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コヴェントガーデン新装記念ガラコンサート     (2003.3.1)

ロンドンの「コヴェントガーデン王立歌劇場」が新装になりました。この改装は、構想20年、工期2年半という一大プロジェクトだったのですが、この歴史的なロイヤルオペラハウスは、近代的な劇場に生まれ変わりました。
その新たな幕開けとして、1999年、12月1日、ガラ・コンサートが行なわれました。コヴェントガーデンの歌手、バレエ・ダンサーによる、オペラとバレエのコンサートで、客席には、エリザベス女王とエディンバラ公、ブレア首相夫妻、元首相のピースやサッチャー、皇太后にマーガレット王女の姿が見え、聴衆は、約三時間、素晴らしい歌と踊りに酔いしれたということです。
この模様は、NHKテレビでも放送されました。私はビデオに録画して、今でも繰り返し観て、楽しんでいます。
 
第一部はオペラ。指揮はハイティンク。曲目は、ドミンゴ、ポラスキーのワルキューレから「ジークムントとジークリンデの二重唱」、ベートーヴェンの「フィデリオ」ほか。
第二部はバレエ。バッセル、吉田都などのロイヤル・バレエのダンサーによる、「眠りの森の美女」の「ローズ・アダージョ」、「ロミオトジュリエット」の「バルコニーの場」など、名作のハイライト。
 
バレエの部の演目は、以下の通りです。
「眠りの森の美女」から「ローズアダージョ」・・・・ダーシー・バッセル
「シンデレラ」から「義理の姉たちの踊り」・・・・・テーヴィット・リュー、オリバー・シモンズ
「誕生日の贈り物」から・・・・・・・・・・・・・・イナキ・ウルレザーガ
「リーズの結婚」から「母親シモーヌの木靴の踊り」・アシュレイ・ペイジ
「海賊」から「コンラッドの踊り」・・・・・・・・・カルロス・アコスタ
「ロミオトジュリエット」から「バルコニーの場」・・ヴィヴィアナ・デュランテ、アンヘル・コレーラ
「ライモンダ」から「終幕のフィナーレ」・・・・・・吉田 都、ヨハン・コップボルイ
「エリートシンコペーション」・・・・・・・・・・・ヘレンダ・ハトレー、シリアン・レヴィ、ニコラ・トラナ
「田園の出来事」・・・・・・・・・・・・・・・・・サラ・ウィルドー、ブルース・サンソム
「グロリア」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リャーン・ベンジャミン、ルリストファー・サンダース
「ステップテクスト」・・・・・・・・・・・・・・・デボラ・ビル、アダム・クーパー
 
この中で、私が最も好きで、繰り返し見ているのが、先頭の「ローズ・アダージョ」です。これについてお話します。
「ローズ・アダージョ」は、「眠りの森の美女」の中でも第三幕「パ・ド・ドゥ」と並んで有名で、オーロラ姫役のバレリーナがポアントで立ち、次々と4人の男性の支えの手を離して、バランスをとる場面は、クラッシク・バレエで最も至難な踊りとされています。女性が細いポアントの先で立ってアチチュードのバランスを保つとき、男性に支えられていてもぐらぐらして不安定になりがちなのに、このローズ・アダージョでは、支えの手を離して一人でバランスをキープしなければならないから大変です。
しかも、ロイヤルバレエの振り付けは独特なのです。 このバランスの場面、普通、オーロラ姫が王子の手を離して独り立ちするとき、次の王子はすぐ横に並んでいますから、女性が手を離したすぐ後でも、次の男性の手に掴まることができます。しかしロイヤルの振り付けでは、次の男性は、現在の男性より数メートルも後方におり、女性が手を離した後に近づいて来ます。男性が近くに来るまで女性は手が届きませんから、この間じっとバランスをキープしなければなりません。バレリーナにとっては過酷な振り付けです。
 
さて、このコンサートで、ダーシーバッセルは、伸びやかな肢体を存分に使い、春風のようにおおらかで、オーロラ姫とはこうもあろうかと微笑ましさを感じさせる見事な踊りでした。アチチュードのバランスの場面。握りしめていた王子の手を緩めて、2本の指先だけで軽く掴まり、そっと離して、長〜いバランスを保ちます。
とくに、3人目。手を離した後も4人目の手に一切触れず、バランスをキープしたまま、一気に次のアラベスクへと続けました。上体のわずかな揺れもポアントの足首を小刻みに動かして上手にフォローし、長〜い長〜いバランスを保ちます。 思わずはっと息をのむ瞬間です。
バラを受け取って、腰を支えられて体を前に倒すアラベスクでは、180度を超えるほど足を上げて静止。このポーズ、シルヴィ・ギエムがやるとわざとらしくて嫌らしく感じるのですが、ダーシーのそれはこのうえなく優雅。天性の気品なのでしょう。 
後半のアチチュード・アン・プロムナード。手を離して、前傾ぎみの上体をすっと上げて姿勢を正し、たっぷりバランスをとった後、ゆっくり手を下ろします。フィニッシュのアラベスクをバッチリ決め、にっこり微笑んだところで、期せずして観客の拍手がわきました。 
 
ベテランのバレリーナでも足がすくむほど緊張すると言われる「ローズアダージョ」。しかも、エリザベス女王など王室の面々がご列席の晴れの舞台のトップバッター。大役を担ったダーシーは相当のプレッシャーだったに違いありません。でも、それを少しも感じさせず、終始にこやかに、かつ完璧に踊りきったのはさすがだと思います。
 
このコンサート、「ローズ・アダージョ」を筆頭に、とても素敵なステージでした。このような素晴らしい映像こそ、記録として残される価値があると思います。
著作権等の難しい点もあるかもしれませんが、制作社のBBCやNHKには、このマスターテープが残っているでしょうから、ぜひ、鮮明な映像をDVDで再現し、市販してほしいと思います。

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