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ニューイヤーオペラコンサートの「牧神の午後」       (2012.1.3)

2012年1月3日放送の「NHKニューイヤーオペラコンサート」で、バレエ「牧神の午後」が踊られました。 初演から今年で100年の「牧神の午後」は、官能のバレエと言われていますが、初演はディアギレフ指揮するロシア・バレエ団(バレエ・リュス)で、振付は牧神役のヴァーツラフ・ニジンスキー自身が行ったとのことです。あまりにも性的な振付だったため、初日の1912年5月29日パリ・シャトレ劇場はブーイングとアンコールの声で騒然となり、当時の批評家の意見もまっぷたつに割れたということです。また親交の深かった(同性愛の関係だったとの説もあります)、ディアギレフも彼の振付の才能を疑問視し始めたとのことです。後半生は、精神病院をたらい回しにされてバレエの世界に戻ることはなく悲劇的なものだったそうです。
 
この「牧神の午後」を、今回は牧神役を後藤晴雄、牧神に興味を示すニンフを上野水香、その他のニンフ達のコールドバレエを東京バレエ団のダンサーで踊られました。 後藤晴雄と上野水香がどんな踊りを見せるか興味がありましたが、残念ながら期待はずれでした。後藤晴雄は思いのほかさばさばとした動きで面白みがなかった。 少なくとも私の抱いていた、けだるいような牧神のイメージとは大きく違っていました。ニンフの上野水香に対しての求愛の踊りも、官能的というより、さっぱりとした感じで情感に乏しく、グロテスクにさえ見えるところもありました。 踊りというより演技のこの役どころを、理解しているとは感じられなかった。この愛を受け入れようとする上野水香も、牧神への濃密な愛が感じられず、美しいというより、ぎこちなさすら感じられてイマイチでした。 プロの舞台というより、学芸会の延長のように思えてしまった。その証拠に、踊り終わっても観客のブラボーの声はなく、拍手もまばら。つられてしかたなく拍手をしているという感じでした。
 
後藤晴雄はベジャールの作品も踊っているものの王子のような役が多いし、上野水香も東京バレエ団に来てボレロのような曲も踊っているものの牧阿佐美バレエ団時代からのお姫さまのイメージが残っている。 いずれもクラシックのテクニックには優れているので、クラシックの演目はうまく踊るけれど、モダンを踊ったとき、クラシックのイメージから抜け切れないで中途半端な踊りになっているような気がします。この二人に、官能的な面の強い「牧神の午後」のような演目を、うまく踊ることを要求すること自体、所詮無理なのかもしれません。 「牧神の午後」は、ニジンスキーが気違いと紙一重の天才だったからこそ、表現できた作品のような気もします。
 
こうしてみると、オペラコンサートにこのバレエは余計だったし、「牧神の午後」のようなバレエをニューイヤーオペラコンサートに取り上げた企画自体、疑問に思います。 オペラのつなぎとしてバレエを入れるなら、一昨年に吉田都が踊った「ロミオとジュリエットのバルコニーのパ・ド・ドゥ」のように、グラン・パ・ド・ドゥのような見栄えのする演目にするほうが良い気がします。 その点、ウィーンフィル・ニューイヤーコンサートでのバレエの扱いはうまいと思います。

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