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アメリカン・バレエ・シアター・ナウ    (2003.4.1)

「AMERICAN BALLET THEATRE NOW」というビデオがあります。数年前に制作されたもので、ABTの若手ダンサーたちの新鮮な踊りをたっぷりと見ることができます。 踊りも素晴らしいのですが、出を待つダンサー達の表情やインタビューも収録されていて、とても興味深いものがあります。 バーにつかまってバランスをとる者、屈伸運動を繰り返す者、トゥの調子を確かめる者、繰り返しピルエットを練習する者・・・・ 皆、プレッシャーを払いのけようと必死な様子が伝わってきます。
この中では、黒鳥のパ・ド・ドゥ、ロミオとジュリエットからのパ・ド・ドゥ、ドン・キホーテのパ・ド・ドゥ、「ブルッフのバイオリン協奏曲 第1番から 第3楽章」等が踊られていますが、 特に印象に残ったものの紹介をします。。
 
まず、スーザン・ジャフィーとホセ・カレーニョによる「白鳥の湖」から「黒鳥のパ・ド・ドゥ」。 「古典作品が大好き。高度な技術が要求され、だからこそ、やりがいがある。ホセは力強くて理想的なパートナー。しっかり支えてくれ、私は安心して踊れます。」とスーザンジャフィ。「スーザンと共演するときはいつも役にのめりこむ。 パートナーとしての責任は重い。」とホセ・カレーニョ。ジャフィの緊張は頂点に達しているよう、カレーニョに腰を支えられて、繰り返し繰り返しピルエットの練習を繰り返す彼女の表情はし不安が一杯の感じ。 カレーニョのリードに頷いて、手を握り合って、ステージに駆け込んでいきました。 アダージョ、ジャフィは、カレーニュのサポートに安心しきったように終始にこやか。「助け合う気持ち」が感じられて、微笑ましさに溢れていました。 コーダの、グラン・フェッテ・アントゥールナン。ジャフィはかなり辛そうでしたが、必死に頑張って無事踊りぬき、大きな拍手を受けました。
それにしても、ホセ・カレーニョの相手の動きをよく見た丁寧な暖かいサポートは、本当に気持ちがよいものです。
 
次に、アレッサンドラ・フェリ フリオ・ボッカによる「ロミオとジュリエット」からの「バルコニーのパ・ド・ドゥー」。 「パートナーは大切です。ダンサーである前に人間として信頼できる人でなくては。そういうパートナーは貴重です。 フリオとは、お互いを信頼しているから説明する必要なくて、リハーサルの必要も無いほど自然に踊れるのです。」とフェリ。 「アレッサンドラの目を見れば、心の底までわかります。」とボッカ。 「ロメオとジュリエット」から「バルコニーのパ・ド・ドゥ」は、こんな二人の気持ちそのものといった感じの踊り。信頼しあって、二人とも、ジュリエットとロミオになりきっていました。 終盤、汗が流れ、大きく波打つ胸、フェリの息遣いが聞こえて来る様で、ジーンときました。
 
そして、若い二人のペアによるドンキ・ホーテのグラン・パ・ド・ドゥ。まさにヤングパワー炸裂というところ。 キトリを踊っているのはパロマ・ヘレーラ。当時まだ21歳だったそうですが、本当に初々しくて、摘み立ての果実といった感じ。同じラテン系のアルヘル・コレーラの好サポートに支えられて、懸命に、しかし、のびのびと踊っていました。ヘレーラは「大切なことは常に前を向いて進むこと」と前向きですし、コレーラも「パロマに触れるとエネルギーが伝わってきます。息もぴったり」と言っており、二人は本当にベストパートナーという感じで、素晴らしいパ・ド・ドゥです。ヘレーラ、アチチュードアンプロムナードの一回目のバランスを無難にこなし、にっこり、 そして、これに気を良くしてか、二回目、意地を見せました。ぎりぎりまで頑張ってバランスをキープしたのです。右足のポアントで立ってアチチュードポーズをとり、サポーターの手を握りしめてバランスをしっかり確保してから慎重に手を離します。上体がぐらつきながらも、歯を食いしばって、足首を微妙に動かして、必死にバランスをとり続ける姿は、清々しくて、思わず「頑張れ」と励ましたくなりました。会場からも激励の拍手が沸きました。彼女の努力に感激です。 踊り終えてのレヴェランスで、やっと笑みが戻りました。ホッとした彼女の表情は、至難な技を無事こなした安堵感と満足感に満ちた美しいものでした。 「うまくいって、良かった」と心の中で呟いているような気がしました。 コーダのグラン・フェッテ・アントゥールナンも前半ダブルを入れてスピードもあり見事でした。ただ、アダージョのバランスもコーダのグラン・フェッテも、それぞれ単独ではとても素晴らしいのですが、それぞれが独立してしまっているようで、スムーズに繋がらないところが惜しい気がしました。長ーいバランスも、速いフェッテも、見せ場を作る意味では、とても効果的なのですが、やはりパ・ド・ドゥとしての「流れ」が必要だと思います。素人の私が偉そうなことをいって恐縮ですが、このあたりが彼女の今後の課題ではないでしょうか。 ともあれ、バランスにせよ、フェッテにせよ、懸命に踊る彼女の姿は、新鮮で感動的でした。ヘレーラもコレーラも踊り終わって汗びっしょり、でもとても満足そう。「若さの芸術」と言われるバレエの、もっとも魅力的な部分を観せてもらった気がします。
 
ABTは、幅広いレパートリーを持ち、それに各国から集まったスターダンサー達が技を競い、バレエの博物館とも呼ばれるほど。楽しさにあふれた、伸び伸びとしたいかにもアメリカらしい、すてきなバレエ団だと思います。
 


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