X.人



  1)偉霊
 古代に実在した人物が神の位まで昇り詰めた存在。彼らは厳しい自然の掟の実践者であり、それを犯す者にはしばしば手厳しい罰を与えることもある。現在は土地や思想の守護神格として奉られている。


     平将門 《Taira no Masakado》  出身地:日本
 平安中期の武将。超人的な強さを誇っていたために、様々な伝説が生まれた。体は鋼鉄のように硬く、身長は2メートル以上、左目には瞳がふたつあり、まったく同じ姿の影武者を6人引き連れていたとされている。しかし将門にも弱点はある。体の中で唯一生身のこめかみで、彼は俵藤太にここを刺されて討ち取られる。
 ところが将門の魔人ぶりは死んでからも発揮される。晒し首にされた将門の首はいつまでたっても腐らず、目を見開き、胴体を求めて叫び声を上げたというのだ。そしてある日、将門の首は体を求めて飛び上がり、江戸の大手門まで飛んでいった。その場所は現在の将門首塚で、この首塚を撤去しようとするたびに様々な祟りが起こるそうである。

     黄帝 《Kohtei》  出身地:中国
 中国神話時代の帝王。名は軒轅(けんえん)。悪神蚩尤(シュウ)を討伐して漢族最初の統一国家を建設し、また人類に最初の文化を与えた文化創造者とされ、三皇五帝の一に数えられる。黄帝の母は、天子の象徴である北斗七星の第1星を雷光がめぐって輝いたのを感じて妊娠し、24カ月をかけて黄帝を産んだと伝えられている。
 人類に初めて家屋を作って与え、獣皮の代わりに繊維で作った衣類や、車や船などの利器を授け、歴や律、幣制を作りだし、あらゆる草木をなめて医薬を発見したとも言われる。

     太上老君 《Taijo lohkun》  出身地:中国
 道教の主神、原始天尊を補佐する上級神。いわゆる老子で、道家の創始者である。実在人物であるが、彼は自分の名を残さない主義だったため、『老子』という1冊の道徳書を書き記したということしかわかっていない。
 老子の思想は「無為自然」。つまり作為を排除し、自然体で生きるということである。
 老子は釈迦であるという説もあるが、その真偽は定かではない。

     役行者 《En no Gyoja》  出身地:日本
 修験道の始祖。いわゆる仙人。役小角(えんのおずぬ)と呼ばれることもある。葛木山で修行し、空中飛行や水上歩行などの仙術や呪法を用いていたと言われている。また呪法で鬼(前鬼、後鬼など)を従え、身の回りの世話をさせていたという。
 それらの諸行が人心を惑わすとされ、伊豆の大島へ島流しの刑に処される。その後彼は富士山に登り、そこで修行を積んだとされている。



  2)英雄
 文武の才に優れ、実力が優越し、非凡な事業を成し遂げることができる力を持った、歴史上で活躍した人物たち。彼らが成し遂げた説話は、伝説として語られるようになることが多い。


     ラーマ 《Rama》  出身地:インド
 大叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公、コーサラ国の王子。ヴィシュヌ第7の化身。羅刹王ラーヴァナに連れ去られた愛妻シーター追って、弟ラクシュマナ、猿神ハヌマーンなどとともにラクシャーサ軍に戦いを挑む。激戦の末、ラーマはラーヴァナを打ち倒し、シーターを取り戻した。

     関帝聖君 《Kantei seikun》  出身地:中国
 中国の武神、または財神。『三国志』の名将関羽雲長の神格。中国の国民的英雄で、道教、仏教、儒教でそれぞれまつる。死後数百年にわたって恨みを抱いたままさまよっていたが、玉泉山で普静という僧に諭されて悟りを得た。以降は神となって、悪霊退治などの霊験を示すようになったという。
 関帝の信仰は唐代に始まり、宮廷でも民間でも盛んに行われた。また、関帝をまつった廟を関帝廟といい、これを信ずれば戦時に関羽の霊が出現して敵を滅ぼすという。清国建国の際、関帝の冥助として清朝の信仰篤く、中国各地に建てられた。

