0.神々の系譜
1)神話
世界各地の神話をそれぞれについて紹介するとともに、その中の主要な神を併記した。神話はたがいに影響しあって変化していったもので、性格のよく似たものが多く、比較してみるとなかなかおもしろい。
インド神話 地域:インド 文明:インダス
紀元前3000年ごろから栄えたインダス文明に始まり、バラモン教、仏教、ヒンドゥー教と変遷していった。現在インドではヒンドゥーがほとんどの地域で支持され、仏教はほんのわずかな部分以外は残っていない。ヒンドゥーの源流はバラモン教であり、仏教の興隆とともに反バラモン運動がおこった。バラモン教は再編成され、土着神を取り込み、タントリズムをもって民衆を取り込み、6世紀ごろにヒンドゥー教として成立した。
・主要文献 『リグ・ヴェーダ』(紀元前1200年ごろ)
『ブラーフマナ』(紀元前10〜紀元前6世紀ごろ)
『ラーマーヤナ』(バールミーキ/紀元前5世紀〜紀元前3世紀ごろ)
『マハーバーラタ』(4世紀以前)
『プラーナ』(4〜14世紀ごろ)
・主神 ヴィシュヌ シヴァ ブラフマー
・創造神 プラジャーパティー
・太陽神 ヴィシュヌ スーリヤ
・破壊神 シヴァ ヴリトラ
・雷神 インドラ
・地母神 カーリー ドルガー ガンガー
・美の女神 ラクシュミ
・冥界神 ヤマ
エジプト神話 地域:エジプト 文明:エジプト
エジプト文明はメソポタミアの影響を強く受けており、ナイル川を中心に栄えた。ヒエログリフと呼ばれる象形文字やパピルスの記録を数多く残しており、資料も多い。
・主要文献 『ロゼッタ・ストーン』(プトレマイオス5世の頌徳碑/紀元前196年)
『死者の書(アニのパピルス)』
・主神 ラー アメン アメン・ラー
・創造神 フヌム アメン(ラー)
・太陽神 ラー アメン ケプリ
・破壊神 ハトホル
・雷神
・地母神 イシス ヘケト
・美の女神 ハトホル
・冥界神 オシリス アヌビス
オセアニア神話 地域:オセアニア 文明:アボリジニー、マオリ族
・主要文献 『メラネシア人』(R・H・ゴドリントン/1891年)
・主神 カネ
・創造神 カト マウイ タネマフタ
・太陽神 ランギ カネ・ヘキリ タマ・ヌイ=テ=ラ
・破壊神 トウ・マタウエンガ
・雷神 タフィリ・マ・テア
・地母神 パパ
・美の女神
・冥界神 マケア=トゥタラ
ギリシア神話 地域:ギリシア 文明:ミネア、ミケーネ
エーゲ文明圏の諸神話と混融していたが、おもにホメロスとヘシオドスとによって洗練され、体系づけられた。ヨーロッパ諸国の美術、文芸に強い影響を及ぼした。日本では他の神話に比べて一般的。
・主要文献 『イリアス』『オデュッセイア』(ともにホメロス/紀元前9世紀ごろ)
『神統記』(ヘシオドス/紀元前8世紀ごろ)
・主神 ゼウス(アンモン)
・創造神 ウラヌス
・太陽神 アポロン
・破壊神
・雷神 ゼウス
・地母神 ガイア ヘラ デメテル
・美の女神 アフロディテ アテナ
・冥界神 ハデス ペルセポネ タナトス
ケルト神話 地域:ブリテン島 文明:巨石文化、ケルト民族
アイルランドに伝わる叙事詩群が元となるが、北欧あるいはローマ神話との共通項が多く、ルーツは同じ。しかしケルト神話の場合、神々よりも妖精のほうが目立つ妖精譚のほうが多い。
・主要文献 『ガリア戦記』(カエサル、ヒルチウス/紀元前58〜51年)
『オシアン』(J.マクファーソン/1765年)
『ラーイーン』『エリン来寇の書』『トイン』『マビノギオン』
・主神 ヌァザ ダーザ
・創造神 (創成神話はとくにない)
・太陽神 ルー ベレノス
・破壊神 ブリクリウ
・雷神 タラニス
・地母神 ダヌー ブリジット
・美の女神 ブリジット
・冥界神 ドンナムナ ケルヌンノス
シュメール神話 地域:シュメール 文明:バビロニア、ヒッタイト
中近東、オリエントの原形となる神話のひとつ。メソポタミア文明に始まり、楔形文字から解読されたもので、エジプトやバビロニアとの共通点が多い。
・主要文献 『アッシュール遺跡粘土板』『ニッブル遺跡粘土板』
『エヌマ・エリシュ』『ギルガメッシュ叙事詩』
・主神 マルドゥーク
・創造神 アプス(エンキ) ティアマット
・太陽神 ウトゥ アヌ
・破壊神 エンリル
・雷神 ニヌルタ ズー
・地母神 イナルナ アンスン アルル
・美の女神 イナルナ
・冥界神 エシュギガル ネルガル
スラブ神話 地域:スラブ(東欧) 文明:ゲルマニア、ゴート
スラブ神話は成熟期に入る前に、キリスト教によって排斥されたため、伝承や物語などはほとんど残っていない。
・主要文献 『イーゴリ軍記』(1185〜88年)『原初年代記』
・主神 スヴェントヴィト トリグラフ
・創造神 ペルーン
・太陽神 ダージボグ ベロボーグ
