XIII.外道



  1)外道
 悪魔であって悪魔でない。本来の道を踏み外してしまった人間であったり、悪魔に精神を乗っ取られている人間の影の部分、実体化できずに不定形になってしまった悪魔、さらには得体の知れない念の集合体である。


     オールド・ワン 《Old one》  出身地:宇宙
 古のもの《Elder Thing》ともいう、クトゥルー神話に見られる、神であり怪物でもある存在。彼らは太古の地球に宇宙から訪れたと言われる生物である。その外見はウミユリに似た半植物のような形態をしており、星形の頭、樽を立てたような胴体、多様な触手、5つの翼を持っているという。星間移動の際の真空の絶対零度や激しい温度変化、大洋最深部の水圧など、あらゆる状況に耐え得る強靭な体を持っている。その体は食物の摂取も呼吸も必要とせず、体内における化学変化によってのみ生き続けることが可能である。とはいえ、やはり獣などの有機体からエネルギーを得たほうが活動は活発になるようである。
 このグロテスクな怪物は意外にも高度な文明を有しており、人間が生まれる以前の遥かな昔、地球は彼らに支配されていた。しかし、栄枯盛衰の摂理は彼らにも覆しようがなく、今では深海のごく一部に分布するのみである。
 さきほど神でもある、と言ったのには理由がある。彼らが何十億年もの昔に地球に降り立った際、単純な有機体を創造している。つまりクトゥルフ神話では、現在地球に生息している生物は、彼らオールド・ワンが創造したとされるのだ。キリスト教の聖典『聖書』で神は五日目に獣を作ったとあるが、彼らオールド・ワンは我ら地球の全生物の始祖を創ったのだ。

     バグベアード 《Bag baerd》  出身地:イギリス
 イギリスに住む、はっきりとしない姿をした怪物。幽霊。木の根から生まれたとも言われる。

     シャドウ  《Shadow》  出身地:全世界
 ユング心理学における「悪」の意識。表面的な自我と相対する立場にあるネガティブな無意識で、ときに自我とは独立して成長する。

     ドッペルゲンガー 《Doppelganger》  出身地:全世界
 二重体と呼ばれ、普通は自己の暗黒面を表す存在。それは自分自身であり、自分では制御できない自己の中のデーモンである。この危険な存在が姿を現す時は、意識である自己を大変憎んでいると考えてよい。この危険な存在に敗れることは、己自身がデーモンに支配されることにほかならない。
 一般に、ドッペルゲンガーは死の予兆であるとされる。多くのそれは遠くの場所から他人によって見られるが、稀に死の直前、自分自身で見ることができることもあるといわれる。
 ドッペルゲンガーは自分自身の影であるにもかかわらず、まれに異性形で現れることもある。ヘルマン・ヘッセの『ステッペンウルフ(荒野の狼)』には、この異性タイプのドッペルゲンガーが妖しく描かれている。

     マッドガッサー 《Mad gasser》  出身地:不祥
 未知の毒ガスを撒き散らして人々を苦しめる、黒ずくめの姿をした怪人。撒き散らされるガスは甘い匂いをもつが、その後激しい頭痛と吐き気に見舞われるという。
 彼は人々が忘れかけたころになると現れる。東京の地下鉄に現れたマッドガッサーは比較的記憶に新しい。

     クリス・ザ・カー 《Cris the Car》  出身地:アメリカ
 ジョン・カーペンター監督の作品『クリスティーン』に出てくる車。

     狐狗狸さん 《Kokkuri san》  出身地:日本
 文字盤の上に10円玉を置き、3人で押さえて質問すると、10円玉を動かして答えてくれるが、きちんと返礼しないと祟られてしまう。

     ナイトストーカー 《Night stalker》  出身地:不祥
 悪魔崇拝者、または悪魔主義者とも呼ばれ、人殺し、幼児虐待、麻薬、売春などの犯罪行為を犯し、裏社会で活躍する者たちのこと。
 彼らは悪魔に忠誠を誓っており、誘拐してきた犠牲者を生贄として悪魔に捧げる。その犠牲者の多くは子供であり、これは神が愛する子供を汚し、殺すことによって神を憎む悪魔の欲求を満たそうと考えているのだ。誘拐、あるいは自らの子を儀式の生贄として使用し、そのすべてを悪魔に捧げるという。

