今月の表紙から / 2002.1
Reflex Nikkor 500mm F8 <New>


ミラーレンズ 〜 小さな望遠鏡

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スチルカメラ用レンズの構造には、一般的な屈折光学系のほかにもう一つ、反射光学系がある。反射光学系は、光を鏡筒内に配置した2枚の凹凸面鏡で反射させて低屈折で焦点距離を稼ぐ方式で、天体望遠鏡ではおなじみの構造だ。カメラ用のレンズでは、これに屈折レンズを通して結像させる「カタジオプトリック光学系」が使われている。

かつては各社ラインナップ中、コンパクトな超望遠レンズとして必ずこのタイプ、「ミラーレンズ」「レフレックスレンズ」が上がっていた。しかしAF時代に入ると、その暗さ(F8)に加え測距回路の特性でAF化させることが難しく (それでもミノルタはαレンズ、APS のVレンズで唯一のAFミラーを登場させているが)、また望遠ズームレンズも焦点距離 400〜500mm まで広がってきているため、リングボケは出るし、絞りがなく光量の選択に不自由するし……というミラーレンズは存在が希薄、というより忘れ去られつつある。それでも超望遠とは思えぬコンパクトさと低価格は、忘れてしまうには惜しい。


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海釣り (神奈川・小田原市 1998.10)
[Nikon F70, Reflex 500mm, RDPII]
空港スズメ (東京・大田区 1999.2)
[Nikon F5, Reflex 500mm, RHP]

しかし、ミラーレンズは画質が悪いといった話を散見する。果たしてそうなのか?

正直に言えば、確かにこれで撮った写真にはできの悪いものが多い。一見画質が悪いように見えるが、よく見るとそれは大抵ピントがずれているか、カメラブレを起こしているか、あるいは被写体ブレが起きているかのいずれかなのだ。

ピントの問題は重要だ。F8というと、普及型ズームのテレ端からさらに1段絞ったところ。最近のAFカメラだとスクリーンも暗めに合わせられているというが、それでもピントが合っているかをアイレベルファインダーの目視だけで見るのは難しい。昔のMFカメラだとさらに厳しいだろう。(スプリットやプリズムなどは像が(かげ)るので使用できない) ファインダー像を拡大するマグニファイアーや、高倍率ファインダーの使用が有効であり、私もF5にUスクリーン (超望遠レンズ用でファインダー像がより明るい)、ウェストレベルファインダーのルーペを使用することがある。

被写界深度も超望遠域では非常に狭い。静物撮影ならばピントを前後にずらすといった技も有効かと思う。動体撮影では簡単に外れてしまうので、モータードライブに任せて連写するか、一発勝負かだ。

理論上、反射光学系は色収差が発生しない。だから下手な屈折光学系よりも、ピントの合った場所の画質は良いはずなのである。ただ、反射鏡に邪魔されて光束が中抜けするので、ピントの合っていない部分がリング状になり、それが一直線に並んでいると強烈な二線ボケが発生する。これが非常に汚くなる場合があり、結果 画像の印象を悪くするきらいがある。(天体望遠鏡では被写体はすべて無限遠だから、その問題は発生しない) 背景を選ぶレンズだといえよう。


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ニコンのミラーレンズ――レフレックスニッコールの歴史は古く、1961年・Nikon F の時代にすでに 500mm F5 というレンズが登場している。以降 500mm F8、1000mm F5.3、同 F11 と登場、一時は最長焦点距離である 2000mm F11 という超巨砲レンズもラインナップにあった。

Reflex Nikkor 500mm F8 <New> は、旧タイプの近接撮影能力を向上させたもので、最短撮影距離はわずか1.5m! 倍率は最大 1/2.5倍と、マクロレンズといい勝負である。フォーカスリングは1回転半もまわり、オレンジ色の帯が近接域を示している。

フィルターアタッチメントはレンズ前面 82mm に加え、後部に 39mm ねじ込み式が装備できる。附属の 39mm フィルターには減光用 ND4 があり、これを使って光量調節が可能だ。光学設計上、フィルターを必ず1枚装着(標準はL37c)することになっている。

長さ 109mm、重さ 840g と手持ち撮影も可能だが、なにしろ F8 である。高感度フィルムを使うのでなければ三脚は必需品といってよい。三脚に据えたからといって安心するのはまだ早く、レリーズ時のカメラブレにも十分注意したい。


5°の世界

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ススキ揺れて (神奈川・小田原市 1998.10)
[Nikon F70, Reflex 500mm, RDPII]
フレームオーバー (向ヶ丘遊園-生田 2001.8)
[Nikon F5, Reflex 500mm, RMS(+1) : 1/250s, f/8]

海をバックにススキを撮る。遠くのきらめきが作るドーナツ状のボケが独特の雰囲気を演出した。

カーブの外側から、迫りくる小田急ロマンスカー「EXE」を狙う。縦位置なら正面がすっぽり入るところだが、迫力を増すためあえて横位置にセットしてはみ出させてみた。後ろのボケがすこしごわごわしている。これが「二線ボケ」だ。

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思い出の相模原特急 (稲城-若葉台 2001.3)
[Nikon F5, Reflex Nikkor 500mm F8 <New>, RDPIII : 1/100s, f/8]

2001年3月に急行格下げとなってしまった京王相模原線の特急。本線ではすでに8000系化されたが、相模原特急には7000系や6000系が入ることもあり、かつての栄光を偲ばせていた。

カーブしている線路を駅ホームの端から狙う。100mくらい先、だが F8 でも被写界深度は数mしかない。シャッターチャンスはまさに一瞬!

このくらいの距離になるとボケ方も汚くならず、普通のレンズで撮ったのと大差が無くなる。F8という暗さも正面で動きの止まったところを狙うことで補えるところだ。


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光の中で (登戸-和泉多摩川 2001.12)
[Nikon F5, Reflex Nikkor 500mm F8 <New>, RDPIII : 1/400s, f/8]

さて、1月の写真。このところ正月恒例になっている夜明けの写真だが、今回も多摩川での撮影である。

今回は朝日を大きくしたかった。前の被写体との距離を多く取るほど、無限遠との見かけの大きさの差は小さくなる。で、前の被写体を大きくするために超望遠レンズの出番となった。橋の架替工事が進み工事機材が入っているので、余計なものを排除するためでもある。

太陽の動きは思ったより速い。地球の自転を感じる瞬間だ。と感慨にひたる間もなく、よい構図の取れる時間はだいたい1〜2分くらい、その間に電車が来てくれなければ意味がない。朝っぱらから気をもみながらの撮影である。光も出端では弱いが、昇るにつれて強烈になっていき、ウェストレベルファインダーを使っての撮影でも、かなりくらくらとくる。アイレベルファインダーの覗きっぱなしはお勧めできない。

車両のシルエットを撮る場合、後ろを「抜いて」車体の形を浮かび上がらせるのはもちろん、窓の形もはっきりとわかるようにしたい。激しい混雑で知られる小田急線だが、各駅停車であればこの区間は比較的空いている。真横からの撮影で、客室内の落ち着いた雰囲気と運転室の緊張が伝わってくる。

多摩川橋梁の工事も順調に進んでおり、現在上流側に新しい橋桁が架けられている。去年は登戸側だったが、すでに和泉多摩川側も橋桁を据える工事が始まっている。新橋梁の方が高いので、架け替えがすむまでこのアングルはしばらくお蔵入り、ということになる。