナラシンハ 《Nrisinha》  出身地:インド
 ラクシャーサの魔王ヒラニャカシプの退治のために遣わされた、上半身がライオン、下半身が人間の姿をした半獣人。ヴィシュヌ第4の化身。
 ヒラニャカシプというアスラが、兄を殺したヴィシュヌに復讐するため苦行を積み、ブラフマーから「昼も夜も、家の中でも外でも、神と人間と獣とアスラとナーガがいかなる武器を用いても殺すことができない」という不死身の体を手に入れる。彼はその体を利用して三界を征服し、神々の崇拝を禁じて自分を崇拝させるなどの暴虐の限りを尽した。そこでヴィシュヌは、神でも人間でも獣でもない半人半獣の姿を取り、家の外でも中でもない王宮の入り口で、昼でも夜でもない夕暮れ時に、鋭い爪でヒラニヤカシプを切り裂いて殺してしまう。そしてヒラニャカシプの弟のプラフラーダが王位を継ぎ、善政をしいた。プラフラーダはこれを記し、祭りには獅子面を被せて舞を踊らせた。
 インドでは、いまだに人気の高い神である。

     開明獣 《Kaimeiju》  出身地:中国
 崑崙山の正門を守護する。9つある門のうち、東にある開明門の前に立っている。「山海経(せんがいきょう)」では、9つの人面の頭と、虎のような体をしているとされる。

     玄武 《Genbu》  出身地:中国
 四方を守護する聖獣のうち、北方を守護する。万物の基本となる5元素の中では、水の属性を持ち、亀とそれに絡み付く蛇の姿で描かれる。後には簡略化されて単に亀を描くこともあった。
 北方と水を表す色である「玄(黒)」と、甲羅をまとっていることから「武」の字がとられこの名がついた。亀は大地を表し、龍は日月の通り道を表す。元来、玄武はこうした宇宙観を表すものであった。それが中国北方の黒竜江と寒冷な大地のイメージが重なって北の守護神となったと考えられる。
 「玄武」は星の名前でもあり、28宿のうち北斗七星の総称を指す。後に玄天上帝という道教の神となる。
 ちなみに残りの守護獣は、東の青龍、西の白虎、南の朱雀。

     倉稲魂命 《Uka no Mtama no mikoto》  出身地:日本
 宇迦之御霊とも。稲荷大神として知られる、日本記紀の穀物の神。死して五穀を残す。
 大宜都比売(おおげつひめ)、保食神(うけもちのかみ)、豊受姫神(とようけびめ)などと並んで、大御饒津神(おおみけつかみ、日本記紀の中で食物を司る神の総称)と称される。

     キマイラ 《Chimaira》  出身地:エジプト
 ギリシア神話のテュフォンとエキドナの間に生まれた怪物で、ライオンの頭に山羊の胴体、蛇の尻尾を持ち、口から炎を吐き出す。名は「雌山羊」の意味。キメラともいう。
 リュキアで人々を苦しめていたが、天馬ペガサスに跨がった英雄ベレロフォンによって退治される。
 起源はヒッタイトだが、後期になるとギリシア神話に組み込まれ、獅子の尾、蝙蝠の羽を持つ姿として登場するようになる。

     アヌビス 《Anubis》  出身地:エジプト
 死者と深い関係にある神。インプゥ神とも言われる。ジャッカル、または犬の顔を持つ人の姿で表される。
 オシリス神以前の死の主神であった。ミイラ作りに深く関わっており、セトに引き裂かれたオシリス神の体をつなぎ合わせた時、アヌビスの薬によってミイラとして完成させた。また、死者の裁きを行う神として、死者の生前の行いを判定する。「2つの真理の間」において、太陽神ラーの天秤に死者の心臓と正義の神の像、あるいは羽根を乗せて、釣り合えば死者は正しいと認められたという。
 後の時代には女神イシスの息子とされ、その護衛者とされる。

     スフィンクス 《Sphinx》  出身地:エジプト
 ギリシア神話においては、地の蛇の女神エキドナの娘である。人間の女性の顔をしていて、鷹の翼と女性の乳房を持ち、下半身はライオンの姿をしているという。胴体は犬で、蛇の尾をしているという説もある。
 女神ヘラの命令によって、堕落した生活を送っているテーパイ人を罰する為に、テーパイのピキオン山に居を構えた。この時に彼女が発したのが、有名な「朝は4本足で、昼は2本足、夜は3本足で歩くもの」の謎掛けである。スフィンクスはこれに答えられなかったものを食べていたが、オイディプスに謎を解かれ、崖から身を投げて自害したという。
 エジプトに残っている彫像のような、より古いスフィンクスは男性の人の頭に獅子の体を持っている。このスフィンクスが本来何と呼ばれていたか、そして何を表しているかは未だに謎のままである。ただ、少なくとも顔はファラオを表しているとみられている。

     カマプアア 《Kamapua'a》  出身地:ポリネシア・ハワイ
 ハワイ神話で人気のある、豚の姿をした神。好色で好戦的、その名は「豚の子」を意味する。農業神とも言われる。
 火の女神ペレに求婚した際、「ブタめ、ブタの子め!」ののしられたことに腹を立て、ペレと戦争を起こし、勝利した後にペレを妻とした。

     ナンディ 《Nandi》  出身地:インド
 乳白色の聖なる牝牛。インド神話のシヴァの乗り物であり、4つ足の獣の守り神である。インドでは牛は聖なる動物であるから、それに乗るということはシヴァが最も偉大な神であることを象徴しているのである。シヴァの従者として行動を共にし、彼のために音楽を奏でたりもする。
 シヴァは三日月の形をしたナンディのシンボルで額にある第3の目を囲んでいる。三日月は牛の角を表していて、イシュタルの頭にもついている。



