XI.邪霊



  1)幽鬼
 死した人間の強烈な怨念が現世に残り、触媒を得て実体化した悪魔である。残存思念から生まれたものだけに、実体はやや薄い。明確な目的意識はなく、ただ単に人に害を与えることしかしない。


     リッチ 《Lich》  出身地:不明
 高位の魔術師、あるいは僧侶が自らをアンデッド化させたもので、それにより生前の数倍の魔力を得る。アンデッドの中でも最も強い力を持つ者のひとりである。

     御息所 《Miyasudokoro》  出身地:日本
 ミヤスミドコロとも。天皇の御休息所の意から。天皇の御寝に侍した宮女。

     ヴェータラ 《Vetara》  出身地:インド
 ヒンドゥ教の餓鬼の一種であり、特に不浄で危険な者とされる。仏教にも入り込み、毘蛇羅、迷多羅と漢音写される。
 ヴェータラは機会があれば死体に取り憑いて、現世での安易な復活を望んでいる。その姿は背が高く色黒で、ラクダのように長い首に象の顔がつき、目はフクロウのようにぎらぎらし、耳はロバのように長い。脚は牡牛のようにがっしりしている。
 ヴェータラがマントラ(真言)を唱えると死体が起き上がり、活動すると信じられてきた。人を蘇生させるための魔術にヴェータラを召喚することもある。

     クバンダ 《Kabandha》  出身地:インド
 『ラーマーヤナ』に登場する、巨大なラクシャーサ。身長3メートル、赤い神に黒い肌、人間の体に白馬の頭をもつ。元々の名クンバーンダには「瓶のような性器を持つ者」の意味がある。
 人間の精気を吸い取る女の魔物で、暴風神ルドラの配下である。仏教に入ると鳩槃荼などと漢音写され、四天王のひとり増長天の眷属となる。

     ドゥルジ 《Dorji》  出身地:ペルシア
 ゾロアスター教。疫病などをもたらす醜悪な女魔で、悪行の化身とされる。淀んだ水に棲み、ハエのように逃げ去るという。ドゥルジ・ナスとも呼ばれる。
 暗黒神アンリ・マンユを支配者に選んだ人のために用意された、寒くて汚い暗黒の場所のことを指すこともある。不正を行った魂の行き着く苦痛の場所、地獄ともされる。

     ヤカー 《Yaka》  出身地:スリランカ
 スリランカの民衆宗教に見られる悪魔で、インドのヤクシャの変質した姿である。スリランカにはさまざまな種類の病気に対応するサンニという悪魔がおり、ここでいうヤカーとはこのサンニのことである。彼らは病魔の王マハーコーラ・サンニ・ヤカーに支配されている。
 スリランカの呪医たちは、病魔を祓うためさまざまな供物を捧げ、仏教国らしく仏陀を持ち出して脅し、病魔に扮した者に踊らせて、病魔を満足させる。それでも去らない場合は魔王サンニ・ヤカーを召喚して、その名に於いて立ち去らせるのだ。

     クドラク 《Wcodlak》  出身地:スヴェロニア
 悪疫、不運、凶作など、生きるものにとって恐ろしいとされることのすべてを引き起こす元凶であるとして考えられていた、悪と闇を象徴する邪悪な吸血鬼。クルースニクの最大にして永遠の敵対者であり、この正体は悪意をもった魔術師や巫術師、吸血鬼であるとされており、常に無実の者や無防備の者を襲うと言われていた。
 クドラクはその死後に最も恐ろしい姿になるとされ、そのため一度死んだクドラクが復活しないように、西洋山査子で作られた特性の杭で死体を串刺しにしたと言われる。
 クドラクは、ヴコドラクのスヴェロニア語読み。

