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ダンサーが綴った「バレエの魅惑」    (2001.7.29)

一味違うバレエの本が出ました。「200キーワードで観るバレエの魅惑」という本です。バレエに関するテーマを200に絞り、バレエの魅力についていろいろな方向から解説するものです。
ただ、この本、単なるバレエの解説本と違います。執筆者が多方面に渡っていて、それぞれの立場で熱っぽく語っています。編集者の長野由紀さんは「書き手側も本当に好きなテーマについて、うんと自己主張して、行間からも熱気があふれてくるようなバレエの解説書ができるといいな」と思っていたと語っておられます。
 
執筆には、批評家、音楽家などに混じって、現役のバレエダンサーが加わっていますが、実際にステージに立って踊っている者ならではの言葉で、ひときわ印象に残りました。
今までもダンサーが書いた本はありました。ただしそれらは、自分の生い立ちの紹介のようなものがほとんどだったように思います。(バレリーナのアルバム(森下洋子、下村由理恵他)、バレリーナの羽ばたき(森下洋子)・・・)
この本のようなバレエの解説書については、ほとんど批評家の先生方が書いておられ、現役のダンサーが書いたのは珍しいと思います。
執筆の猪俣陽子さんは、スターダンサーズバレエ団の現役のバレリーナです。ダンサーの視点で現実を踏まえて書かれているところに新鮮さがあります。経験に基づいて、ダンサーの立場で、読者に分かってもらいたいという、健気な気持ちが伝わってきます。
 
特に印象に残り、共感した彼女の文章を紹介させて頂きます。
ダンサーは、日々、自在なコントロール可能な身体、美しいラインの身体を目指し訓練している。それは振付家の要求に対応するため、舞台で自分の納得いくパフォーマンスをするためだ。そして本番への緊張、何よりも自分自身と戦っている。・・(中略)・・・・・ダンサーは、何百人、時には数千人という人の前で、力の限り、心のままに躍るのみ。その時こそ踊る喜びを全身で感じ、観客の前で輝きを放つ。
・・・・・・・
さらに、「バレエは『生』だから、その瞬間、瞬間にしか味わえない。一期一会なのだ。だからこそ価値があり、実際に劇場へ行くことが大切となる。その場の空気、臨場感、迫力、熱気・・・。例えダンサーが転んだとしても、それはその場に居合わせた人しか知り得ないこと。また、自分の精神状態によっても感じ方は変わってくる。そこが面白いところだ。」。苦しい訓練、そしてステージでの感激など、経験に基づいているからこそ、訴えるものがあるのです。
 
『生』の舞台。ダンサーだって生身の人間、不調の時もあるでしょう。バランスが今一決まらない、フェッテの切れがチョット?・・・苦しみながらも歯を食いしばって頑張るダンサー。私は、そんな時こそ、「頑張って!!」と願いを込めて、いつもより多く拍手をおくるよう心がけています。
自分で踊れもしないのに、出来が悪かった、期待はずれだったなどど、ダンサーを傷つけるようなことを平気で書く批評家連中は大嫌いです。
 
猪俣さんが言われるとおり、バレエは「一瞬の芸術」と思っています。「一瞬の輝き」を求めて、毎日毎日、苦しい稽古を続けているダンサーの皆さん。踊り終わってのレヴェランス。この時のダンサー達の満面の笑みほど美しいものはないと思います。無事踊り終えてホッとした安堵感とやり遂げた技への満足した気持ちに溢れています。心から、「夢を有難う!!。お疲れ様」と労を労ってあげたくなる瞬間です。このとき、私は、ダンサーの方々から、勇気とか活力とかを頂いた気がするのです。「バレエはいいなあ!!」とつくづく感じるのです。
稽古の苦しみ、本番の緊張、そして終わった時の安堵感と満足感・・・、それらを、自ら経験した現役のダンサーが、心をこめて書いているからこそ、この本は、心に訴えるところがあるのだと思います。


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