第2章 鼎器

 

第1節 鼎器のあらまし

 小周天の修練は、風(呼吸)・火(元神)・薬(陽気)の3つを身体の内部で交互に進行させるものである。呼吸・元神・陽気は、身体の内部 で活動するので、仙学では身体のことを「鼎器」と呼ぶ。
 清浄法の鼎器は、修行者自身を指す。栽接法の鼎器は、それより広義で、内鼎と外鼎の区別があり、内鼎は修行者自身を指し、外鼎は「同類彼家 [パートナー]」のことを指す。

第2節 守竅

 竅とは空っぽの穴を意味する。身体には多くの竅があり、修行者が意識を集中させる場所である。守竅は、逆に返るという仙学で常用する方法 のことである。人の心はいつも外側へ向かい、身体と共存共栄することはない。意識が外へ馳せると、月日が経つうちに肉体は次第に衰え、最後に は肉体と意識は完全に分離し、生命を終わることになる。
 守竅には、身体の外側を守る[保持する]ものと身体の内側を守るものがある。一般的には、身体の外側を守るものは、比較的弊害がないが、結 果がでないことがよくあり、結果が出始めるのも非常に遅い。これは、融通の利く人でなければ上手くいかず、一般の人が出来るものではない。身 体の内側を守るものは取り掛かりに比較的に便利で、様子が現れやすく、結果が出始めるのも非常に早い。一般の人はこのやり方を好むが、しかる べき時に守るべき竅を換える必要があり、とことん一つの竅を守るものではない。竅を換える時は比較的手間が掛かる。
 ここで、比較的よく知られている竅を参考のために列挙する。

  1. 泥丸:泥丸を守る方法は非常に一般的な方法である。守り方が強すぎると頭がくらくらすることがあり、血圧の高い人には適さない。
  2. 膻中:両方の乳房の間の穴である。坤道[女子の内丹修練法]ではこの竅を守ることが多い。
  3. 黄庭:臍の上4寸2分の所にあり、精を漏らしやすい者はこの竅を守るとよい。
  4. 臍下丹田:この竅を守るのは最も一般的で、坤道でもこの竅を守る者がある。あまり緩めすぎると火力は不足し、緊張させすぎると腹中に 硬い塊ができる[脾臓の肥大による]。弛緩と緊張の間で調和を取って活用するべきである。
  5. 陰蹺:俗に海底と呼ばれ、会陰とも呼ばれ、陰嚢の後ろ、肛門の前の小さな範囲に位置する。この竅を守ると陽気が発生しやすい。陽気が 生じるまで守ると、だいたい上の方へ移してやる。
  6. 夾脊:この竅を守ると比較的陽気が発生しやすく、腎を益する。陽気が生じるまで守ったら、守る竅を換えてやる。
  7. 準頭[鼻の先]:平易で安全である。
  8. 山根:両目の間に位置する。ある宗教団体ではこの竅を守ることが多いが、簡単ではあるとはいえ泥丸を守るのと同様な弊害を生じる。
  9. 印堂:「山根」の作用に似ている。

 以上の9つがよく知られている竅であり、守る時にはリラックスして自然にしていれば、弊害は起きない。そのほか内側でも外側でもない所を 守ることを主張する者もあり、だいたい「中」という字を最も重視する。これは身体の外側を守るものとやり方は異なるが成果は同じである。

第3節 鼎の分類

 仙学には、天元・地元・人元の三元丹法がある。三元は、横には3本の仙の路であるが、縦には1本の仙の路であり、どれも神仙に通じる大道 である。三元による分類の仕方は人によって異なる。人元は小周天・大周天を指し人間本位の修練方法であるという考え方がある。人元は呂祖が伝 授して以降、東西南北の4派に分かれた。東派は陸潜虚、西派は李涵虚、南派は張紫陽、北派は邱長春である。この4派は外鼎を用いるかどうかに よって、実際には清浄法と栽接法の2種類に分けられる。
 清浄法か栽接法かの違いによって修行方法は異なるのだが、見解が違い方法が異なると、いつもあれやこれやと揚げ足を取り合う。実際にはこの ような論争は余計なことである。各人の修練では、有用なところだけ把握すればよいことであって、どうして他人と議論する必要があるのだろう か。
 ここで清浄法と栽接法を比較してみる。

  1. 陽気の生長:
    清浄法は進み方が比較的緩慢で、効力は小さい。栽接法は進み方が比較的速く、効力は大きい。
  2. 鼎器の処置:
    清浄法は容易である。栽接法は困難で、9つの鼎を用いるものもあれば、1つの鼎だけを用いるものもある。修行が完成した時には、これらの 外鼎を適切に処置してこそ、仙道に悔いが残らない。
  3. 修練の費用:
    清浄法は比較的に少ない。静かな部屋と一枚の座布団、それに仲間が一人か二人いればよい。栽接法は多くの費用がかかる。丹房[丹を煉る部 屋]の構造に気をつけなければならないほか、器皿・外鼎の設置や仲間の扶助の費用も見ておくべきである。
  4. 伝授の方法:
    清浄法は簡単で、比較的公開されている。栽接法は複雑で、極秘としてこれまで軽々しく伝えなかった。

 

許進忠著 《築基参証》(台湾・真善美出版社)より
(参考:許進忠著、神坂雲太郎訳 《築基参証》)