今月の表紙から / 2001.4, 6
AiAF Nikkor 50mm F1.4D



交換レンズとしての「標準」の強さ

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35mmフィルムシステムにおいて、50mmレンズが「標準レンズ」と呼ばれるのはご存じの通り。「135」フォーマットの対角線長である43mmを含む、焦点距離40〜60mmのレンズを、広義の標準レンズといってよいだろう。以前は一眼レフカメラを買うとセットでついてくるのが、この標準レンズであった。

いまでは焦点距離50mmを含むズームレンズ、いわゆる「標準ズーム」にその座を奪われた単焦点標準レンズだが、それでも崇拝、というほどでもないが、信仰は根強いと思う。「写真は標準(レンズ)にはじまり標準に終わる」「写真上達への道は標準の使いこなしから」なんて言い方も所々でされている (ズームレンズ嫌い、というか不信がその根底にあるような気もするが)。しかし私には、標準だけで撮って上達できるかというと疑問を感じるし、実際自分の中でも標準レンズは単なる「交換レンズ」の一種だ。


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50mmの画には素直な遠近感を感じる (青海川-鯨波 2000.8)
[Nikon F5, AF50mmF1.4D, RDPIII, 1/1000s, f3.2]

交換レンズとして見たときの標準レンズの利点は、「明るい」「それでいて軽い」「それでいて安い」ことだろう。一昔前なら「寄れる」ことも挙げられたが、最近はズームもかなり「寄り」が効くので今ではアドバンテージはないと思う。

一方、欠点はあまり挙げられることがないようだが、使用してみると思ったより「狭い」という点が感じられ、スナップにはあまり向かない。室内など「引き」が効かない状況では、やはりズームが便利だなと思う。

とはいえこの視野角は、遠近感を素直に表現でき、見上げても見下ろしても、被写体の形を誇張なく写しとれる。これは欠点を帳消しにする大きなポイントとして挙げておきたい (ズームで50mmを選択するのも同等ではありますが)。撮影距離と絞り値の選択で、画像の視覚効果が大きく変化するのも特徴の一つだ。


各社の現行標準レンズラインナップでは、F1.2〜1.8という明るさ。これはF2.8クラスのレンズにプラス2段、光量にして4倍と、まず大口径ズームでも到達しえないところだ。ニッコールではMFでF1.2,1.4、AFではF1.4,1.8。

普及クラスのズームと付け替えてファインダーを覗くと、その明るさの差は歴然。これだけで腕が上達したと思わせるほどの違いになる。AFを駆動させる場合は、F値が明るいほど速度・精度の面で有利だし、より高速シャッターが使えて手ブレや被写体ブレを軽減できるわけだから、標準レンズを使って撮影することは実際に「腕の上達」に役立っていると言えなくもない。


Trying with Playing

AF50mm F1.4D は標準ズーム、望遠ズームに続く交換レンズとして私の機材ラインナップに加わった。プラ鏡筒で質感がないなんてことは気にせず、割り切って無造作に扱っている。細かな傷がつき文字も一部剥げてきているが、中身はいたって健康。フードはラバーの HR-2 が適合品だが、MF用の金属製 HS-9 も問題なく使用できる。

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南武線桜夕景 (府中本町-分倍河原 2001.4)
[Nikon F5, AF50mmF1.4D, RDPIII, 1/20s, f3.2]

これと AF35mm F2D を使って、夕刻で光が落ちてゆくころに遊ぶのが、最近の楽しみの一つになった。4月表紙はそういう「遊び」のカットである。

夕刻から日没後、ISO100・絞り開放f1.4〜f2.8でシャッタースピードはだいたい1/20秒〜1秒くらいになる。これでフラッシュ無しに撮っても (注意: 走行中の車両正面にフラッシュを炊くのはやめましょう!) 被写体が止まるわけがないし、手ブレとあいまって正体不明の写真に終わるのがオチだ。

ここで選択肢は二つに分かれる。一つはカメラをがっちり固定して被写体を流し、「動」と「静」の対比をうつし出す方法。もう一つは被写体に合わせてカメラを振る、いわゆる「流し撮り」。私は後者がお気に入りだ。

被写体は40〜50km/h程度。速すぎると被写体ブレ、遅すぎると手ブレを起こしてしまう。被写体が近づいてきたら、フォーカスエリアに位置をあわせる。ピントはカメラに託し、車両のどこか一点を凝視しつつ、動きに合わせて身体ごとゆっくりと振り切る。

そうそう完璧にいくわけでもないが、逆に大失敗も少ないのが、この方法の「それなりに」いいところだ。背景と角度をうまく選ぶと、被写体の先頭部・ヘッドライトが静止し、後ろに街の灯が流れるという、幻想的な雰囲気を出すこともできる。


目標、「動止」!?

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「ミラー」がうまくいったらこうなる (富水-栢山 2000.6)
[Nikon F5, AF50mmF1.4D, RVP, 1/60s, f3.2]

6月表紙は、走行中の車両を真横から撮ったもの。この種の鉄道写真としては、廣田尚敬氏の写真集「動止フォトグラフ」が有名だ。

ふつうはもうすこし長焦点のレンズを使って離れた位置から撮るのだが、ここでは線路を境に対称の構図を作るため、標準レンズの出番となった。ほんとうは水が張られたばかりのときに、きちんとした水鏡にして撮りたかったものだが、悔しいことに失敗してしまった。以来この時期になると頑張って何度も撮りに行くものの、水量がある程度ないとダメだし、風がちょっとでも吹くと波立って映らないし、畦はきちんとよけなければならないし……と、意外に条件は難しいものなのである。


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