     ロンギヌス 《Longhinus》  出身地:イスラエル
 ガイウス・カシウスと言う名の、ローマ軍の盲目の兵士。十字架にかけられたキリストを槍で貫いた事で知られる。伝説では、キリストを刺した時に血がしたたり落ちて彼の目に入り、目が見えるようになったという。その後、改心した彼は洗礼を受け、聖人になったとされる。ロンギヌスは後に呼ばれるようになった名である。
 また、このロンギヌスの槍を手に入れたものは世界の王として君臨するが、失ったときに破滅するとも言われる。

     サラディン 《Saladin》  出身地:イラク
 アラビア語での名はサラーフ・アッディーンで、イラクのクルド族の出身。サラディンはラテン語名。エジプトの遠征に参加した後にファティマ朝の宰相となり、1171年には新王朝アイユーブを開いた。アッバス朝の承認を得て「スルタン(イスラム世界で支配者の意)」の称号を戴く。
 その後、シリア、イラク北部、イエメン、北アフリカにまで領土を広げ、87年には十字軍が築いたエルサレム王国を滅ぼしてエルサレムを奪回。92年に第三次十字軍と休戦条約を結んで、キリスト教徒のエルサレム巡回を許した。十字軍との交渉で見せた寛大な精神と開明さは、後のイスラム教徒の間で英雄視されるようになった。

     ジークフリート 《Siegfried》  出身地:北欧
 ゲルマン民族の伝説中の英雄。北欧ではシグルド《Sigurd》と呼ばれる。叙事詩「ニーベルンゲンの歌」では第1部の主人公として登場する。
 悪竜ファフニールを退治して不死の体とニーベルンゲンの宝物を手に入れたニーダーラントの王子ジークフリートは、ブルグント国の姫クリームヒルトを妻とする。だが、その妻とブグルント国王妃ブリュンヒルトの争いに巻き込まれ、命を狙われる。ブルグント国の重臣ハゲネの奸計により、背中にある唯一の急所を刺し貫かれ、息絶えた。

     ハゲネ 《Hergene》  出身地:北欧
 ドイツ叙事詩「ニーベルンゲンの歌」に登場する武将。ブングルト国王グンテルに仕えた重臣で、その忠誠の厚さをもって知られる。ハーゲンとも。
 ジークフリートと結婚したグンテルの妹クリームヒルトに嫉妬したグンテルの妃ブリュンヒルトは、ハゲネにジークフリートの殺害を命じる。無敵のジークフリートの背にある唯一の急所を、泉の水を飲んでいる隙をついて槍で刺し、ハゲネは暗殺に成功する。クリームヒルトは復讐を誓ってフン族の王エッツェルと結婚し、グンテル一族を宴に招き、同行していたハゲネも首を刎ねられた。クリームヒルトもその場で生涯を閉じた。

     蘭陵王 《Raryo oh》  出身地:中国
 羅陵王長恭。「羅竜王」とも書く。6世紀の中頃、華北にあった国、北斉の武将。北斉は隣国の北周と絶えず争っていたが、蘭陵王はそこで活躍した武将で、戦場には不似合いなその美しく優しい顔立ちを隠すため、奇怪な形相の面をかぶって戦い、敵軍を破ったという。
 この話は中国の古舞曲となったが、後に日本にも伝えられ、唐楽曲の雅楽に取り入れられた。

     鎌倉権五郎 《Kamakura Gongorou》  出身地:日本
 鎌倉景政。平安後期(11〜12世紀)の武将。源義家の臣。後三年の役に、金沢柵(かねざわのき)で敵に右目を射られながら、その敵を射殺し帰陣。三浦為嗣が権五郎の顔を踏んで矢を抜こうとすると、その無礼を怒ってひざまづいて抜かせたという。
 全国各地に御霊大明神(ごりょうだいみょうじん)としてまつられている。