  2)聖獣
 神獣と混同されがちだが、むしろ霊鳥に近い存在である。幻想の世界に生き、多くの人に信仰の対象として崇められてきた。それだけに傷つきやすく、その姿には儚さのイメージが漂っている。世界各地の動物信仰の有り様を物語っている獣たちである。


     麒麟 《Kilin》  出身地:中国
 中国の聖なる獣。獣たちの長であり、知性も高く、1日に数千里という距離を駆け抜けることができるが、その最中にどんな小動物をも踏み殺すことがないという。
 将来聖人になる赤子が生まれると、その家の前に訪れると言われている。
 牡が麒で牝が麟という説もある。

     白虎 《Byakko》  出身地:中国
 四方を守護する聖獣のうち、西方を守護する。万物の基本となる5元素の中では、金の属性を持ち、四季では秋を象徴する。
 四方の守護聖獣は、道教の祖である老子を神格化した太上老君に付き従っており、白虎は太上老君の右に控えているという。
 中国では虎は古来より神聖な動物であり、百獣の王といえば虎のことを指した。

     スレイプニル 《Sleipnir》  出身地:北欧
 死を表す灰色の体毛で、8本脚を持ち空も海も走る主神オーディンの愛馬。ロキが牝馬に変身して産んだ幻獣。
 死のシンボルでもある絞首台の木にもなぞらえられる。オーディンが冥界に行くときに首を吊った木も、名を「スレイプニル」といった。

     青牛怪 《Seigyukai》  出身地:中国
 太上老君が乗り物とした仙牛で、下界に降りては多くの災いを引き起こしたとされる。
 大秦国にたどり着いたとき、王とすりかわって宮廷を支配したが、後に本物の王が見つかって正体を暴かれ、大暴れしていたところを玄女娘娘と太上老君の弟子の徐甲によって、太上老君のもとへ連れて行かれた。

     パビルサグ 《Pa Bil Sag》  出身地:バビロニア
 半人半蠍の怪物。神学上重視された彼らは、様々な要素を追加されてきた。単なる蠍の尾を持つだけの人間といったものから、上半身が人間で下半身が馬、蠍の尾に鳥の翼、首の後ろから馬とも犬ともつかないような頭を持つというむちゃくちゃなものまである。この姿のパピルサグがギリシアに伝わりケンタウロスのもとになったと言われている。
 『ギルガメッシュ叙事詩』においては、この世の果てにあるマーシュ山の門を守っていたという。
 木星王マルドゥークが、巨龍キングーを引き連れた海の女神ティアマットと戦った時、ティアマット側について敗れている。

     アイラーヴァタ 《Airavata》  出身地:インド
 6本の牙を持つ巨大な白象。インドラの乗り物。「乳海」より生まれたとされる。太古の象は翼を持ち空を飛んだが、呪いをかけられ飛べなくなってしまった。

     八房 《Yatubusa》  出身地:日本
 『南総里見八犬伝』より。伏姫との間に、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌という八つの聖玉をもうけた、人の心を解する犬。
 滝田城城主・里見義実に飼われていた。義実が戯れに「敵将の首を取ってきたら、三女伏姫を嫁にやる」といったところ、その夜、八房はほんとうに首をくわえてきた。義実はためらうが、伏姫は自ら八房の嫁となり、城を離れて山で暮らし始める。だが、義実の家臣・金椀孝徳の鉄砲に倒れることになる。

     アンヴァル 《Aonbarr》  出身地:アイルランド
 ケルト神話の光明神ルーの愛馬で、「輝くたてがみ」という名をもつ。その背に跨がれば、落馬することはなく、風のように素早く、海の上をも走ることができた。

     バステト 《Bastet》  出身地:エジプト
 古代エジプトでは、猫は鼠を駆逐するものとして大変大事にされた。世界の飼い猫のルーツはエジプトにあるのだ。そうした歴史から、世界でも稀に見る猫の神がバステトである。バストともいう。
 太陽の恵みを象徴し、時には月の化身ともされる恵みの神としての一面と、暴力や破壊を司る戦の神としての一面がある。闇を支配する蛇アペプと戦って太陽神ラーを守ったと言われており、闇の中で抜き身の刀を手にして戦う猫の絵がパピルスに描かれている。愛の神ハトホルの性格も受け継いでいるらしく、歓喜と音楽と踊りも司っており、彼女への崇拝は陽気な行列によって行われていた。
 また、ヘロドトスの『歴史』には、このバステトを主神として崇めているブバスティスという街のことが書かれている。それによれば、バステトを崇める祭典には70万人もの人々が集まり、彼女の化身である猫は死ぬとミイラとして丁重に葬られるほど大切にされていたという。実際に猫のミイラは数多く発見されている。

     アピス 《Apis》  出身地:エジプト
 エジプトはメンフィスの最高神にして、運命を司る神プタハの聖獣である牝牛。第1王朝時代より崇拝されている。エジプト語では「ヘプゥ」。
 29の条件を満たした牝牛がアピスと認められる。主な特徴としては、眉間に白い斑点があり、背中には鷲のような形の模様が浮き出て、尾の毛は2重に生えていて、舌の裏にスカラベ(たまおしこがね)のような形のものがついている、といったようなものである。一度出産すると二度と子供を産めない特別な牝牛が、天から射し込んでくる光によって身籠もると言われている。アピスは常にこの世に1頭しかいないものとされ、どこかで新しいアピスとなる条件を満たす牝牛が発見されると、その時に生きていたアピスは儀式によってナイル川に沈められた。また、自然に死んだ場合は、ファラオのようにミイラにして丁重に弔われた。死の際に、アピスはオシリス神に化身すると言われている。

