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ドガ 踊り子の画家    (2010.7.11)

NHK BSのプレミアム8で、エドガー・ドガ(Edgar Degas,1834〜1917)の特集がありました。「踊り子の画家」と呼ばれるドガ。19世紀のパリで、踊りのポーズの瞬間など、バレリーナを捉えた作品を描きました。なぜ、生涯をかけてバレリーナを描き続けたのか。物議をかもした彫刻作品の秘密を解き明かしながら、ドガの思いを浮き彫りにする。(番組HP)」というものです。 お婆さんの声を野際陽子、孫の声を福田麻由子が担当し、ドガを語り合いながら進行する番組でした。
 
ドガは生涯、独身を貫き、生涯をかけてバレリーナの姿を追い求め、描き続けた画家でした。当時、パリ・オペラ座でバレエを観劇できるのは、裕福な人達だけだったのだそうですが、ドガは裕福な家に生まれたため、オペラ座に通い続けることができたのです。ところが、銀行家の父親が、莫大な借金をかかえ、この世を去ってしまいます。長男のドガは、家や財産を売却したりするなど、大変な苦労を抱えることになってしまいます。さらに、ドガは、30代半ばから、網膜の病を患い、視力は年とともに衰え、どんどん光を失っていき、画家としては致命傷の病に苦しみました。人生の儚さを感じたドガは、この頃から表舞台だけでなく、裏舞台も描くようになったそうです。
 
ドガの代表作の「エトワール」。絵の中のバレリーナが踊りだしそうな躍動感があります。ジャンプして、つま先立ちから着地した瞬間の様子。いかに多くのバレエの舞台を観に行ったか想像できます。しかし、この絵には暗い部分があります。幕の後ろで出番を待つバレリーナに混じって、黒服の男性が描かれています。当時のオペラ座に通う紳士たちの多くは、バレリーナのパトロンだったそうです。幕の後ろに見える黒い人影は、踊り子を品定めするパトロンの姿です。ドガは、華やかで美しい世界だけでなく、厳しい現実の世界も描いていたのです。
 
ドガが描いたバレリーナは、後世に名前を残すことのない無名の踊り子達が多かったそうです。当時、バレエ界の中心はロシアへ移り、パリのバレエ界は、金持ちの男性が性の対象として見ている貧しい踊り子の女性が働く場所でした。ドガが唯一生前に発表した彫刻「14歳の小さな踊り子 」のモデル、マリーも貧しい移民の女性だったそうです。「14歳の小さな踊り子」は、発表された途端に、世間の痛烈な批判を浴びてしまいました。痩せた少女にバレエの衣装を着せ、本物の髪を張り付け・・・、幼くいたいけな少女という感じで、あまりに生々しい作品ゆえに物議をかもし出したのでしょう。踊りの練習に集中している少女の一瞬の表情を造形にしたもので、少女の緊張感と動きの、外見と内面とが同時に見事に凝縮された作品で、当初は着色された蝋細工であったものを、40年ほど経ってからブロンズにつくり直したそうで、ドガは、この彫刻を、二度と人目にふれることがないように、大切にケースに入れて自宅に保管していたということです。
   
ドガ:「エトワール」「14歳の小さな踊り子」  (いずれもTVの画面より)

享年83歳。独身を貫いたドガは、一人静かに亡くなっていったそうです。死後彼のアトリエから、150体もの小さな踊り子の彫刻が発見されました。目が闇に覆われても、最後まで自らのモチーフ「踊り子」を追い求めて、ドガは銅像を作り続けたのです。ドガが、どれだけバレエやバレリーナを愛していたか、強く感じた番組でした。
「ドガ 踊り子の画家」:【声】野際陽子、福田麻由子、【語り】守本奈実、NHK BShigh、2010.6.1
 
9月には「ドガ展」があります。「エトワール」も来日します。オルセー美術館の協力を得て、踊り子や裸婦を描いたパステル画、油彩画の代表作から晩年の彫刻など約100点が展示されるということです。しっかり見て来ようと思っています。
 
●ドガ展: 横浜美術館  2010年9月18日〜12月31日

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