     ツォロム 《Thorom》  出身地:メキシコ
 中南米マヤの前時代に存在した、浅黒い肌の人々のこと。名は「犯罪者」を意味している。

     ストリゴイイ 《Strigoyi》  出身地:ルーマニア
 ルーマニアにおける最も一般的な吸血鬼で「死せる吸血鬼」と呼ばれる。赤髪碧眼で2つの心臓を持つ。自殺、魔女、犯罪者、偽証者など、様々な原因で人間は死後、ストリゴイイになるという。対照的な存在は「生ける吸血鬼」モロイイ、女のストリゴイイはストリゴイカと呼ばれる。
 死者をストリゴイイにしないために、死体の心臓に鎌を突き刺したり、9本の紡錘を地面に突き立てて起き上がれないようにするなど、様々な方策が講じられた。

     グレイマン 《Gray men》  出身地:イギリス
 ゲール語で「灰色老人」の名を持つスコットランドの幽霊で、月が昇るころになると海辺付近の深淵から現れるとされている。柱状に並んだ岩によじ登って頂に腰をかけ、雷のような大声で話し合うと言われている。
 グレイマンの出現は死の予兆であり、彼らが行う会話の内容は死の予言であるとも言われている。グレイマンを何度か見てしまうか、あるいはその話を聞いてしまった人間は、近いうちに死んでしまうとされている。

     キャリー 《Carry》  出身地:アメリカ
 スティーブン・キングの小説『キャリー』より。クラスメイトのいじめを苦に自殺した少女。

     サウォバク 《Sawobak》  出身地:ネパール
 ネパールのベタと呼ばれる鬼。もっとも有名なものに、ハク・マ・プートゥーというものがおり、人々に害をなしていたがシヴァに調伏され、魔神シュムパと戦う時に使役された。

     ベイコク 《Bakok》  出身地:アメリカ
 アメリカインディアンの伝説に登場する骸骨の悪鬼。

     夜行 《Yakou》  出身地:日本
 大晦日や節分の夜に現れる、首の切れた馬に乗った妖怪。ひとつ目で体中毛だらけの鬼。
 古来、節分や大みそかは、妖怪変化の活動する百鬼夜行の日であった。その日に、夜行は首なしの馬に乗って道を歩き回り、出会った人間を投げ殺してしまう。もしも出会ってしまったら、草履を頭に乗せて地に伏せていれば殺されずにすむという。

     藤娘 《Huji musume》  出身地:日本
 大津絵画題のひとつ。藤の模様のある衣装を着、藤の枝を肩にして笠をかぶった娘姿。
 ここから歌舞伎舞踊も作られた。歌舞伎において藤は「女性」、それも「妖艶な美女」の象徴とされる。

     焔口 《Enku》  出身地:日本
 餓鬼の一種で、口から炎を吐き出し、飛んでいる虫を焼いては食べる。餓鬼の例にもれず、その飢えは満たされることがない。

     グール 《Ghoul》  出身地:アラビア
 アラビアの砂漠に現れる喰人鬼。名には「災厄」「恐慌」といった意味がある。『アラビアンナイト』に何度か登場する。
 もとはアラビア付近に住む人喰い人種のことを指していたようだが、西洋にこの言葉が伝わった時にイメージが変わり、墓場を暴いて屍肉を喰らうアンデッドモンスターになったようだ。一説ではグールはジンの一種であるともいう。動物や異性に化け、皮膚の色すら変えて人間を騙し、背後から近づいていくのだ。基本的には悪質な死霊の一種と考えてよいだろう。
 男性形の特徴として、色が黒くて毛深く、面長で、耳が長めであったり、目が少し飛び出てたりしているという。どうやら黒人をイメージしているようだ。
 女性形をグーラー《Ghulah》といい、基本的にはグールと同じだが、美人ぞろいであるため男たちは容易に騙され、夢心地に喰われてしまうことが多い。しかし、アッラーの名さえ唱えれば彼女らは一目散に逃げ出す。また、彼女たちは人知れず人間と結婚し、子供を生むこともある。その場合生まれてくる子供たちは幸か不幸か、魔と人間の両性を受け継いで生きていくのだという。しかし母親は食人の習慣は捨てないので、幼子は人肉で育てられる。