     風袋 《Hutai》  出身地:中国
 首陽山の山神で、人の姿でありながら虎の尾をもつという。雲を呼び雨を降らせる力があり、豊饒を呼び寄せる吉祥神として人々に崇められた。

     白澤 《Hakutaku》  出身地:中国
 この世の全ての知識を持つと言われる中国の聖獣。
 この獣に出会った黄帝が、この世の全ての妖怪の話を聞き、その図画と解説を書き写した。この書物は『白澤図』と呼ばれる世界最古の妖怪図鑑である。

     ユニコーン 《Unicorn》  出身地:イギリス
 イギリス文学にしばしば登場する、神聖な一角獣。名前も「一本角」という意味。純白の美しい体と、1メートル弱の堂々たるまっすぐな1本の角を額に生やした馬とされる。
 ユニコーンの角には神聖な力が宿っていて、角に触れるやいなやどんな病気もたちどころに癒え、どんな邪悪な力もたちまち打ち払われてしまうという。また、角だけになってもその力は衰えず万病に効く薬になるので、猟師たちはこぞって求めようとした。しかし、ユニコーンは賢く力も強いので、猟師たちの命がけの苦労もほとんど報われなかった。ユニコーンが唯一気を許すのは、汚れを知らない乙女だけであり、その膝で眠ってしまうという。それ以外の者が近づこうとしてもいつのまにか姿を消してしまう。
 純粋性や処女性の象徴であるが、中世の教会からは、7つの大罪のうちのひとつ「怒り」を司る悪魔の象徴に用いられた。

     ブラーク 《Brark》  出身地:イスラム
 イスラム教の始祖マホメットが乗り物としたとされる。俊足をもち、地獄と天国を旅したという。馬の体に女性の顔とロバの耳があり、尾には孔雀のような美しい羽飾りがある。また、体の色は銀色に輝き、ダイヤやエメラルドで装飾されているという。
 一瞬で天国と地獄を巡れるほどの俊足であると言われており、マホメットとともに天国と地獄を旅してきた後でも、出発前に倒れかけていたポットを、帰ってきてから受け止めることができたという。

     隗知 《Kaichi》  出身地:中国
 羊に似た姿で、頭に1本の角を持つ瑞獣。夏は涼を求めて水辺で過ごし、冬は風説を避けて松柏の森に棲んだとされる。邪悪に反応するという不思議な性質をもった獣で、裁判が公正に行われればその姿を現したという。
 古代中国では、法官のかぶる帽子のことを「カイチ」と呼び、罪の疑わしいものはこれに触れさせたと伝わっている。日本にも狛犬の一種として伝わり、東京日本橋と守護像となっている。

     ヘケト 《Hecete》  出身地:エジプト
 エジプトの、蛙の姿、または蛙の頭をした人間の姿で表される水の女神。多産性と復活のシンボルであり、王と王妃の誕生を司っている。
 天空神ホルスがまだ幼子の時、ナイル川の中洲でセトの化身・毒蛇アペプに咬まれ、母神イシスの看病の甲斐なく死に瀕した。その彼を救ったとされるのがヘケトである。
 彼女はまた創造の神クヌムの妻であり、彼の創造したもの全ての母なる女神となっている。しかし、彼女のイメージはギリシアでヘカーテとなって受け継がれ、現代でも夜と魔術と死の女王として、ヨーロッパの魔女たちの崇拝を受けている。

     シーサー 《Siesar》  出身地:中国
 中国の街で守護神として祭られていた石像。琉球地方では瓦屋根に取り付ける素朴な焼物の唐獅子像。その像は魔除けとされる。シーサーの魔よけの力は、もともとは火災に対してのものだった。沖縄では、死者の霊魂はみな火の玉となり、その一部が家に住み着いて火災を起こすと信じられていた。しかし、シーサーがいればこの火の玉を追い払ってくれるのである。
 「シーサー」は「獅子さん」からきているとも言われる。



  3)魔獣
 長い年月を経て獣が魔と化したものであったり、獣の姿をした神たち。世界各地に様々な形で伝承が残っている。知能は高いものから低いものまでいるが、最低限人間の言葉は理解できる。邪悪なものはいないが、力が強いので危険であることには変わりがない。


     ケルベロス 《Cerberus》  出身地:ギリシア
 ギリシア神話に登場する、獅子の体に3つの頭(50ともいう)を持ち、背中に無数の毒蛇が生え、龍の尾と黒く大きな牙を持つ獰猛な犬で、青銅の声を発する。台風の象徴たる巨人テュフォンと蛇神エキドナの間に生まれた由緒正しいモンスターである。地獄(冥府タルタロス)の入り口を守る番犬で、許可なく地獄に入ろうとする者や、地獄から脱出しようとする者を見張るのが役目である。
 ケルベロスは意外にも甘党で、蜂蜜ケーキが大好物である。古代ギリシアでは故人の埋葬の際に、冥府の河テュクスの渡し守カロンへの船賃として銅貨1枚と、ケルベロスに噛み付かれないように蜂蜜ケーキを棺に入れたという。
 また、へラクレス12の難業の最後にも登場し、彼はこの怪物の3つの首と尾を当時に締め付けて気絶させ、生け捕りにしたのだった。さらにこのケルベロスは日本にも伝わり、狛犬となった。神社の結界を守る番犬として、鳥居の奥に座っている。

