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ビゼー:交響曲ハ長調       (2011.6.7)

ビゼーの交響曲ハ長調は、ビゼーがまだパリ音楽院時代の17歳のとき(1855年)に書かれたもので、彼にとっては、習作的な作品と言われています。しかし、綿密で独創的な旋律に支えられたチャーミングこの上ない作品で、若くして去った天才のみが書き得た逸品として評価が高いのです。

モーツァルトの妻コンスタンツェは悪妻として有名ですが、ビゼーの妻はもっとひどい。少なくとも、コンスタンツェは夫モーツァルトの作品を大切に保管しました。おかげで、彼の作品はほとんど失われずにすみ、私達は、600曲を超える彼の素晴らしい作品を現在、聞くことが出来るのです。 ところが、ビゼーの妻は夫の才能を全く信用しなかったのみならず、ビゼーがその不幸な人生を37歳の若さで終えると、彼女はさっさと別の男と再婚をしてしまい、彼の作品はほったらかしにされてしまったのです。このため、ビゼーの多くの作品が失われてしまいましたが、1933年、ビゼーの研究家D.C.パーカーが、パリ音楽院の図書館でこの交響曲ハ長調は原稿を発見し、日の目をみることになったそうです。そして、1935年、ワインガルトナーの指揮で初演されました。

   第1楽章〔アレグロ・ヴィーヴォ〕、第2楽章〔アダージョ〕
   第3楽章〔スケルツォ:アレグロ・ヴィヴァーチェ〕、第4楽章〔アレグロ・ヴィヴァーチェ〕

それにしても、この作品は、17才の若者の習作とは信じがたいものがありますが、反面、17才の若者でしか書けない、さわやかさと快活性に満ちています。ビゼーと言うとオペラ「カルメン」を思い出しますが、彼は青春時代に、こんなチャーミングな作品も書いたのです。
 
私の持っている「ビゼーの交響曲ハ長調」のレコードは、ネヴィル・マリナー指揮セントマーチン・インザフィールズの演奏のアナログLPレコードです。マリナーの演奏はどちらかというとあっさりとしてます。 第1楽章は冒頭から生き生きとしていて、かつ爽やかです。第2楽章はオーボエの旋律が非常に美しく、弦のピチカートとの対話が素敵です。 第3楽章は元気いっぱい溌剌としていて楽しい演奏です。第4楽章は何とも若々しくて爽やかで、あっという間にフィナーレを迎えてしまいます。 カップリングは、プロコフィエフが少年時代に作曲した交響曲第1番 作品25「古典」で、これもなかなか良い演奏です。 1975年頃のアナログ録音ですが、とても爽やかな音で、ディジタル録音かと思うほどです。一方、アナログ録音特有のフワッとした暖かさもあり、私の大切な宝物です。

もう一つ、やはり、ネヴィル・マリナー指揮セントマーチン・インザフィールズが、25年ぶりで再録音したCD。前録音に比べると、キビキビした若々しさに欠け、ちょっと遊びも欲しいとも思うところもありますが、安心して楽しめるスタンダード盤といったところでしょうか。 音色は美しく聞き苦しさが全くなく、音質はとても良いのは、1992年のディジタル録音だからでしょう。 カップリング曲はアルルの女第1,2組曲ですが、やや重たい感じの演奏で、私の好みではありません。こちらよりビゼーの交響曲の方がマリナーの軽快な演奏にはマッチしているように思います。

ビゼーの交響曲ハ長調は、バレエにもなっています。ジョージ・バランシンが振付、1947年にパリオペラ座で初演されました。 「水晶宮(Palais de Cristal)」または「シンフォニー・イン・C」いう題で、一楽章ごとに別々のプリンシパル(男女各1名)+コリフェ(またはドゥミ・ソリスト/男女各2名)+コール・ド・バレエ(第1・4楽章は女性8人、第2・3楽章は女性6人)で構成されます。いわば女性ダンサー総動員による美の競演です。 第4楽章で、第1〜3楽章のメンバーがもういちど全員集合となり、総勢52名が揃って踊ります。 ダンサーの衣装は、華麗な第1楽章はルビーで赤、しっとりとした第2楽章はサファイアで青、活発な第3楽章はエメラルドで緑、第4楽章はクリスタルで白です。 衣装は全員腰だけを覆う短いスカートのクラシック・チュチュで、女性崇拝のバランシンらしく、女性の美しいスタイルを強調し、伸びやかな脚の美しさを誇示しています。
この作品に物語はなく、一楽章ごとに、男女一人づつのプリンシパル、コリフェ、コール・ド・バレエが登場して踊ります。四つの楽章それぞれのプリンシパルの女性は、負けじと180°もの開脚をして体の柔軟さをアピールし、いまにも崩れそうな際どいバランスを競い合う華麗な技を披露します。それがとても見応えがありますが、至難なパやポーズに対する緊張の連続で、演じる方は超大変。 第4章は速いテンポにダンサーたちが必死でついていくといった感じで、たまらず転倒するダンサーもいるほどでとても重労働。舞台近くでみていると、ダンサーの体からは、滝のような汗が吹き出ているのがわかり、ハァハァという激しい息遣いが聞こえてきて、彼女たちの凄まじいほどの気迫と、滲み出るお色気?に圧倒されます。これだけのメンバーを全員揃えるのはとても大変で、プリンシパルからコール・ドまで、カンパニーの力量を全開にさせるのに相応しい豪華な作品とされています。

シンフォニー・イン・C (第2楽章)

なお、「水晶宮(Palais de Cristal)」という題を使うことができるのは、パリオペラ座バレエ団と東京バレエ団だけで、その他のバレエ団は、「シンフォニー・イン・C」という題で上演されます。 この場合は、チュチュは全員、純白に揃えることが多いようです。

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