     チュレル 《Churel》  出身地:インド
 出産の際に無念の死を遂げてしまった女性や、不浄な儀式を行う際に命を落としてしまった女性が成るという霊。ごみごみした場所に好んで現れ、一見すると若く美しい女性の姿をしているが、口をもたず、足の向きが逆さになった奇怪な姿をしているという。
 若い男に近づいては誘惑し、この誘惑に乗った男性は老人になるまで取り憑かれるという。

     お七 《Oshichi》  出身地:日本
 八百屋お七の霊。女の顔を持つ鶏の姿をした幽霊で、これが現れた家は火事になるという。

     オバリヨン 《Obariyon》  出身地:日本
 薮の生い茂った夜道を歩いていると「オバリヨン(おんぶして)」と叫んで人の肩におぶさってくる妖怪。「おんぶお化け」とも呼ばれる。
 一度取り憑くと肩がつぶれてしまうほどの重さになり、簡単には離れなくなるという。ある男がオバリヨンをおぶさったまま家まで戻り、庭石に叩きつけてみたところ、オバリヨンは消えて小判がザラザラと落ちてきたという話が伝えられている。

     餓鬼 《Gaki》  出身地:インド
 ヒンドゥ文化圏で浮遊霊のプータ、プレータ、また悪霊のプータといい、現世に対する欲望の強い霊である。仏教では地獄の餓鬼道に落とされた亡者たちのこと。
 生前に物欲にとらわれた人生を送ると、死後、餓鬼道に落とされるという。餓鬼は常に飢えに悩まされ、何をどんなに食べようと永遠にこれが満たされることはない。そのため彼らは、地上まで上がってきて人に憑依し、その者の体を通じて欲求を満たそうとする。
 手足は痩せさらばえ、腹だけが異様に膨れ上がった姿をしている。



  2)悪霊
 幽鬼と同様に、人間の怨念が集まってできた悪魔である。しかし、幽鬼ほど実体化せず、その存在はかなり希薄で、肉体らしいものはほとんどない。まさしく人間の情念の恐ろしさを垣間見せてくれる悪魔であり、彼らに取り込まれることは、死を意味する。


     マカーブル 《Macabre》  出身地:欧州
 中世ヨーロッパに流行した踊る白骨画「ダンスマカーブル《Dance Macabre》(死の舞踏)」から名付けられた。当時の演劇にも典型的な死神として登場した。

     レギオン 《Legion》  出身地:全世界
 軍隊用語で「連隊」を意味する。悪質な憑依霊は自分を「オレタチ」と言う。悪霊たちは、しばしばアイデンティティー(自己存在意義)の崩壊を起こしており、他人と自分の区別がつかない。似たような苦痛を味わい、悩み苦しむ他の悪霊を自分の分身と考え、次第に彼らは寄り集まって互いに区別できなくなるのである。

     ファントム 《Phantom》  出身地:全世界
 ゴーストの一種。死霊あるいは生霊で、ゴーストよりも輪郭や表情がはっきりとしているものをファントムと呼ぶ。ゴーストよりも攻撃的である。

     ディブク 《Dhivk》  出身地:ドイツ
 17世紀まではイブルと呼ばれていた、ユダヤ伝説に登場する邪悪な精霊。人の体と魂に取り憑いて支配し、悩ませ苦しめるという。過去に犯した罪のために新しい体を与えられず、そのため生きている人間に無理に取り憑く魂であるとも言われている。
 悪魔払いによって除霊されるが、こうした魂はやり方によって地獄に投げ込まれるか、あるいはこの世に再び舞い戻ってくるかのどちらかであるという。

     ラルウァイ 《Larwai》  出身地:ローマ
 ローマの死者の霊。生前にあまり良くない生活を送ると、死後この悪霊になってしまうという。人間に取り憑き生命力を吸い取るため、その取り憑かれた人間は病人のように青ざめ生気を失ってしまう。

     ピシャーチャ 《Pisacha》  出身地:インド
 ヒンドゥーの餓鬼。人間や動物の屍肉を喰い、人間に腹痛を起こさせる術を使うという。また、動物や植物の精気を吸い取ったり、直接血を吸うこともあるらしい。
 ピシャーチャの姿を見た者は数カ月後に必ず死んでしまう。