     ファリードゥーン 《Fariedone》  出身地:ペルシア
 邪竜アジ・ダハーカを倒した、伝説の英雄。スラエーオタナともいう。神酒ハオマを作ったスリタと同一視される。

     源義経 《Minamoto no Yoshitsune》  出身地:日本
 源九郎義経。鎌倉幕府を開いた源頼朝の異母兄弟。幼名を牛若といい、武蔵坊弁慶とともに、源平合戦を舞台に活躍した。しかし後白河法皇の信任を得て頼朝の許可なく検非違使・左衛門尉に任官したことなどから、鎌倉に入ることを許されなかった。諸国を流浪した後、一時期身を寄せていた藤原秀衡(ひでひら)のもとに再び身を寄せたが、秀衡の没後、頼朝に屈した子の泰衡(やすひら)に急襲され、衣川の館にて自決した。薄命の英雄として伝説化された。

     ジャンヌ・ダルク 《Jeanne d'Arc》  出身地:フランス
 神の声を聞き、百年戦争でフランスを勝利に導いた聖女。通称ピューセル(乙女)、オルレアンの少女とも。
 フランス東部のロレーヌとシャンパーニュの間にある農村ドンレミ村の出身。救国の神託を受けたと深く信じ、1429年に王位継承権を奪われていたシャルル7世に献策して納められ、軍を率いてイギリス軍を撃破、翌30年にオルレアンを解放、ランスでの戴冠を実現させた。しかし、コンピエーニュの救出に赴いてイギリス軍に捕らえられ、ルーアンの司教らによって邪教徒として火刑に処された。
 56年に名誉回復し、祖国愛の象徴として親しまれ、詩、小説、戯曲などの題材とされる。

     鳴神 《Narukami》  出身地:日本
 歌舞伎劇『雷神不動北山桜』の一場面。朝廷に不満を持つ鳴神上人の祈りによりひでりがつづくので、宮中一の美女、雲の絶間が色仕掛けで上人を堕落させ、雨を降らせる。

     天竺徳兵衛 《Tenjiku Tokubee》  出身地:日本
 江戸初期の商人。播磨の人。15歳のときから再三インド方面に渡航し、仏跡をたどり、貿易をした。その数奇な生涯は歌舞伎、浄瑠璃に劇化され、「天竺徳兵衛物」として世にもてはやされた。



  3)魔人
 一切が謎に包まれた、あるいはその卓越した能力ゆえに不遇の一生を送った人物たち。その内にこもる鬼気迫る念は、見るものに戦慄を走らせる。


     アリス 《Alice》  出身地:アメリカ
 ルイス・キャロルの著作『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』より。アリスは夢の中でウサギの穴を通って不思議の国へ入り込み、おかしな動物や人に出会い、奇妙な冒険を重ねる。奇抜奔放な空想と、ユーモア、機知にあふれた傑作として知られている。
 実はこのアリスには実在のモデルがいる。アリス・リデルという女性がそれなのだが、彼女を元に生み出された永遠の少女像は、キャロルのあこがれた妖精的、あるいはそれ以上の小悪魔的な魅力と実在人物以上の存在感、そして身勝手というには恐ろしい支配欲を持って多くの人々を魅了し、縛り付けるのだ。