     グリフィン 《Griffin》  出身地:ギリシア
 獅子の体に鷲の頭と前足と翼を持つ怪物。グリフォン、グリュプスと呼ばれることもある。オリエントが起源で、建築の修飾、紋章などに現れる。
 ギリシア神話では太陽神アポロンの聖獣で、北の果てにある未知の国スチキアで黄金の宝を守り、その宝を狙ってやってきたひとつ目のアリマスポイ人と争ったという。このように黄金を盗もうとする者には攻撃的になるが、性格はおおむね温厚で自分から人間や動物を襲うことはない。ただし、交配するために牝馬を襲うことがあり、その結果生まれるのがヒポグリフという合成獣である。

     アーマーン 《Aremarn》  出身地:エジプト
 『死者の書』に描かれた、裁きを受けた咎人の心臓を食べる怪物。鰐の顔、獅子の前脚、河馬の後ろ脚を持つ。

     ドゥン 《Dwon》  出身地:チベット
 チベット神話で語られる、地母神ドゥルガーの乗り物である白い虎。ヴィシュヌの化身であるとも言われる。

     ウルスラグナ 《Urusragna》  出身地:ペルシア
 ゾロアスター教の最高神アフラ・マズダの息子ミトラに仕えていた凶暴な猪で、ミトラの最大の武器である。鋭い牙をもってすべてのものを一撃で破壊してしまう。

     セルケト 《Cercete》  出身地:エジプト
 エジプトの蠍の女神。頭に蠍を乗せた女性の姿か、女性の頭を持つ蠍として描かれる。冥界の怪物のひとりであるネケブカウの妻とされ、女神イシスを助ける従者として、オシリスの埋葬や天空神ホルスの育児を手伝う姿が描かれている。
 毒を持つため、監視者や守護者としての役割が与えられており、セトの化身の毒蛇アペプを冥府で鎖につなぎ、監視する。また、ナイルの4つの源を守護する女神たちのひとりでもあり、豊饒神としての性質も持っている。

     猩々 《Syojo》  出身地:中国
 想像上の怪獣。人に似て体は狗の如く、声は小児の如く、毛は長く朱紅色で、面貌人に類いし、よく人語を解し、酒を好むという。また肉は珍味であり、食べると足が速くなる効能があるとされた。
 また、この猩々は能にもなっている。唐土の潯陽江にすむ霊獣の猩々が、親孝行の高風に酌めども尽きぬ酒壷を与えるという話で、酒に酔って波の上を舞う「乱(みだれ)」が中心。『石橋(しゃっきょう)』と並ぶめでたい曲。

     ラクチャランゴ 《Rakcharango》  出身地:チベット
 チベットに住む、血に染まった牝牛の魔物。ラマ僧を虐殺した仏敵・牛魔王ルゴンギエンポの別名か、その側近か、あるいは「ヤマーンタカ(死を克服するもの)」の別名かと思われる。

     オルトロス 《Ortros》  出身地:ギリシア
 ギリシア神話のヘラクレスの12の難業のひとつ、ゲリュオンの赤牛の話に登場する双頭の番犬。
 ゲリュオンという上半身が3体に分かれている凶暴な怪物は、美しい赤牛を飼うことで知られており、ヘラクレスはこの赤牛を生け捕りにしてくる試練を与えられる。その時にゲリュオンが最初にけしかけたのが番犬オルトロスである。しかし、オルトロスはヘラクレスの棍棒の一撃で死んでしまった。

     火鼠 《Kaso》  出身地:中国
 古代中国において南海の果てにある火山に住んでいるとされたネズミ。火の中に住んでいるといわれ、その毛皮はけして焼けることがないと伝えられたため、多くの人がこのネズミの毛皮を求めたという。
 日本では『竹取物語』で、求婚者の一人である阿部右大臣に、「唐土にある火鼠のかはぎぬ」を持ってくることができれば結婚します、とかぐや姫がいったことで知られる。

     ワーウルフ 《Were Wolf》  出身地:イギリス
 いわゆる人狼、狼男。普段は人間の姿をしているが、真夜中になると狼に変身する獣人。
 伝説化するにつれ、たんなる狼人間だったワーウルフにも凶悪なモンスターとしての様々な特徴が付加されていった。銀の十字架を溶かして作った武器以外では殺すことのできない不死身の体や、満月の晩に限って変身する体質、狼男に咬まれた者も狼男になってしまうという伝染性など、現代では当然のように扱われている狼男の特徴だが、これらの特徴は最初から備わっていたものではなかったようだ。
 こういった獣人のことを総称してライカンスローピィ《Lycanthropy》といい、もともとは人間を狼に変身させる魔術のことをさす。またこのライカンスローピィという言葉は医学用語では狼凶病のことで、自分を狼と思い込む精神病のことを指す。

     源九郎 《Genkurou》  出身地:日本
 源九郎狐。伝説によく現れる大和にいたいたずら狐。播磨の刑部狐(おさかべぎつね。姫路城の守護神、刑部大明神の正体と伝えられる老狐)の兄弟とされる。

     タムズ 《Tames》  出身地:スペイン
 スペインに住む蠍の怪物。イシュタルの夫タンムーズを起源に持つ。死と再生を象徴し、蠍に殺されたギリシアのオリオンのような伝説を残している。