     レムルース 《Remraus》  出身地:イタリア
 イタリアの悪霊。ラルウァイほど凶悪ではない。

     シェイド 《Shade》  出身地:全世界
 語源は[Shadow(名)影]であり、人間の影や鏡に映る像の意味から派生して、影の国の住人、つまり亡霊ということになっていく。

     ハングドマン 《Hanged man》  出身地:
 西洋占術などに良く用いられるタロットカードの12番目。自己鍛錬、自己犠牲、膠着状態、冷凍、処罰、挑戦などを暗示する。

     ゴースト 《Ghost》  出身地:全世界
 幽霊、亡霊といった実体を持たない霊体の総称。様々な形態のゴーストが存在するが、さほど脅威的な存在ではない。ただし、物理的な攻撃を仕掛けてもほとんど効果はなく、魔法やお祓いなどで退治するしかない。

     クイックシルバー 《Quick silver》  出身地:イギリス、他
 並外れたいたずら好きで知られる女性型のポルターガイスト。彼女が現れた後には、壁や鏡、窓などのいたるところにセッケンや口紅、クレヨンなどで書かれた「Q」の文字が見られると言われている。ポルターガイストとは違って、10代の子供がいない家に現れると言われており、破壊的な行動はせず、純粋にいたずら行為のみを好むとされる。
 人を脅かすことを目的としているため同じ場所に長く留どまることはなく、いたずらが終われば現れなくなり、危険性は少ないと言われる。

     ポルターガイスト 《Piltergeist》  出身地:全世界
 家でラップ音を起こしたり、茶碗を割ったり、皿を飛ばしたりする悪霊である。ドイツ語で「騒霊」という意味。
 思春期の少年少女や、精神的に不安定な若い女性が無意識で起こしていると思われるのが一般的だが、霊の介入なくしては説明できないような事件も数多くリポートされている。そうした人間の精神的軋轢から生じる爆発的エネルギーを得た悪霊が、活気づいて騒動を起こしていると思われる。



  3)怪異
 現代日本に生まれた都市伝説。その存在は噂に語られることが多く、真偽のほどは定かではないが、確実にその勢力を伸ばしつつあるようである。


     赤マント 《Aka manteau》  出身地:日本
 日本各地の中学校のトイレに現れる幽霊で、戦前から京都に伝わる話である。
 トイレに入ってきた人間に対して、「マントはいらんかい、赤いマントはいらんかい」と繰り返し呼びかけてくる。もしここで「はい、ください」と答えてしまうと、天井からナイフが落ちてきて背中に突き刺さる。吹き出した血は、その人間の体をまるで赤いマントをかけたかのように染めるという。

     首なしライダー 《Kubinasi Rider》  出身地:日本
 真黒な装束に身を包んで現れる首がないライダーの霊で、東京都の奥多摩に出没するものがよく知られている。俗に「走り屋」と呼ばれる若者達の間で目撃されており、この首なしライダーに追い越されてしまった者は、必ず事故を起こしてしまうと言われている。

     口裂け 《Kutisake》  出身地:日本
 口裂け女。口をマスクで覆い、通りがかりに「わたし美人?」と聞いてくる。美人と答えると、マスクをはずして耳元まで裂けた口を見せて追いかけてくる。その後は、捕まえられて食べられる、脅かすだけ等、地方によってオチが異なる。

     カシマレイコ 《Kasima Reiko》  出身地:日本
 日本各地の小学校のトイレに現れる幽霊で、両足のない女性の姿で現れるという。深夜にトイレに入ってきた人間に対して質問しては、答えられなかった者の足を引き抜いていく。
 始めに「わたしの足はどこにありますか」と聞いてくるが、これには「名神高速道路にあります」と答えるのが正しい。続いて「誰に聞いたのですか」と聞いてくるが、これに「カシマレイコさんに聞きました」と答えると、幽霊は何もせず静かに消えてしまうという。

