アラ・シゾーワは、1960年代から1970年代後半まで活躍した、ロシア・キーロフのバレリーナです。でもその後は踊った様子がありません。どうなったのでしょう。
私は彼女のオーロラ姫を二度見ました。
一つは映画で、もう一つは来日公演でのステージです。
公演の方は、東京バレエ団の「眠りの森の美女」への客演でした。しかし残念な事に、この公演での印象はあまり残っていません。
来日の疲れからか、あまりコンディションが良くなかったようで、ローズ・アダージョのバランスも今ひとつでしたし、第三幕のパ・ド・ドゥも感動しなかったし、どの幕もあまり覚えていないのです。
もう一つは映画ですが、こちらは一転して、素晴らしい踊りでした。
特に第一幕の「ローズ・アダージョ」は圧巻です。
お目当てのバランスでは、アチチュードのポーズでびくともせずに、とても長ーいバランスを保ちました。
西欧系のバレリーナはアチチュードの左足をあまり上げずにバランスをたっぷりと、ロシア系のバレリ−ナは足を高く上げるけれどバランスはほどほどに、というのが多いのですが、このシゾーワは、左足を90度以上に上げて、かつバランスもたっぷりだったのです。サポートの手を離し、アンオーのまま、たっぷりバランスをとってから、ふわっと次の王子の手を握るのです。恐怖感から急いでガシッと握る人もいる中で、本当に優雅。
でも、とても難しい技を続けているにも拘わらず、柔和な表情で、いとも軽々とこなしていたのはサスガでした。
フィニッシュのアラベスクも高く上げた足がとてもきれいで、見事なポーズで締めくくりました。
この映画は、第三幕からは、「青い鳥のパドドゥ」と「オーロラと王子のパドドゥ」以外をカットして全体で一時間強にまとめたものですが、主要な踊りはすべて入っており、またカメラのアングルが低めで、ダンサーの動きをとてもよく見る事が出来ます。バレエ教材としても最適ではないでしょうか。ただ、1964年頃の古い映像なので、鮮明さに欠けることは否めません。ファンタジアなどの映画が最新の技術で見違えるように生まれ変わりましたが、この映画も再生されることを望みます。
この映画で王子を踊っていたユーリー・ソロビエフは、ソロのダンサーとしてもシゾーワのサポーターとしてもとても素晴らしかったのです。シゾーワがのびのびとパ・ド・ドゥを踊れたのも彼のがっしりとしたサポートがあったからでしょう。
話は変わりますが、日本のエース、熊川哲也君。ダンサーとしてはとても素晴らしいと思うのですが、女性のサポーターとしてはチョットと思ってしまうのです。パートナーとして組んだ、吉田都さんにせよ、下村由理恵さんにせよ、あまりしっくりいっていないように感じたのは私だけでしょうか。彼にパートナーへの思いやりというか、気配りというか、そんなものがもう少し欲しいなと思ってしまうのです。ヌレエフやソロビエフには、この女性への気配りを感じます。下村由理恵さんが篠原聖一さんと組んだときは、由理恵さんが聖一さんを信頼しきっているのが伝わってきて、ほうえましさすら感じます。
このソロビエフ、暫くして癌でなくなってしまいました。もし生きていたら、ヌレエフとほぼ同世代。二人の火花の散る競い合いが見られたかもしれません。返す返すも、残念な気持ちです。
なお、この映画では、その後亡命してABTで活躍したナタリア・マカロアが、「青い鳥のパドドゥ」でフロリナ王女を踊っていたのです。これもとても貴重な映像だと思います。
アラ・シゾーワの「眠りの森の美女」
1964年:ロシア・レンフィルム
オーロラ姫:アラ・シゾーワ
王子:ユーリ・ソロビエフ
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