{{category 省エネ,診断,事業者}} !! 検討の背景  省エネ等を進めていくためには、まず現状を把握することが重要であり、現在も「見える化」といった表現で進められている。個別の事業所・家庭にとってはこの情報をもとに、対策のポイントを見つけていくことができる。  診断をしていてよく尋ねられるのが、平均とくらべてどうなのかという点であるが、特に事業所については多様な事業形態があり、単純に平均値を示しても、そもそも平均算出にあたっての誤差が大きすぎて、あまり参考にならないこともある。  しかし、どのような対策が可能なのか検証するにあたっては、平均値を視野に入れたベンチマーク評価をしていくことは重要である。  診断システムの設計においては、実はこの「誤差」が重要な意味を持っていくる。誤差には測定誤差や、計測の不十分さに由来することがあり、ここでは計測がきちんとなされたとしても生じてしまう、事業所による差として、統計上の表現で「偏差」とした。  対策が十分なされていない分野では偏差は大きく、お互いの比較がしやすくその数値目標に向かって十分な対策がされてきた分野では、この偏差は小さくなる傾向がある。  たとえば、現在では大気汚染物質であるNOXやSOX、排出水中の有害化学物質濃度などは、厳しく取り締まりがされており、どの工場でも足並みをそろえて規制の範囲に収まるようにされている。しかし、公害問題が問われている規制以前の状態では、極端に排出が少ない事業所から、極端に多い事業所まで非常に幅が大きかった(宇井純:公害原論等を参照)。こうした情報の中で規制値が定められてきた。  排出状況の共有対策技術の共有により、全体に対策が進むという点もあるが、ここまでは対策で可能という「目安」が自然と出てくるものである。 !!検討経緯 初出 2013/12/05 !!概要  現在、多くの事業所について省エネ診断が進められている。またBEMSなど、自動的に測定されるデータも莫大なものにのぼっている。ただしこれらが、事業所個別に把握されているため、誤差の範囲を確定することが難しい。公的に報告されているものでは、標準偏差が1.5〜2倍(対数正規分布に近いので厳密ではないがこのような表現とした)と、非常に幅がある状態となっている。  一方で、コンビニエンスストアなど、管理が進んでいるところでは、標準偏差が1.2倍程度となり、ベンチマーク管理がしやすくなっていることも報告されている。  誤差が大きい段階では、多くエネルギーを使っている事業所と少ない事業所の比較対比と、消費形態、利用技術の違いなどの情報を意図的に社会全体で共有していくことが重要である。  この状態で個別対策の提案をしたとしても、現状でのエネルギー消費量の適切さを十分説明できているとは限らない。そうした評価も社会的に蓄積していくことが重要である。  誤差が少なくなってきたときには、ほぼ定まった技術へのリプレイスなど、対策を列挙する方式、もしくは簡易な診断による対策提案が、削減量を確実に把握すする方法として実用的になってくる。この段階での差異は、各機器の利用形態の差による部分が割合として大きくなり、個別の対策評価がしやすい。 !!偏差の考え方について  2007年から毎年、国際的に省エネ行動に関する研究会(BECC: Behavior, Energy & Climate Change Conference)が開催されています。研究者だけでなく、省エネ事業者や政府関係者なども集まっており、省エネ推進に関して幅広い議論や報告がされています。日本でも2014年から国内で研究会が開催されています。報告内容も公開されているので、一見の価値があります。 http://beccconference.org/presentations-and-abstracts/  2015年の報告の中で、Mithra Moezzi氏の、A Tale of Two Views on Behavioral Potentialが、この偏差についてもコメントを書いています。 http://beccconference.org/wp-content/uploads/2015/10/presentation_moezzi.pdf  多様性を考慮せずに、全体的なポテンシャルで計画を立てることへの警鐘が書かれています。平均的な家庭・事業所を前提にしたり、合理的に行動をすることを前提にしては計画と乖離するとの指摘です。  一応、多様性を考慮して評価していく必要があるとも書かれていますが、個別に評価して効果的なものを提案したからといって、「だからどうしたっていうの?」 という最終的なパンチを食らうことは、覚悟しておく必要はあるとのことです。 2016年5月10日追記