     花子さん 《Hanako san》  出身地:日本
 小学校七不思議のひとつ「トイレの花子さん」。放課後、誰もいないはずのトイレから水の流れる音が聞こえるというもの。
 ブキミちゃん(トイレで紙がないときに現れ、赤青白のどの紙がいいかと聞かれ、答えるとその色の手が出てくるというもの)などのバリエーションがある。

     ターボ婆ちゃん 《Turbo bachan》  出身地:日本
 六甲山付近で出没するとされる老女の姿をした霊で、よつんばいになって高速道路を猛スピードで走ると言われている。追い抜いていったターボ婆ちゃんを見ると、その背中には「ターボ」と書いた張り紙が張られているのがわかるという。
 このターボ婆ちゃんは、これといって危害を加える霊ではなく、意味もなく高速道路を走り抜けるだけの存在だと言われる。高速を走る同様の霊として、首都高の「ダッシュばばあ」や、北海道の「100キロ婆ちゃん」が知られている。

     噛み男 《Kami otoko》  出身地:不祥
 姿が見えず、肉体を持たない存在であると言われ、目標とする被害者に対して全身かまう事なく噛みつくとされる。いつ、どこで、どういった状況で現れるのかすらわかっておらず、攻撃された者に与えられる激しい痛みと、体に浮き出た噛み跡だけがその存在を知る唯一の手掛かりとされる。
 一度噛み付かれると、どこに隠れても追いかけてくるが、その行動範囲は決まっているらしく、範囲外へ逃げ出せば目標から外されて助かると言われている。



  4)屍鬼
 幽鬼や悪霊が人間の精神的な活動から生まれたのに対し、屍鬼は死んだ人間の肉体そのものである。いわゆるアンデッドモンスターであり、指令する者の力によって動き回るのである。当然のことながら感情や、自我などのアイデンティティーなどは持ち合わせていない。


     コープス 《Corpus》  出身地:全世界
 悪霊が忌まわしい集団を作ろうとするのと同じように、悪霊が肉体を持ったゾンビたちもそうした行為に出てもおかしくない。コープスは腐敗した屍肉が集まってうごめく屍鬼となったものか、あるいは屍鬼同士が合体して不定形になったものである。最近のスプラッター映画によく登場するぐちゃぐちゃしたものを想像するといっそう迫力が増す。
 コープスは「死体」という意味であるが、ナポレオンが作ったフランスの軍団の意味である《corp》と同じ綴りをしており、「集団」という意味、死体軍団を暗示しているのだ。

     ゾンビ 《Zombi》  出身地:ハイチ
 生ける死者。ブードゥー教の黒魔術によって墓場から蘇った死者がゾンビである。実際の解釈としては何らかの薬品によって仮死状態にした人間を、もう一度生き返らせたものがゾンビとされていて、当然普通の人間と何ら変わりない。だが、やはり映画のイメージのゾンビのほうがモンスター的でかえってリアルに感じてしまう。ここでいう映画とは、アメリカ人映画監督G.E.ロメロの映画『ゾンビ』のことである。  キリスト教徒たちは、最後の審判において、死者が再び復活し、神の国で永遠に生きることができると考えていた。G.E.ロメロの『ゾンビ』はそうした信仰を逆手にとり、時至らずして墓から蘇った者共の恐ろしさを描いた傑作映画である。もちろん東洋やアフリカ、キリスト教が浸透する前のヨーロッパにも、死者が蘇ることへの原初的恐怖は常にあった。  その映画を踏まえた現在の一般的なゾンビ像は、半ば朽ち果てた屍体が魔法あるいは薬品の作用で偽りの生命を得たもので、生者を襲いその肉、もしくは脳みそを喰う。知性はなく、生前の肉体記憶に従って行動する。ゾンビに襲われ、喰い殺された者もまたゾンビになるという伝染性を持っている、というもの。ゾンビを殺すには頭部を切り離すか、わずかに残った脳を破壊するしかないようである。  さて、人がゾンビになるのなら、犬や他の動物たちがゾンビになってもおかしくはない。しかしキリスト教には動物には魂がないという考え方がある。すると魂を持たない動物たちは、生まれた時からゾンビかもしれない……?


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