「あこがれ」の大口径
大口径望遠ズーム。
「ズームなんて……」と見下していた人々を黙らせたのは、たぶんこのクラスのズームレンズだと思う。
85mmや105mm、135mmといった中望遠の焦点距離を一気に取り込み、そしてF2.8という明るさをもって豊かなボケを演出することができるこのレンズは、ポートレートなどに非常に威力を発揮する。またその堂々たる風格には持つ喜びを実感させてくれる。そんなレンズは他にそうそうあるものではない。
一眼レフを持つ人にとって、たとえば「サンニッパ」とよばれる300mmF2.8、それ以上の超望遠レンズは憧れの存在であろう。しかしその値段は30〜50万以上と半端でなく、重量も3kg以上となればふつうは尻込みするはずだ。
で、次に憧れとなるのがこの大口径ズームだと思う。もちろん普及型のレンズに比べれば大きく重く、そして高いけれど、多少背伸びをすれば届く範囲であろうし、またその憧れと期待にそむかない描写力を見せてくれるものだ。各メーカーもそれは承知、高価な硝材をふんだんに使い、ラインナップでもっとも力の入っているレンズだと言える。
AF-Sは、ニッコールにおける大口径望遠ズームの5代目にあたる。まずは Ai ED 80〜200mm F2.8S。フロント径95mm 重量1.9kgの堂々たる超大口径レンズだった。つぎに AiAF ED 80〜200mm F2.8S。プラ鏡筒が標準となったAFニッコールにおいて「別格」を示すかのように、金属鏡筒にチリメン状の塗装をほどこした。
のちに光学系はそのまま、距離エンコーダの内蔵とともに鏡筒設計を変更してレンズ前頭が回転しなくなった3代目の AiAF ED 80〜200mm F2.8D が登場。さらにズーム方式を回転式に改め、三脚座も付けた4代目の 同 F2.8D<New> が F5と同時に登場している。
AF ED 80〜200mm F2.8D は、このクラスとしてはレンズメーカー製を含めてもかなり低価格な方で、性能にも一定の評価は与えられていた。しかしライバルのキヤノンは EF80-200mmF2.8L に続いて「白レンズ」の代表格、EF70-200mmF2.8L USM を登場させた。こうなるとボディモーターで駆動する4代目まではどうしても見劣りしてしまうのは致し方なかったが、F100と同時にようやくAF-S第2弾として、AF-S ED28〜70mmF2.8D と同時期にリリースされた。
キヤノンは一眼レフレンズ初の手ブレ防止機能を搭載した「ISレンズ」をリリースし、このクラスにも EF70-200mm F2.8L IS USM を投入。対してコンパクトカメラながらはじめて手ブレ防止機構を装備した「ニコン700VR」を発売したことのあるニコンも、VRレンズ第2弾として AF-S VR ED 70〜200mm F2.8G を発表し、真っ向から対決することになる。
ズーム2本
私は現在3代目も所有している。(しかもその前に70-210mmのレンズもある!) 中古ですこし高めだがいい出物があったので、それまでは300mmに興味を示していたのに転んでしまった。期待に違わず安定した描写性能を見せてくれた。
それなのになんでまた……というと、やはりモーター内蔵であったり、三脚座がついていたり、AF-Sテレコンバーターにも対応しているから……という理由をつけていたと思う。1年後、ライトグレーが発売されると購買意欲がさらに高まって、結局……というところである。
実際に持ってみるとやはり大きくて重い。しかし灰白色の鏡筒は私には軽快に感じる。また、夏場の強い陽射しを受けても暑くならず、したがって鏡筒内部の温度上昇も押さえられる効果が期待できる。
フードはこのクラスでは最大級の花形フード。先代までは浅い円形で、しかも別売りだった。ライトグレーモデルはフード外側もグレーというのが珍しい。
[Nikon F70, AF Nikkor ED 80-200mm F2.8D, RDPII] | [Nikon F5, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D (IF), RDPIII] |
2〜4代目の光学系はテレ端での糸巻き型歪みが顕著で、ファインダーを覗いた時点でかなりはっきりわかる。鉄道撮影でよくあるアングル、直線を走る列車を斜めからとらえる場合に、この歪みは少しばかり悩みどころではあった。AF-Sではだいぶ改善されていると感じる。
桜並木を目に (玉川学園前-町田 2001.4) [Nikon F5, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D (IF), RDPIII] |
2,3代目ではズームリングが直進式で、かつフォーカスリングを兼ねていた。A-Mリングの切り替えで、AF時はすばやく(といっても前玉フォーカスなので重いが)、MF時はよいトルクをもっている。ただ、ズームが「押すとワイド、引くとテレ」という形を取っている。ふだんはそれが問題になることはないのだが……
朝や夕方など、被写体を止めたい場合にとられる手法として、流し撮りしながらズーミングというものがある。被写体が接近するのに合わせてテレからワイド方向へズームするわけだ。こうすると少なくとも正面のブレが最小限に押さえられる。で、このタイプの直進ズームだと感覚が逆なのでうまくいかない。回転式ズームであれば、親指をズームリングに引っかけて回しながらでよい。AF-Sでようやくできるようになった。
名所の花盛り (相武台前-座間 2001.4) [Nikon F5, AF-S Nikkor ED 80-200mm F2.8D (IF), RDPIII] |
さて、2002年4月の表紙は、小田急線随一の桜名所での一枚。座間市相武台付近にある桜並木、その南端が都合よくカーブしていて、架線柱に邪魔されずに走ってくる電車を桜と並べて撮れるとあって、花の季節にはこのように多くのファンが訪れる。プロカメラマンが顔を見せることもある。
この画面の左下は、無い。壁の上、柵との間のわずかなスペースしかないので、基本的には一直線に並んで撮ることになる。譲り合いの精神で。
休息 (開成-栢山 2001.6) [Nikon F5, AF-S Nikkor 80-200mm F2.8D (IF), RVP] |
続いて5月。小田急線でも田んぼのある光景はすこしずつ減っているが、開成〜栢山付近はまだ多く残っている。草取り、虫取りに放たれているのだろうか、ここには鴨が住みついて、田んぼや水路を行き来している。