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ドン・キホーテ〜パドドゥ〜アダージョ:厚木三杏  (2011.10.10)
1964年から続いているクラシック音楽の老舗テレビ番組「題名のない音楽会」。この「題名のない音楽会」で、2005年に「バレエ人気作品ランキング」というテーマの放送をしました。このとき「白鳥の湖」、「くるみ割り人形」についで第3位となったのが「ドン・キホーテ」でした。この「ドン・キホーテ」〜アダージョを、新国立劇場の厚木三杏と貝川鐵夫が踊りました。
 
普通のバレエ公演は、ステージと観客はオーケストラボックスで隔てられているのですが、このときは、オーケストラはステージの後方に位置しダンサーはその前で踊ったので、 出演したダンサーは、観客の視線を間近に感じたのでしょう。「ミスしたら、観客に分かってしまう、どうしよう」と心配したのか、かなり緊張していたようでした。とりわけ厚木三杏と貝川鐵夫のペアは固くなっていたように感じました。
 
特に、サポート役の貝川鐵夫はかなり硬くなっていたように見えました。 パ・ド・ドゥのアダージョでは、女性はポアントのバランスなどの高度の技への不安から、いやおうなしに緊張します。 パートナーの男性は、こんな女性を力強くかつ優しくサポートして女性の緊張をやわらげ、女性が最高の美しさを発揮できるようにすることが使命です。 二人で助け合って作り上げるハーモニーこそ、パ・ド・ドゥの醍醐味なのですが、サポートの男性が緊張してしまっては困ります。 女性のバランスのサポートはぎこちなかったし、高々と上げるリフトでは足元がおぼつかなかった。男性が頼りないと女性はさらに不安になってしまうでしょう。 「心配するな、俺が助けてあげるから」と女性を信頼させ、女性の最高の美しさを引き出すのがダンスールノーブルの役目だと思います。女性に不安を与えないよう、男性は堂々として欲しいものです。
厚木三杏は、ダイヤモンドのような冷たく硬質な美しさを感じる、ほっそりとしてプロポーション抜群のダンサー。スターザンサーズバレエ出身の彼女が新国立に入ったのはもっと純クラシックが踊りたかったからだそうで、 オデットのような、その冷たい美しさのしっとりした役が向いていると思っていたので、ドン・キホーテのようなパドドゥのようなノリの良い派手な踊りはどうかなと思ったのですが、案の定コチコチで表情は引きつっていました。 貝川鐵夫との気合いも今ひとつで、足がもつれたり、回転が止まりそうになったり、体勢も崩れがちでハラハラさせられることが多かった。 リフトから真っ逆さまに落ちるフィッシュダイブでは、あわや!とヒャとしました。尤もこれは貝川鐵夫のキャッチに問題がありそう。 終盤はスタミナ切れのようにも見受けられ、だいぶ苦しそうでしたが、頑張って踊る健気な姿は、美しく感動的でした。
にわか作りのペアなのか、このパドドゥ、何かしっくりいかないのです。 何よりお互いの信頼関係がなくては、回転がスムーズにいかなかったり、バランスのタイミングにも影響が出るでしょう。 ましてリフトなどは危険です。男性は、いつも女性の事を考えて、リフトから降ろす時もふわっと着地させ、 次の動きのきっかけになるようにさりげなく体を押すといった微妙な心遣いが必要に思います。 実際、リフトからのフィッシュダイブで男性がキャッチをミスり、女性が床に叩きつけられたのを見たことがあります。このパドドゥ、パートナーシップという事を考えさせられた踊りでした。

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