「眠りの森の美女」第3幕、結婚式の場面では、招待されたゲスト達の楽しい踊り、(ディベルティマン)が続きます。シャルル・ペローの作った「眠りの森の美女」以外のおとぎ話、シンデレラとか長靴を履いた猫・・・などの主人公達が代わる代わる踊ります。その中で出色なのが、この青い鳥のパドドゥです。
この青い鳥のパドドゥは、作曲された当時は、パ・ド・カトルだったそうです。それがリハーサルの時にパ・ド・ドゥの方がよいということになり、その後パ・ド・ドゥとして踊られているそうです。
青い鳥のパ・ド・ドゥは、若い新進の二人によって踊られることが多く、主役のオーロラ姫のローズアダージョやパ・ド・ドゥに次いで、見せ場の一つになっています。
アダージョが始まって間もなく、ウエストを支えられた女性が、180度近くまで足を上げて体の線の美しさと柔らかさを誇示するアラベスクや、終盤近く、女性が右足のポアントで立ち、左足をア・ラ・ズゴンドにあげたまま、男性の支えの右手を離して、揺れをグッと堪えてバランスを維持する妙技が見ものです。
そんなわけで、「眠りの森の美女」全幕を観るとき、青い鳥のパドドゥがどのように踊られるかを見るのも、楽しみのひとつなのです。
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この青い鳥のパドドゥで最も印象に残っているのが、下村由理恵さんの踊りです。
彼女が、16〜17年位前に踊った青い鳥のパドドゥは、それはそれは素敵なものでした。
この後、由理恵さんはスコティシュバレエに招かれて活躍されるのですが、それよりも前で、お歳は20才位だったと思います。
この時の主役は、オーロラ姫初挑戦の森本由布子さんでした。初演のプレッシャーに押しつぶされまいと懸命に踊った森本さんの踊りも感動しましたが、由理恵さんの踊りは、
それ以上に印象に残りました。今よりちょっぴりふっくらしていて、本当に初々しく、可愛らしいフロリア姫でした。
サポートの男性とも息はぴったり、お互いに助け合って、微笑ましいばかりのパドドゥでした。
もちろん、表現力の面では今は数倍輝きを増してきていると思いますが、持ち前の気品と
たおやかさは、現在の彼女を予感させるものがあります。
この公演は、その後テレビでも放映されたので、ビデオにとって残してあります。大切な宝物の一つです。
もう一つ好きなのは、志賀三佐枝さんの踊りです。多分1994年頃だと思います。
この時のオーロラ姫は草刈民代さん。志賀さんのフロリア姫は、水のような清らかさを感じました。
ポアントで立って、曲げた膝を伸ばしてアラベスク。ピタッと決まったバランス。
これらをよどみなく、流れるように繋げていったのです。
この公演もテレビで放映されたので、ビデオに残っています。
もう一つ、貴重な青い鳥のパドドゥの映像があります。
ロイヤルバレエのアントニエッタ・シブリーの踊りです。
「オーロラの結婚」という「眠りの森の美女」第3幕のディルティスマンを
集めたレーザーディスクの一部です。オーロラ姫を踊っているのはマーゴ・フォンティーン。
シブリ-はフォンティーンの後を継ぐロイヤルバレエのプリマと言われていましたが、
このあと足の怪我がもとで関節炎が悪化、バレエ人生を断念してしまったのです。
そんなわけで、これは、彼女の記念碑的な踊りなのです。
古いものですが、若き日のナタリア・マカロアの映像があります。オーロラ姫をアラ・シゾーワ、王子をユーリ・ソロビエフが踊ったソビエト映画ですが、西側へ亡命する前の初々しいマカロワを見ることが出来ます。
画像は不鮮明で見にくいのですが、これも貴重な映像だと思います。
ごく最近、もうひとつ、とても素敵な映像を見つけました。牧阿佐美バレエ団の公演での、伊藤友季子さんのフロリナ王女、
アルタンフヤグ・ドゥガラーの青い鳥というコンビ。伊藤友季子さんは、本当に素晴らしかった。彼女は新国立劇場バレエ研修所第一期修了生だそうですが、この時のオーロラ姫(上野水香)がかすんでしまうほど、この映像の伊藤さんは魅力的なのです。
可愛らしくて、初々しくて、なによりも笑顔がすばらしい。この笑顔を見ていると、こちらも幸せな気持ちになってしまいます。
難しいポーズを決める時、一瞬見せるキリッと引き締まった表情がまた魅力的。小柄でほっそりした身体に、ブルーのチュチュとピンクのトゥシューズがとても良く似合い、丁寧な踊りに、可愛らしく気品あふれる魅惑のダンサーです。ヴァリアシオンを踊り終えて、「やった!!」と言わんばかりの笑顔が素敵でした。パートナーのドゥガラーとの息もぴったりでした。
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