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デュランテ・熊川の「眠りの森の美女」     (2002.11.24)

K-バレエ公演、「眠りの森の美女」を観てきました。ユーポート簡易保険ホールは、熊川哲也を一目みたいという若い女性たちで満員。どんなに女性が多かったかは、一階の男性用のトイレを女性用に開放してもまだ長蛇の列ができたことからもわかります。私たち男性は、この女性パワーに圧されて、小さくなって見ていました。もっとも、一緒に見ていた私の妻もこの女性たちと同様、熊哲見たさできたのですが・・・・。
一方、過去に日本でも幾度かフロリムント王子を踊っている熊川哲也ですが、今回は熊川哲也自らが振付・演出にも挑みフロリムント王子も務めるという点で興味ある公演であったことは確かです。
 
でも、私の目当ては、熊川哲也ではなく、オーロラ姫役のヴィヴィアナ・デュランテ。ロイヤル・バレエのビデオで、彼女のローズ・アダージョに魅せられ、いつか生の舞台を見たいと思っていたのですがに、それが叶いました。実は、彼女の怪我のニュースが流れていたので本当に出演できるか直前まで心配だったのですが、当日の配役のチラシを見てホッとした次第です。
期待通り、デュランテは素晴らしかった。
なんと言っても見事なのはローズ・アダージョです。難しいアチチュードのバランスも、全く危なげがなく美しく華やか。バランスの長さは驚異的!!。王子たちのサポートが要らないくらいなのです。ビデオでもそうでしたが、今回も、デュランテは、最初も、そして終盤のプロムナードの時も、3人目の手を離して、アンオーに上げたままずっと長くバランスをとり続け、差し出された4人目の手に一切触れず、そのままフィニッシュのアラベスクに持ち込みました。トゥの先から根が生えているかのように、この間全くぐらつかないのです。 あまりの素晴らしさに、興奮した観客からは、バランスの途中から拍手を誘い、キャーという悲鳴のような声があがりました。天性のバランス感覚の良さに加え、日頃の弛まぬ稽古のたまものだと思います。
日本のバレリーナの中にも、デュランテと同じようにバランスを長く保てる人もいるのですが、今にも崩れそうな心許なさの不安がつきまとい、これほどの安心して見ていることができたオーロラ姫は初めてです。もっとも、グラグラしていまにも倒れそうになりながらも必死にバランスをとって頑張っている健気な姿の方が、かえって初々しくて、心に残る面もあるのですが・・・・・・
ローズ・アダージョの楽しみは、バランスの長さや安定感がすべてではありませんが、熟練したバレリーナでも極度に緊張するというバランスの妙技は、ローズ・アダージョの魅力の一つには違い有りません。少なくとも、デュランテのローズ・アダージョは、バランスのところで、いつもハラハラ、ドキドキするのと違って、ゆっくり、安心して見ることができたのでした。
オーロラ姫について、デュランテは、次のように言っています。
「オーロラ姫は私が大切にしてきた役柄の一つです。彼女の持つ純粋さや優雅さ、輝くような美しさを表現することはとても楽しく、その一方で、1幕で踊る「ローズ・アダージョ」のように、高度で洗練されたテクニックを要求される場面が数多く登場するという難しさもあります。それだけに、バレリーナにとってはとても踊りがいのある役なのです。」(この公演のチラシより)
 
ただ、幻想の場も、グラン・パ・ド・ドゥも、ローズアダージョの素晴らしさに比べると、デュランテは、はるかに輝きがありませんでした。1幕のローズアダージョで初々しい少女として登場したオーロラ姫は、2幕の幻想の場で恋を知り、3幕のグラン・パ・ド・ドゥで妻となるのですが、バレリーナはこのオーロラの成長に従って自ら感情の高まりを感じながら役にめり込んでいくと言われますが、デュランテのオーロラ姫は、2幕も3幕も淡々とした踊りで、感情の高まりが感じられなかった。ミスなく、ただただ踊ったという感じがして、なんとなく物足りなかったのです。
でもこれには、デュランテ自身と言うより、パートナーの熊川哲也のサポートに原因があるかもしれません。熊川哲也との呼吸が、しっくりいっていないと感じられた箇所がありました。3幕のパ・ド・ドゥのアダージョでは、デュランテはパ・ド・ポワッソン(フィッシュダイブ)をビシッビシッと決めたのですが、受け止める熊川がなんとなくぎこちなく、遅れ気味でした。また、ローズアダージョの時は四人の王子を相手にバッチリ決まったバランスも、第2〜3幕では、熊川のサポートと息が合わないのか、バッチリとは言えませんでした。
熊川哲也は、これまでに、日本のトップダンサーと、「眠りの森の美女」を踊ってきました。でも、私は、このとき、熊川は巧い踊り手だとは思いましたが、優れたサポーターとは思えませんでした。というよりも、熊川哲也は、どんな女性と組んでも、あまりしっくりいっていないように思います。有る女性ダンサーは、リフトから落とされてもう少し床にぶつかりそうになったし、また、有る女性は、アチチュードサポートを忘れられて、危うく転倒しそうになったり・・・・・・・。彼は、どうも女性ダンサーのサポートに対する気配りが不足しているようです。今回は、以前に比べるとはるかに良くなったと思うのですが、やはりこの感じはぬぐえませんでした。技に秀でたダンサーは必ずしも優れたサポーターではないということでしょう。マラーホフや故ヌレエフが、どんなパートナー組んでも、微笑ましいばかりの素晴らしいサポートをするのと対照的です。
牧阿佐美バレエ団の森田健太郎さんが、ある雑誌のインタビューで、「女性が不安定になったとき、僕がさっと出て助けてあげたい」と言っていましたが、この気持ちこそ、バレエの女性のサポーターとして最も大切なことだと思います。
 
とはいうものの、やはり彼のソロは素晴らしかったと思います。以前のように、高いジャンプで驚かすというような派手な面は薄れてきましたが、なめらかで丁寧な踊りに好感を持ちました。
もう一つ、デュランテの靴音がやや気になりました。踊りは、しなやかですこぶる美しいのに、ブーレのコトコト、ジャンプでドンという大きな音がしていました。これはちょっと意外でした。日本人のバレリーナの中にも、コトリとも音をさせない見事なトゥさばきの人もいるのですが・・・・。
 
ステージの構成的には、プロローグから第1幕まで休憩なしに一気に舞台を進めていって、スピード感があって退屈させず、とても良い試みだと思いました。
幻想の場でのオーロラ姫の衣装が、クラシック・チュチュでなかったのは、チュット?・・・。テクニックを魅せる部分も多々あるので、ここはダンサーの足がよく見えるクラシックチュチュにすべきだったと思います。
また、リラの精など6人の精たちもクラシック・チュチュではなかった。これも???。好みの問題でしょうが・・・・・・
 
いろいろ気になる点はあったものの、当代最高のオーロラ姫と言われるヴィヴィアナ・デュランテの最盛期のステージをいることができたのは、バレエファンとして最高に幸せでした。
ただ、入場料がべらぼうに高い。一般の公演の3倍ちかくします。もっとも、こんなに高くても劇場は満員で、立ち見が出るほどだったのですから、熊川哲也の人気もたいしたものです。
なお、この公演は、いずれビデオやDVDで発売されるとのこと。楽しみです。

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