     ジャック・ザ・リッパー 《Jack the Ripper》  出身地:イギリス
 19世紀末、正確には1888年のロンドンの夜を恐怖の渦に巻き込んだ連続殺人鬼。街頭に立つ7人もの娼婦が、無残にも鋭利な刃物で切り裂かれて次々と殺されていく。見事なナイフさばきをスコットランド・ヤードに披露した犯人は「切り裂きジャック」とあだ名された。英国犯罪史上でもっとも有名な迷宮入り事件で、犯罪研究家、推理小説家の好個なテーマとなった。

     やくざ 《Yakuza》  出身地:日本
 暴力団関係者のこと。古くは自らのことを「極道」と呼びならわし、理にかなわない要求をするような役人達に、一般市民に代わって反抗する者のことであったが、近年に至るとサタンにとりつかれ、ありとあらゆる手段を駆使して自らの利益のみを追求するようになった。理性をなくした彼らは、暴力でさえ手段のひとつに過ぎない。(大天使サタンの項を参照)
 語源は「三枚」というバクチで、「893(やくさ)」という最悪の目が出ることから、「役に立たないこと、まともでないこと」を指すようになった言葉。

     スライム 《Slime》  出身地:不明
 流動性で不定形の体を持つ生命体。名はスラングで「悪の世界」という意味。
 スライムのもとになっているものはアメーバという単細胞の微生物である。アメーバは粘液状の体から仮足を伸ばし、他の微生物を包み込んで消化、吸収してしまう。このアメーバが巨大になり人間を襲ったら……。この想像のあまりのおぞましさからモンスターとしての地位を確定したのであろう。いずれにせよ、わりと最近に創造された怪物である。



  2)虫族
 虫の姿をとる魔物たち。魔術的に合成されたものや齢経た虫が変化したもの、あるいは人間の怨霊や念が変化したものである。


     パラサイト 《Parasite》  出身地:全世界
 寄生虫。

     モスマン 《Moth man》  出身地:アメリカ
 巨大な蛾のような姿で、全身が黒い毛で覆われている。2本足で地上を歩き、羽ばたきもせずに飛び上がるという。
 1966年頃、ウェスト・ヴァージニア州を中心に目撃された謎の生物で、その証言数は実に数百にもおよんだ。赤く輝く2つの目が特徴のひとつで、この目を見た者はすくんで動けなくなったという。モスマンが現れるときは、UFOが観測されるという証言があることから、その正体は地球外生物だとする説もある。

     ゴッギー 《Goggy》  出身地:イギリス
 ヨークシャー地方の民間伝承に見られる、巨大な毛虫の姿をした子供部屋の悪魔。正しく「オード・ゴッギー」と呼ばれる。果物を盗み食いするしつけの悪い子を食べるという。
 ゴッギーは果物の守護者であり森や果樹園に棲み着くとされるが、ふつうは子供部屋に現れると言われる。子供が果物を盗まないようにと考えた母親達が生み出した、想像上の悪魔と考えられる。

     ミルメコレオ 《Myllmecleon》  出身地:ギリシア
 ライオンの精子と蟻の卵子が受精し、獅子の上半身と蟻の下半身をもって生まれてくる怪物。半身同士の食の違いから、何も食べることができず、餓死してしまうという。
 元来は聖書のヨブ記にある「老いたる獅子」だが、その誤訳によってこの奇妙な生き物が生まれた。

     お菊虫 《Okiku mushi》  出身地:日本
 無実の罪をきせられて縛り上げられたあげくに殺されたお菊という娘の怨念が、この妖怪になったとされる。蝶のサナギのような姿をし、恨みのこもった声を発する。
 このお菊という娘は、番長皿屋敷で有名なお菊とは別人であるが、認知度の違いからかしだいに混同されるようになった。
 もとはジャコウアゲハのサナギのことで、朱色の斑点が異様なためにこう呼ばれた。お菊神社の霊虫。

     ヨーウィー 《Yo wiee》  出身地:オーストラリア
 昆虫のような6本の足をもった蜥蜴。夜行性でサンプルが少なく、これまでに詳しい生態などわかっていない。肉食で、ときどき家畜を狙うことがあるようだ。

     うぶ 《Ubu》  出身地:日本・佐渡島
 間引きされた赤ん坊の霊が変じたといわれる、巨大な蜘蛛。赤ん坊の泣き声を真似て通りすがりの生者を引き寄せ、命を奪う。


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