・破壊神 チェルノボグ トリグラフ
・雷神 ペルーン
・地母神 モコシ
・美の女神
・冥界神
中国神話 地域:中国 文明:黄河、殷
古代中国の神話に、仏教の伝播とともに取り入れられたインドの神々が中心。後に神仙説の流行にともなって、神々ではなく神の位についた人間、神仙となった。神仙は人間の現実的欲望の実現者であり、不老不死である。日本神話にも多大な影響を与えている。
・主要文献 『淮南子』『山海経』『神仙伝』(葛浜/3世紀)
・主神 元始天尊 玉皇上帝
・創造神 盤古 重黎 元始天尊
・太陽神 義和 蜀陰 火鳥
・破壊神 斉天大聖
・雷神 雷帝
・地母神 女か
・美の女神 西王母 天仙娘々
・冥界神 北斗聖君 閻魔
日本神話 地域:日本 文明:大和朝廷
『古事記』『日本書紀』に残された神代の物語。歴代天皇を中心としたもので、他国の神話と異なり、創世神話も「日本」のみを産んでいるところが特徴的。記紀神話とは別に、俗に『竹内文書』と呼ばれる、学会には認められていない神話も多く、そこではユダヤ神話などにもつながる世界的なビジョンも描かれている。
・主要文献 『古事記』(太安万侶/712年)
『日本書紀』(舎人親王、太安万侶/720年)
『風土記』
・主神 天照大神 荒吐神(縄文)
・創造神 伊弉諾尊 伊弉冉尊
・太陽神 天照大神
・破壊神 素戔嗚尊
・雷神 武甕槌神
・地母神 伊弉冉尊
・美の女神 天鈿女命 此花開耶比売
・冥界神 月読命
フェニキア神話 地域:シリア 文明:カナアン、フェニキア人
エジプトにも影響を与えたが、『旧約聖書』を信仰するユダヤ人たちに迫害された。
・主要文献 『ウガリットのラス=シャムラ粘土板』
『エジプトのアスタルテ・パピルス』『旧約聖書』
・主神 エル バール ハダト
・創造神 ヒッタイト
・太陽神 シャプシュ
・破壊神 イルルヤンカシュ アンズー
・雷神 バール
・地母神 アナト アスタルテ
・美の女神 アナト アスタルテ
・冥界神 モト
ペルシア神話 地域:ペルシア 文明:メソポタミア
インド同様、アーリア人の神話であり、共通部分は多い。古代神話、ゾロアスター教、叙事詩『シャー・ナーメ』の3つの段階で変遷する。
・主要文献 『アヴェスター』(3世紀ごろ〜)
『叙事詩シャー・ナーメ』(フィルダウシー/965〜985年ごろ)
『デーンカルド』『ブンダヒシュン』『スィースタン伝説』
・主神 アフラ・マズダ
・創造神 アフラ・マズダ
・太陽神 アフラ・マズダ ミスラ
・破壊神 アーリマン アジ・ダハーカ
・雷神
・地母神 アナーヒーター
・美の女神 アシ
・冥界神 アーリマン
北欧神話 地域:北欧 文明:ドルメン文化、ゲルマン民族
ゲルマン神話とも呼ばれ、世界創造神話、善悪両神の闘争神話、主神オーディンを中心とする巨人、小人の物語。アイスランドに伝わる『古エッダ』と総称される多数の詩に描かれた。ケルト同様、古代ゲルマン人の開闢神話。
・主要文献 『古エッダ』(9〜12世紀ごろ)
『エッダ』(スノリ・ストゥールルソン/13世紀)
『ヴェルスング・サガ』(13世紀)
・主神 オーディン
・創造神 ユミル オーディン
・太陽神 バルドル
・破壊神 ロキ
・雷神 トール
・地母神 フリッグ フレイア
・美の女神 フレイア
・冥界神 ヘル バルドル
メキシコ神話 地域:中南米 文明:マヤ、トルテカ、アステカ
・主要文献 『ポポル・ヴフ』『ティラム・バラム』『クァウティトラン年譜』
・主神 ケツァルコアトル
・創造神 ツァコル ビトル ビラコチャ コワトリクエ
・太陽神 ケツァルコアトル インティ トナティウフ
・破壊神 オセロット
・雷神 トラロック
・地母神 チャルチーウイトリクエ
・美の女神 マヤウエル
・冥界神 テスカトリポカ ミクトランテクトリ
モンゴル神話 地域:モンゴル 文明:スキタイ
・主要文献 『叙事詩アバイ・ゲセル』『モンゴル秘史』(13世紀)
・主神 ハン・テュルマス
・テンゲリ フヘディー・メルゲン
・創造神 エヘ・ボルハン
・太陽神 ナラン
・破壊神
・雷神 フヘディー・メルゲン
・地母神 ウルゲン エトゥゲン・エヘ
・美の女神
・冥界神 マヤス・ハラ アター・オラーン
ローマ神話 地域:ローマ 文明:エトルリア、ヘレニズム文化
ギリシア神話とほぼ同じものだが、言語の違いから神の名が異なる。
・主要文献 『アイネーイス』(ウェルギリアス/紀元前30〜紀元前19年)
『ガリア戦記』(カエサル/紀元前58〜紀元前51年)
・主神 ユピテル
・創造神 キュベレ
・太陽神 アポロ
・破壊神
・雷神 ユピテル
・地母神 アッカ キュベレ
・美の女神 ウェヌス
・冥界神 プルト
[TOP]
[目次]
[索引]