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ベジャールの「春の祭典」     (2001.12.16)

1913年、ディアギレフのロシアバレエ団がこの作品を初演したパリ・シャンゼリゼ劇場は上や下への大騒ぎだったそうです。音楽が始まるとまもなく客席から抗議の口笛が鳴りだし、ダンスが始まると一方で怒号が、もう一方で声援があがって、音楽は聞こえなくなってしまったと言うことです。振り付けは、ニジンスキー。上品さ、優雅さの、いわゆる「プリンセスのバレエ」を見慣れていた当時の観衆にしてみれば、この作品は、バレエというには、きわめて前衛的で、衝撃的なものであったのでしょう。
 
作品には明確に筋はありませんが、一言で言えば、若い処女が神の生け贄になる物語です。人々は、春の到来を祝い、大地に感謝の祈りを捧げます。しかし太陽神の怒りを恐れた人々は一人の処女を生け贄に捧げます。彼女は聖なるダンスを踊り、高揚して、狂乱に転じ、ついには彼女は息絶えるというものです。
 
前衛的な第一は、ストラビンスキーの音楽。楽曲には一貫とした旋律らしきものはなく、変調が繰り返され、リズムもテンポもたえず不規則に変化します。
第二は、当時のニジンスキーの振り付け。ダンス・クラシックの三大原則は、アン・ドゥール(脚の開外)、エレヴァシオン(上昇性)、アプロン(調和)と言われていますが、この踊りの振り付けはこれらをことごとく逆転させてしまったようです。ダンサー達は、むしろ内股に近い状態で、よたよたとすすんだそうです。ダンス・クラシックの基本である「バランス」を全く無視しているようです。
 
私はベジャール・20世紀バレエ団による「春の祭典」しか観たことはありませんが、ニジンスキーのそれのように、ダンス・クラシックの技法を全く無視しているような前衛的なものではなく、むしろ洗練されているものの、力強く野性味があり、大胆に官能的な踊りです。明らかに「プリンセスのバレエ」とは違うので、これをバレエと呼んでよいものか疑問ですが、でも、最近のコンテンポラリーとかモダン・ダンスというものに比べると、古典的で、親しみやすい感じがします。 VIEW
 
このベジャールの「春の祭典」を観ながら、初演で罵声と歓呼が渦巻いたというニジンスキーの振り付けを想像してみるのも、興味深いものがあります。


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