     ストーンカ 《Stoneca》  出身地:ブルガリア
 ブルガリアに棲息する巨大な牝牛の怪物。ブロンズのような皮膚を持ち、その咆哮は大地を揺るがす。
 牛の魔獣は、太古より雷雲の化身と考えられていた。その声が雷鳴を表し、疾走する姿は黒雲が大空を駆け抜ける姿を模しているのである。

     猫又 《Nekomata》  出身地:日本
 あるいは猫麻多。『徒然草』などにも登場する。古来、日本や中国では年を経たものは精を蓄え、妖怪や妖仙と化した。猫又は、長生きした猫が霊力を得て妖怪になったものである。
 猫は50年を過ぎると尾の先が二又に分かれ、人語を解するようになる。人が目を離した隙に2本足で立って歩いたり踊ったりする。さらに人間にも化身することができるようになる。この場合は女性に化ける事が多く、また老婆であることもよくある。さらに強力になると、人間の手足の自由を奪ったり、屍体を操ったりするほどの呪力を持つという。

     丹亀 《Tanki》  出身地:日本
 日本に住む亀の妖怪。大地の精気が集まって生まれた魔物である。
 亀は昔から大地の体現だと考えられてきた。亀の甲羅を火にくべ、そこに入った甲羅のひびが地脈とされた。

     片耳豚 《Katakirauwa》  出身地:日本・奄美大島
 影のない子豚の妖怪。片耳や片目、片足など、いずれも体の一部が欠けた状態で現れる。股の下をくぐられると死ぬと言われ、一命を取り留めたとしても不能になってしまうという恐ろしい伝説がある。
 名瀬市の市役所付近に特に現れる。

     カーシー 《Cu Sith》  出身地:スコットランド
 スコットランド高地地方の妖精犬。カーシーは英語読みで、現地語ではクー・シー。クーが「犬」、シーが「妖精」を意味する。その体躯は牡牛ほどもある巨大なものだ。暗い緑色の体で、毛は長くてもじゃもじゃ、長い尾を背中の上に巻いていたり編んでいる。目は皿のように大きく、ぎらぎらと輝いている。人間と同じぐらいの大きな足をしていて、時々泥や雪の上にその足跡が残っているが、まるっきり音を起てずに歩くことができる。
 普段は妖精の丘につながれており、犬としての仕事を果たす時や、妖精のために人間界から牛乳を取ってくる時に解き放たれる。獲物を追う時には、海の向こう岸まで聞こえるほどの恐ろしい声で3度吠えるという。

     カンフュール 《Kanfull》  出身地:エチオピア
 ルモッカ島に生息しているという一角獣。牡鹿に似た体つきで、後ろ脚が水鳥の足になっており、首の周辺のみに体毛が生えた姿をしているという。頭に生えた一本の角を自在に動かすことができ、食料の捕獲もこの角を使用するという。
 この獣の角には解毒作用があると信じられ、古くから人間に狙われることが多かったようだ。

     ヘアリージャック 《Hairy Jack》  出身地:イギリス
 黒い妖犬。人間が妖犬に化けたとも、妖犬が人間に化けるとも言われる。寂しい農地に出没した。

     山麒 《Sanki》  出身地:中国
 中国に棲息する人間の顔を持つ犬で、風のように速く走り、周囲に暴風を発生させる。人を見ると、物を投げつけたり嘲笑したりする。

     ケットシー 《Cat Sith》  出身地:スコットランド
 スコットランド高地地方の猫の妖精。犬ほどの大きさがあり、全身の黒い毛のうち胸の部分だけが白くなっている。知性に輝いた緑色の目をしていて、もちろん人間の言葉を解することができる。気配を消して闇から闇に誰一人に知られることなく移動することもできるが、普段は正体を隠して普通の猫のふりをしている。これは日本の猫又も同じである。
 ケットシーは木のうろの中や廃屋に自分たちの王国を持っており、人間同様に王族や僧侶や一般市民がいるという。彼らは普通人間に危害を加えることはないが、人間が猫を虐待した場合は、彼らの王族がその不届き者を王国まで引っ立ててゆくと言われている。
 ペローが書き留めた『長靴を履いた猫』の猫も、ケットシーの仲間である。

     ギャラリートロット 《Gallalytrot》  出身地:イギリス
 人の頭を持つ巨大な犬に似た姿をした動物の精で、その姿は死の前兆として恐れられている。名は「宝を守る」という言葉を語源にしており、昔の埋葬地や秘宝が埋まっていると噂される場所によく出没するという。

     かぶそ 《Kabuso》  出身地:日本・石川県
 かわそともいう、子猫の姿をした妖怪。少女の姿に化けることもある。人語を解する。
 人間を化かすことが好きで、幻覚を見せて石や木の根と相撲をとらせたり、美女に姿を変えてたぶらかしたりした。カブソはいたずらをしようとするときは、後をつけてきてさかんに声をかけるという。



  4)珍獣
 伝説上、または現代でも解明されない謎の動物たち。さまざまな伝承で語られているが、滑稽な逸話が多い。


     因幡の白兎 《Inaba no Sirouzagi》  出身地:日本
 『古事記』に登場する。
 淤岐島(おきのしま)から因幡国に渡るため、白兎が海の上に連なった鰐の背を、欺きながら渡って行ったが、最後の鰐鮫に皮を剥ぎとられてしまった。八十神(やそがみ)の教えに従って潮に身を浴したところ、かえって痛み苦しんだ。そこを大国主神に助けられ、その礼として八上比売との結婚を予言し、幸運を授けた。