     蘆屋道満 《Ashiya Douman》  出身地:日本
 平安時代の法師陰陽師。道摩とも。『古事談』『宇治拾遺物語』『十訓抄』『峯相記』『東斉随筆』などでそのキャラクターを確立していく。今日で確立された道満のキャラクターといえば、『ほきし袖裡(ゆうり)伝』『ほきし伝』であろう。
 道満は阿部晴明と術比べをして敗れ、晴明の弟子になる。その後、晴明が唐へ行っている間に晴明の妻・利花と通じて、秘蔵の卜占の書『金烏玉兎集(きんうぎょくとしゅう)』を写し取り、帰ってきた晴明の首をはねて殺してしまう。術を使ってこれを知った晴明の師・大唐荊山の伯道上人は、京に来て晴明の遺骨を集め、術を使って蘇生させ、道満の首を斬り、利花をも殺した。
 道満は人形浄瑠璃や歌舞伎などでも活躍し、『信田森女占(しのだのもりおんなうらかた)』や、『葛の葉』の別名で知られる『蘆屋道満大内鑑(おおうちかがみ)』などが有名である。
 播磨国(兵庫県姫路市)の出自とされ、今日でも三宅(姫路市飾摩区)には蘆屋塚があり、道満の末孫を自称する者がいる。また日本の各地にも蘆屋塚、道満塚、道満井戸など、その伝説を伝えるものが多く残っており、大和生駒郡(奈良県)や近江国犬上群(滋賀県)などは道満を非人の祖と伝え、若狭では八百比丘尼の父を道満とする伝説があり、その他、武蔵や会津などにもさまざまな伝説が残っている。
 日本では五芒星を「ドーマンセーマン」と呼ぶが、これは芦屋道満と阿部晴明のふたりがこの五芒星の呪符を使っていたことからそう呼ばれるようになった。

     マタドール 《Matador》  出身地:スペイン
 闘牛で、牛にとどめを刺す主役の闘牛士のこと。ちなみに、槍で牛を刺激し興奮させる役の騎馬の闘牛士をピカドール、銛を首や背に打ち込む役の闘牛士をパンデリリェロという。

     ペイルライダー 《Pale Rider》  出身地:イスラエル
 黙示録に書かれた、世界の終末に現れる4人の騎士のひとり。神の子ヒツジによって解かれる第4の封印によって呼び出される、青ざめた馬に乗った死神。世界の1/4を戦争と飢餓と疫病と獣で殺す。

     デイヴィッド 《David》  出身地:不明
 ジプシーのバイオリン弾き。狂ったようにバイオリンを奏で、人々を惑乱と陶酔に導く。

     大僧正 《Daisoujo》  出身地:日本
 密教真言の祖、弘法大師空海。自らの寿命を知って、五穀断ちをして入滅し、死後もその体が腐らなかった。これぞ即身成仏の証とされ、以後ミイラ化する救世僧が現れるようになった。
 大僧正は密教の位ではないが、俗にこう呼ばれていたのであろう。

     リトル・ラマ 《Little Lama》  出身地:チベット
 ラマとは、チベット仏教のラマ教における最高指導者ダライ・ラマ《達頼喇嘛》のことをさす称。ダライ《達頼》は蒙古語で「海」または「偉大な」、ラマ《喇嘛》はチベット語で「師」を意味する。チベットの首都ラサ《拉薩》の北部にあるポタラ《布達羅》宮殿に住み、禅定菩薩の化身であると考えられ、政治および宗教の最高権力をもつ活仏として絶対的信仰を受ける存在である。
 リトル・ラマとは、次代のダライ・ラマのことであろう。ダライ・ラマが逝去すると、時を同じくして新しい肉体に転生すると考えられた。そうして同時刻に生まれたということと、その他様々な条件を元に子供が探し出され、成年未成年の別なく次代のラマとなるのである。
 ラマと認定されるための条件には、手足の指が6本必要とされる項目があるという話を小耳に挟んだ記憶がある。余談だが、手足の指が6本あるのはそう珍しいことではなく、日本などでも親の知らない内に処理されていることがたまにあるようだ。

     ゴーストQ 《Ghost Q》  出身地:不明
 いつもお腹が空いているゴーストQ。ご飯25杯をペロリとたいらげるゴーストQ。犬が大嫌いなゴーストQ。頭に毛が3本しかない(かもしれない)ゴーストQ。……などと、シャレのような記述が正しいのかどうかは誰にもわからない。


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