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グラン・パ・クラシックを教わるシルヴィ・ギエム    (2001.6.2改)

エトワールの肖像というビデオがあります。この中に、イヴェット・ショバレがシルヴィ・ギエムに「グラン・パ・クラシック」を教えているシーンがあります。ショバレは30年にわたりパリ・オペラ座のエトワールを務めていましたが、1972年に引退し以降、後進の指導に努めています。
このビデオでのシルヴィ・ギエムは、もぎたての果実のように初々しく、アンオーなど基本中の基本動作を丹念に叩き込まれています。 「あ、違う。もっとキープして」「腕は、"冠"をキープして。だめ!、それでは形がくずれている」・・・・容赦なく、叱咤の声が飛びます。ギエムの表情は真剣そのもの。今にも泣き出しそうにすら見えます。ギエムの背中には汗が光っています。
まさに真剣勝負のような迫力が有りますが、ギエムも、打てば響くように応えていくのは、さすが世界一のバレリーナと言われるだけのところがあります。
そして本番の舞台、ショバレはギエムに呼びかけました。「さあシルヴィ!、大きく踊って、舞台一杯を使って」。
できあがった「グラン・パ・クラシック」は、芯の確かなカチッちした仕上がりとも言えそうな、肢体のコントロールする力が際だっていて、特に脚力の強靱さが光ります。
 
バレエコンサートで人気の高いこのバレエが作られたのは1949年ということですから古典とは言い難いのです。
しかし、内容は古典のグラン・パ・ド・ドゥにのっとった形をとっています。 つまり、男女で踊るアダ−ジョ、男女それぞれのバリアシオン、そして、二人のコーダとなります。 すべてに、難度の高いダンス・クラシックスの動きをちりばめた華麗な小品です。
 
特にこのバレエが注目を浴びたのは、上記のシルビー・ギエムが演じてからと言われています。
イヴェット・ショバレにより徹底的に仕込まれたギエムと、サポートのマニュエル・ルグリによって演じられた真剣勝負のようなこの踊りは、ギエムが次々に繰り出す超絶技巧で、公演会場を騒然とさせたそうです。
この二人による「グラン・パ・クラシックス」の映像があります。ギエムの、「どうです、すごいでしょ!!」と言わんばかりの強気の踊りです。
実は、私は、ギエムのこのような客席を見据えるような強気の姿勢と超絶技巧は、どうしても好きになれません。180度を超える凄まじい開脚、トゥに根が生えたようで微動だにしない長〜いバランス、このようは神業を見せられると、言葉に窮してしまいます。バレエは「芸術」であって、新体操まがいのテクニックは、下品にすら見えてしまうのです。
もう一つ、しばらくして、ギエムが,やはり、マニュエル・ルグリと組んで踊った「グラン・パ・クラシックス」の映像があります。「ハンスクリスチャン・アンデルセン。ガラ」という映像の中のものですが、相変わらず、長〜いバランスや180の開脚で観客は大喜びですが、ヴァリアシオンやコーダでは、かなりきついように見受けられ、踊り終えたとき、大きく息を弾ませていました。でも、この映像を見るとギエムの客席を見据えるような強気の姿勢はなくなっていて、むしろ汗を一杯かいて懸命に頑張って踊って、踊り終えた時の安堵の柔和な笑みがとても美しいのです。「若さの芸術」と言われるバレエ、ギエムといえども、やはり年齢を感じる年頃。人間的な、円熟味が増してきた証拠でしょう。
その後、シルヴィ・ギエムは、マッツ・エックに傾倒し、純クラシックから離れてしまいましたが、この「グラン・パ・クラシック」はエリザベート・プラテルに引き継がれました。
プラテルは、アナニア・シヴィリ達と来日し、この、グラン・パ・クラシックを踊りました。その映像が残されていますが、ギエムのような度肝を抜く曲芸的な開脚やバランスは無いけれど、ダンスクラシックのこの上ない高度な技術を駆使した中に、心なしか不安を感じさせながらも、ふくよかなエレガンスが加わって、舞姫の中の舞姫と言えるような輝くばかりの美しさです。

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