     チュパカブラ 《Chupakabra》  出身地:プエルトリコ
 カリブ海に出没するという謎の生物。体長は90から180センチあり、頭部は楕円形で赤い大きな眼をしている。カンガルーに似た体型で、3本爪の2本の手とヤギのような足をしており、体毛が周囲の景色に合わせて変色する。名は「ヤギの血を吸う者」の意味で、牛や羊などの家畜の血を吸うという。
 この謎の吸血生物が目撃される前後には、UFOの目撃も多いことから地球外生命体ではないかといわれている。

     アエロファンテ 《Aelophante》  出身地:ケニア
 翼を持った象。常につがいで活動する。雄のほうがふた回りくらい大きい。飛び立つところを写真撮影されたことがある。

      《Kuda》  出身地:日本
 「管使い」と呼ばれる行者に使役された、人に取り憑くキツネの妖怪。クダギツネとも呼ばれる。普段は行者によって竹筒の管に入れて飼育されている。
 人に取り憑く場合は、手足の爪先から皮膚へと侵入するとされる。クダに取り付かれると、あまり飲食をしなくなる代わりに生味噌を食べ始めるようになるという。

     豆狸 《Mamedanuki》  出身地:日本
 畳8畳分もの想像を絶する超絶的陰嚢を持つ。それを引き伸ばして座敷に見せ、人をだましたり、またそれをかぶって化けることもある。その姿は信楽の置物で有名。酒造りを守護するという。
 もとは豆粒ほどの小さな狸だった。灘の酒造倉などでは、これが棲んでいないとよい酒ができないといわれた。

     オリバー君 《Oriber kun》  出身地:コンゴ
 1976年、アフリカのコンゴでアメリカ人のフランク・バーガーが原住民から手に入れたという猿。直立二足歩行をし、風貌がたまたま人間に似ていることから原人と猿人の間の存在であるといわれ、「ミッシング・リンク」として話題を呼んだ。その染色体数は人間の48本と猿の46本の中間である47本であると発表され、大きな反響を呼んだのだが、結局は毛を刈られ訓練されたチンパンジーであると判明した。



  5)妖獣
 聖獣と対極をなす獣たち。知性そのものは決して低くないが、行動はあくまで自分勝手で貪欲。あらゆる破壊を好み、全てを無に帰そうとするカオスの申し子のような性格である。


     フェンリル 《Fenlir》  出身地:北欧
 ゲルマン神話のロキと巨人の女アングルボザの息子。口を開くと上顎が天に届き、下顎は地に届くという程巨大な狼。
 手がつけられない程凶暴で、どんな枷も破壊してしまう。そこで神々はグレイプニルという魔法の紐を作り、フェンリルを世界の終わりの時まで縛り上げることに成功する。しかしラグナロクの日には、紐を引きちぎって魔軍と共に神々の世界を襲う。そして主神オーディンを一呑みにするが、その息子ビダルに引き裂かれて死んでしまう。

     饕鶻 《Tohkotu》  出身地:中国
 饕餮(とうてつ)同様、中国西方の辺境に棲む、四凶と言われる怪物のひとつ。人の顔を持つ虎に似た姿で、全身が長い体毛に覆われているという。
 敵と相対した場合、決して引くことはないという。

     ベヒモス 《Behemoth》  出身地:イスラエル
 ベヒモットとも。名の意味は「獣」の強調複数形「獣たち」である。その姿があまりにも巨大なため、1頭なのに複数に数えられたか、「獣たちの王」ととる説もある。一説ではインドのガネーシャ神の姿が西方に伝わったものとも言われる。
 中世ヨーロッパの悪魔学では、闇を司り、暴飲暴食を誘うものとされ、完全に悪魔としての地位を固めている。
 地上のベヒモス、海のレヴィアサンが魔界の2大巨獣である。

     クラーケン 《Clarken》  出身地:ギリシア
 ギリシア神話の巨大な海の怪物。タコのような吸盤の付いた腕を持つ。
 クラーケンはエチオピアの女王カシオペアの傲慢さに腹を立てた海神ポセイドンによって送り込まれた怪物で、これを鎮めるためにカシオペアの娘アンドロメダが生け贄にされることになる。しかし、その時ペルセウスがメデューサ退治の帰りに訪れていたため、クラーケンは退治され、アンドロメダは無事救出される。その後、アンドロメダはペルセウスの妻となった。

     マンガド 《Mangad》  出身地:モンゴル
 モンゴルの英雄伝説にやられ役として登場する、多頭の怪物。頭の数は10から500までさまざまなパターンがある。

     カトブレパス 《Catoblepas》  出身地:エチオピア
 ナイル川の源泉に棲む、豚のような頭を持っている黒いバッファロー。またはカバに似た動物とも言われる。毒の息を吐きかけて枯らせた地面の草を食べ、普段は横たわったまま動かないとされる。

     マンティコア 《Manticore》  出身地:エチオピア
 主にエチオピアの砂漠や、インドの密林に生息する獣。死を象徴するしわがれた老人の顔に、真赤な血色の獅子の体を持ち、耳まで裂けた口には3列に並ぶ鋭い歯が並び、目は灰色に濁っていて、尾の先端には蠍のような毒を持つ鋭い針が付いている。人肉を最も好み、密林を歩く者の背後へ音をたてずに忍び寄り、尾から一気に毒針の雨を撒き散らし、哀れな犠牲者を即死させる。着ている物や身につけている物を問わず、全てをかみ砕き喰い尽くす。
 マンティコアはかなりの自信家のようで、「わしの息は世界に疫病を撒き散らし、軍隊を喰い尽くし、毒針を四方八方へ飛ばすのだ!」と豪語している。

