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コッペリア:志賀育恵、穴吹淳、東京シティバレエ (2007.5.19)
「見に来て良かった。この人の踊りを見ることができて本当に良かった」と嬉しくなった舞台でした。主役の志賀育恵さん、「ありがとう、ありがとう!!」と、皆に言っているような感謝に溢れた演技。見に来た全ての人たちを幸せな気分にさせてしまうような・・・。こんな彼女の踊りを見ると、「バレエっていいな!!。また彼女の舞台を見に来たい」と、つくづく感じます。
志賀育恵さんは、今年度の舞踊批評家協会新人賞受賞、文化庁在外研修員(在研)としての海外派遣に抜擢と、今最も輝いているダンサーです。彼女主演のコッペリアを初めて見たのは2002年5月。
当時の東京シティバレエ団は、安達悦子さんや山口智子さんが中心で、志賀育恵さんは、まだ主役を踊ることは珍しい存在でした。
でも、現在のバレエ団は志賀育恵さんを中心に回っています。
前回、志賀育恵さんは、まだ経験も浅いこともあり、幾分固さが感じられましたが、今や彼女は押しも押されぬ東京シティバレエ団のプリンシパル。今回は自信に溢れた見事な舞台でした。タメをたっぷりとったアラベスク、軽快で繊細なトゥさばき・・・、といった高度な技術もさることながら、顔の表情は豊かだし、なにより指先まで神経の行き届いた細やな演技。驚いたのは、飛んでも跳ねても、着地の靴音が全くしないこと。ソリストやコールドバレエがコトコトと音をたてていたのと大違いです。
どんなにか柔らかく着地していたのでしょう。全く音を立てずに、軽快にブーレを刻んで舞い上がり、ふんわりと着地する・・・・日頃の厳しい訓練の成果だと思います。
目当ての第3幕のパ・ド・ドゥ。パートナーはいつもの黄凱に変わって、穴吹淳。二人の息はとても良く合っていて、美しいハーモニーを奏でました。パ・ド・ドゥのアダージョでは、女性はパートナーの男性の的確なサポートがあってこそ引き立つもの。リフトが多く体力の必要なアダージョで、穴吹さんは高々と育恵さんを持ち上げたり、しっかりホールドしたり、的確に育恵さんをサポートしていました。その為か、続くバリエーションでは、穴吹さん、ジャンプで少しバランスを崩しハッとしたところがありました。
アダージョのサポートで力を使い切ってしまったのでしょうか。でも、このバランスの乱れ、決してミスとは思いません。バランスが乱れるくらい力を振り絞ってアダージョでパートナーをサポートした穴吹さんに、むしろ拍手を贈りたい。ダンスール・ノーブルと言われるにふさわしい存在です。
志賀育恵さんは、ヴァリエーションでは難しいイタリアンフェッテ、コーダではきついグランフェッテも危なげなくこなし、大きな拍手を受けていました。何度も何度も続くカーテンコール。大きな花束を贈られて、「自分だけもらっていいの?」と周りを見回してためらっているようだった育恵さん。思わずグッとこみ上げてくるものがあったのでしょう、大きな美しい瞳は涙で潤んでいました。
志賀育恵さんは感性を磨くために、歌舞伎も見るとか。歌舞伎の佇まい、背中を手本に表現を研究しているとか。プリマという地位に奢れない謙虚な探求心、人一倍の努力、だからこそ、観客に大きな感動を与えることが出来るのでしょう。
志賀育恵さんはこのコッペリアが今年最後の舞台。9月にはオーストラリアに研修に旅立つとのこと。育恵さんは、ご自身のホームページのBBSに、以下のメッセージを残してくれました。「山口さんが、初めてコッペリアをご覧になったのは、いつでしたっけ?。おやこ劇場での舞台を、観に来て下さいましたよね?。たしか、フランツがエンバーだったような気がします。1年後、成長した私を待っていてください。たくさん吸収して帰ってきます。…と自己暗示。私を忘れないで下さいね! 」。
こちらこそ、ただ一人の観客まで覚えていてくれたのには感激でした。ファンを大切にする彼女の優しい心、人柄の良さを感じました。また研修への意気込みが溢れ、頼もしさを感じました。オーストラリアでも、大いに頑張ってくれることでしょう。でも、あまり頑張り過ぎて体を壊さないよう気を付けて欲しいものです。彼女のステージが見られないのは残念ですが、「たくさん吸収して帰ってきます。」と言うように、一層魅力的なダンサーになって戻ってきてくれることでしょう。一年後の志賀育恵さんのステージが楽しみです。
東京シティバレエ:コッペリア
演出・振付:石井清子
スワニルダ:志賀育恵、フランツ:穴吹淳、コッペリウス:金井利久
福田一雄指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
2007年5月13日、ティアラこうとう大ホール
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