これは、全幕ではなく、コベントガーデン王立歌劇場新装のガラ・コンサートでの、第一幕「ローズ・アダージョ」の映像です。
「眠りの森の美女」の中でも第三幕「パ・ド・ドゥ」と並んで人気が有り、単独で踊られることも多く、約10分と長く、クラッシク・バレエで最も至難な踊りとされています。ポアントで立ち4人の男性の支えの手を離して、バランスを保つの場面があるからです。
私はバレエは全幕を通してみるのが好きで、ガラコンサートはあまり観ないのですが、この「ローズ・アダージョ」はとても素敵だったのでとりあげました。
女性が細いポアントの先で立ってアチチュードのバランスを保つとき、男性に手を支えられていてもぐらぐらして不安定になりがちなのに、このローズ・アダージョでは、支えの手を離して一人でバランスを保つのですから大変です。
力を上手に配分してバランスが崩れないようにしなければなりません。
最も難しいと踊りと言われるゆえんです。
しかも、ロイヤルバレエのバランスの振り付けは独特なのです。
普通、オーロラが王子の手を離して独り立ちするとき、次の王子はすぐ横に並んでいますから、女性が手を離したすぐ後でも、次の男性の手に掴まることができます。
しかしロイヤルの振り付けでは、次の男性は、現在の男性より数メートルも後方におり、女性が手を離した後に近づいて来ます。
男性が近くに来るまで女性は手が届きませんから、この間じっとバランスを維持しなければなりません。
バレリーナにとっては過酷な振り付けです。
さて、このコンサートで、ダーシーバッセルは、伸びやかな肢体を存分に使い、春風のようにおおらかでした。
お姫様とはこうもあろうかと微笑ましさを感じさせます。
アチチュードのバランスの場面。
握りしめていた王子の手を緩めて、2本の指先だけで軽く掴まり、そっと離して、長〜いバランスを保ちます。
とくに、3人目は最高でした。
手を離した後も4人目の手に一切触れず、バランスを保ったまま、一気に次のアラベスクへと続けます。上体がわずかにぐらつきましたが、巧みにポアントの足首を動かして調整し、長〜い長〜いバランスを保ちます。
思わずはっと息をのむ瞬間です。
とにかく体が柔らかい。バラを受け取って、腰を支えられて体を前に倒すアラベスクでは、180度を超えるほど足を上げて静止します。このポーズ、シルヴィ・ギエムがやるとわざとらしくて嫌らしくなるのですが、ダーシーのそれはこのうえなく優雅。
後半のアチチュード・アン・プロムナードも素晴らしい。
手を離して、前傾ぎみの上体をすっと上げて姿勢を正し、たっぷりバランスをとった後、ゆっくり手を下ろして掴まります。最後のアラベスクを決めたところで、期せずして観客の拍手がわきました。
とても難しく、ベテランのバレリーナでも足がすくむほど緊張すると言われるローズアダージョのバランス!!。
しかも、エリザベス女王など王室の面々がご列席の晴れの舞台。
大役を担ったダーシーは相当のプレッシャーだったでしょうが、それを少しも感じさせず、終始にこやかに、かつ完璧に踊りきったのはスゴイと思います。
やはり、当代一のプリマの一人だとつくづく感心した次第です。
1999年:コヴェントガーデン王立歌劇場
オーロラ姫:ダーシー・バッセル
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