     玉藻前 《Tamamo no Mae》  出身地:中国
 時の権力者に寵愛を受けた伝説上の人物のことで、正体は金毛九尾の狐。もとは中国で生まれた妖怪で、美しい女性に化け、時の皇帝を色香で惑わせ、自分の思うままに権力を行使する。
 性格は残忍極まりなく、灼熱した銅の柱に裸の人間を縛り付け肉が焦げ骨が溶けるのを見て楽しみ、毒虫や毒蛇を満たした穴に裸にした女を投げ込み苦悶する声を聞いてうっとりしていたという。また、性欲も強く奔放で、巨大な酒の池のある庭園を造らせ、豪華な料理を並べ、そこで何人もの裸の男女と共に、気の向くままに飲み、食べ、そして性交にふけったと言われている。これは酒池肉林の語源になっている。
 この金毛九尾の狐が日本に訪れたものが玉藻前である。玉藻前は日本でもやはり権力を持つ者に取り入ろうとし、時の権力者、鳥羽法皇(近衛天皇とも)に寵愛を受けた。しかし、日本と中国の国風の違いか、日本では残虐な行為を振る舞いをすることはなく、鳥羽帝の精気を吸い取るだけにとどまっている。後に実は金毛九尾の狐であると陰陽師、阿倍泰成に正体を暴かれ、那須野に逃げたが射殺された。その後、死体は毒を吹き出す岩「殺生石」となり、死してなお近寄る人や鳥獣を殺したという。
 この伝説は謡曲『殺生石』、浄瑠璃『玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)』等に扱われた。

     カブラカン 《Kabrakan》  出身地:メキシコ
 マヤの創世神話に登場する巨大な怪物。自身を「天地を揺るがす者」と呼んだ。その名には「地震」の意味が含まれており、マヤ人によって地震が神格化された存在であると言われている。
 傲慢な巨人ヴクブ・カキシュを父に持ち、山を造り出す火山が神格化された兄シパクナと共に地上を支配して暴れていたが、見かねた天界よりの使者フンアフプとイシュバランケに親子ともども滅ぼされ、カブラカンは地中に生き埋めにされた。

     スキュラ 《Skylla》  出身地:ギリシア
 もとはギリシア神話の海神ポルキュスの娘で、可憐で可愛らしいニンフの少女であった。
 水浴びの最中に、若い海の神グラウコスに言い寄られるが、彼のあまりの醜さに逃げ出してしまう。グラウコスは魔女キルケに惚れ薬を作るように頼むが、キルケはそのグラウコスに好意を寄せていた。嫉妬に駆られたキルケは、スキュラが水浴びをしている泉に毒薬を入れる。その泉に腰までつかったスキュラは腰から上はそのままの美少女で、腰から下は6つの頭と12の足を持つ怪物に変えられてしまう。6つの首は長く自在に動き、先には飢えた犬の頭がついており、その歯は鮫のように鋭く3重に並んでいる。絶望したスキュラは海に身を投げたが、怪物となってシチリア島のメッシーナ海峡に現れ、舟人が近づくと6人ずつひとつかみにして喰うようになったという。

     ブラックウィドゥ 《Black Widow》  出身地:欧米
 「黒い寡婦」という意味。夫が死んで喪服に身を包んだ女性のこと。同名の黒い毒蜘蛛のことも指し、「黒い蜘蛛女」のイメージが固まった。蜘蛛は巣を張って獲物がかかるのをじっと待つため、基本的には受け身で女性的であると考えられる。欧米では魔女の化身とも考えられた。
 余談だが、第二次世界大戦で、終戦間際に作られたアメリカ軍の夜間戦闘爆撃機にこの名前がつけられた。

     バグス 《Bags》  出身地:イギリス
 ウェールズ地方の民間伝承に見られるゴブリンの一種で、全身毛だらけの人間の姿をしているとされ、夜になると現れる悪夢や怪物の代名詞としても知られている。
 この悪魔は子供をしつけようとする母親達によく利用される。「言うことを聞かない悪い子は、バグスに食べられてしまうよ」と脅かして、なかなか寝付こうとしない子供達を眠りにつけるのだ。

     ピアレイ 《Pialay》  出身地:イギリス
 スコットランドの半人半獣の妖精。「ウリシュク」と呼ばれる精霊の一種で、毛深い人間の上半身に、鹿の足とヤギのひづめを持った姿をしているとされる。河川や湖、海岸などの水辺に好んで棲息するとされる。
 孤独になると、人間の仲間を求めて一晩中旅人などを追いかけまわすが、基本的には無害であると言われている。しかし、ウリシュクの中でもこのピアレイは悪意をもっていると言われている。

     ジャージーデビル 《Jersey devil》  出身地:北アメリカ
 ニュージャージー州に出没するとされる異形の悪魔。アメリカ原住民のレオナペ族にその存在が伝承されている。馬のような顔とひづめのはえた足を持ち、肩から背中にかけて翼が生えており、全身が黒い体毛に包まれた姿をしていると言われる。
 ある母親が魔術のまね事をしていたところ、その子供に突然異変が起こり、見たこともない怪物と化して母親を含む近隣の人間を食べた後、夜空へと消えて言ったという伝承がよく知られている。

