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眠りの森の美女〜ローズアダージョ:Lisa-Maree Cullum  (2015.6.18)

とても興味深いローズアダージョの映像が、YouTubeに載っていました。オーロラ姫はリサ マリー ジェイミーカラムLisa-Maree Cullumというドイツのバレリーナで、 ミュンヘンでのガラでの踊りのようです。 彼女はバイエルン国立バレエのプリンシパルのようです。 この人、コジョカルのような可憐さや、ロホのようなバランスの超絶技術はないようだけれど、優雅というか、おっとりとして品がいいというか、控えめでやさしげな雰囲気というか・・・、 とても真面目そうで、なかなかいい感じなのです。 ハラハラさせられるところがありながら、音を十分に使ったゆったりとした踊りはとても魅力的で、何よりこの難しい踊りに一生懸命取り組む姿に感動しました。

お目当てのアチチュードのバランス。ケネス・マクミランの未亡人であるデボラ・マクミランが『原版を振付けたプティパは少しばかりサディストだったのではないかと思います。 かわいそうなオーロラ!』と言ったそうです。 サディストとは、相手に身体的または精神的に苦痛を与えることによって性的興奮を得るタイプを指しますが、 プティパが、本当にサディストだったか知りませんが、片足ポワントで静止したポーズを取るというローズ・アダージョのバランスは、 バレリーナにポアントでの極限の平衡感覚と、背骨と腰の負担を強いることに加え、バレリーナにとっては、常にバランスの崩壊〜破綻という恐怖に苛まれる、 極めて至難な踊りには違いありません。 リサ マリー ジェイミーカラムは、前半のバランスでは、支えの腕に力が入ってギクギク揺れて、手を握りなおしたりして、きつそうでした。 でも、手を離すのが精一杯で、ほとんど横滑りという人もいる中、しっかりとアンオーまで手を挙げてみせたのは偉い。 そして最も難しいプロムナードを伴う後半のバランス。その三人目、細かくぐらぐら揺れながらも、必死に重心を探し、グッと堪えて長いバランスを決めたのは流石。 ただ、四人目に備えて、三人目の手を離したとたんグラッと傾き、思わずひやりとしたけれど、とっさに四人目の手にしがみつき事なきをえました。 その後持ち直して、最後はアラベスクを美しく決め、観客の拍手を誘いましたが、グラグラとする揺れを堪えて必死に持ちこたえていた姿に痛々しささえ感じるほど、 もうハラハラ、ドキドキ、手に汗を握るバランスでしたが、まずは破綻無くこなして、レヴェランスでホッとした笑顔が美しかった。 いやはや危なっかしくて、見ている方もどっと疲れが出てしまったくらいでしたが、これが却って新鮮で、バレリーナが可愛らしく感じました。 そう言えば、批評家の佐々木涼子は著書「バレエの宇宙」(文芸春秋)の中で、「なにも片足で完璧にバランスを保つ必要はないのだ。 一人では立っていられないという心許なさこそが、オーロラ姫の初々しさを強調しているのだから。 そもそもそれが、本来の振付の意図だったのではないだろうか」と言っていますが、同感です。

このバランスの部分。20年ほど前にシルヴィ・ギエムが長いバランスを見せて以来、これでもかと言うくらい長くバランスをとって技巧を誇示するダンサーを見かけます。 観客の方も、バランスの部分にさしかかると、妙に緊張し、まるでオリンピックのように肩怒らせた判定モードになってしまう。 こうなると物語りもバレエもそっちのけで、身を乗り出して観戦?するという感じになってしまい、あまりいい趣味とは言えません。 その最たるのがタマラ・ロホ。「凄いでしょう!!」と言わんばかりのビクともしない長〜いバランスですが、 曲芸のようで、ビックリするだけで美しいとは思えません。 ローズアダージョはお見合いの場ですから、ロホのような長時間ビクともしない曲芸的なバランスよりも、リサ マリー ジェイミーカラムの、今にも崩れそうで、思わず支えてあげたいと思わせるような心許ないさ方が、 オーロラ姫の不安定な心の理想の表現のような気がします。
CULLUM - SLEEPING BEAUTY - ROSE ADAGIO
GALA IN MUNICH 07.05.2009 
もう一つ、これより7年前のローズアダージョの映像も、YouTubeに載っていました。 こちらはガラではなく全幕に一部で、これも危なっかしいバランスですが、真剣に取り組む姿が魅力的です。
The Sleeping Beauty- Aurora Act 1 entrance & Rose Adage - Lisa-Maree Cullum - 2002 

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