     キャス・パルク 《Cas Park》  出身地:アイルランド
 ケルト神話における、地母神ダヌーの魔女の姿。ウェールズではキャス・パルク、スコットランドではカリアッハベーラと呼ばれる。

     フォービ 《Porevit》  出身地:スラブ
 旧ユーゴスラビアに棲む火の精。火事を起こすとされる妖怪で、火を吹いては野山や町を荒らすとされる獣。原因不明の火事は、この獣の仕業とされる。静めるために供物を捧げた。ウィル・オー・ウィスプに近い存在とされている。

     牛鬼 《Gyuki》  出身地:日本
 頭が牛で首から下は鬼の姿をしているものが一般的だが、有名な絵では頭は牛で胴体が蜘蛛のような化物で、8本の足があり、角も8本生えている。牛鬼は海に棲んでおり、ときおり海岸に現れ、浜を通っているものを襲って喰うという。牛鬼が棲んでいる淵は「牛鬼淵」と呼ばれ、各地でそこが祭祀の対象になっている。これにより牛鬼の霊を慰め、害をなくそうというのだ。
 愛知県の宇和島の夏祭りは特に有名で、家々を巨大な牛鬼の人形が訪れ、病魔を背負って海に流される。

     蒐犹 《Atsuyu》  出身地:中国
 中国の小咸山に住むという人間を喰う獣。赤ん坊の声を真似て人を誘う。人間の顔を持つ赤い牛の姿で、ひずめは馬と同じくひとつである。

      《Nue》  出身地:日本
 虎鶫(とらつぐみ)という鳥の別名であるが、『平家物語』などでは人を襲う化物として登場する。
 猿の頭に狸の胴、虎の手足と蛇の尾を持ち、虎鶫の声で鳴きながら雷雲と共に現れて、夜な夜な京の都の上空をその暗雲で覆い、人間を襲っていた。そのため公御たちは困り果て、源頼政にこの化物の退治を依頼する。彼は山鳥の矢を持ち「名無八幡大菩薩」と唱え、見事鵺を討ち取った。鵺の死を都中に知らせようと死骸を引き回したところ、疫病が発生し、丸太をくりぬいて霊を封じるよう似した空船(うつぼぶね)に入れ、鴨川に流した。その空船は摂津国芦屋の里に流れ着き、祟りを恐れた村人たちは、鵺塚を作りその魂を鎮めたという。

     角猿 《Kakuen》  出身地:中国
 中国に伝承される猿の妖怪。群れを作って雄のみの単性社会を構成し、自らの子孫を残すため、人間の女性をさらうという。さらわれた女性はカクエンの子を産むまでは決して帰されることはない。
 子が生まれると母子は家に帰されるが、生まれた半妖半人の子を育てなかった場合、母親は殺されてしまう。生まれた子供は普通の人間の子供と何ら変わるところはなく、人間社会で普通に成長をとげるという。

     水虎 《Suiko》  出身地:日本
 河童のより巨大、より凶悪な上級種。人を水の中に引きずり込んで生き血をすする。また特に子供を狙って命を奪う。一説には竜宮の使いともされる。

     バイコーン 《Bicorn》  出身地:イギリス
 ユニコーンは1本の角を持った「純潔」を象徴する聖獣であるが、2本の角を持つバイコーンは邪悪な存在として「姦淫」を象徴する淫獣である。純性である1の数に対して、2は女性を表す誘惑の数字として例えられる。
 元来ユニコーンの角は男根を表しているのだが、処女のみがユニコーンを鎮められるとして、精神的な愛と肉体的な愛の理想的な結合を意味してきた。しかしバイコーンはこの図式を壊し、歪んだそれの表現として存在するのである。

     チャグリン 《Chagrin》  出身地:不祥
 ジプシーのロマ族に伝わる悪霊。「キャグリーノ」「ハルギン」とも呼ばれる。黄色い大きなハリネズミの姿をしていると言われる。もしこの姿を見て後を追いでもしたら、その身に必ず災いが降りかかるという。

     アーヴァンク 《Arvanche》  出身地:イギリス
 人間を水中にひきずりこむ、巨大なビーバーの姿をした妖獣。処女性に敏感で、特に処女をつかまえようとする。

     ガルム 《Galm》  出身地:北欧
 死者の国ニヴルヘイムの入り口を監視している犬で、冥府の女王ヘルの猟犬たち。真っ黒な剛毛の胸元を死者の血で深紅に染めている。その両の目(4つ目であるとも言われる)は石炭のように燃え、死人たちが逃げ出さないように見張っている。脱走者には容赦なく襲いかかり、その体を貪り喰う。
 切れることのない鎖につながれており、この鎖が解き放たれるのは神々の最終戦争ラグナロクの時であるという。

     ヘルハウンド 《Hell hound》  出身地:イギリス
 「地獄の猟犬」と呼ばれる犬の幽霊。ヨーロッパ各地で伝承されているが、イングランド南西部のコーンウォール地方で多く目撃されている。
 群れを組んで現れることが多く、周囲を荒らし回って、その姿を見た者に死を与える。遠吠えを聞いただけで死の予言が降りかかるとも言われる。

     穢羅 《Waira》  出身地:日本
 山中に棲む、巨大な牛かサイに似た怪物。正確な正体は不明だが、一説にはガマが霊力を得て変化したとも言われている這うようにして地面を歩き、衣ぽんの鉤のような爪の生えた前足で土をほじくり、出て着たモグラなどの小動物を食べると言われた。
 体の色で雄と雌を見分けることができ、雄は土色、雌が赤色であるという。


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