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バレエ「ヘンゼルとグレーテル」   (2002.7.24)
(清らかでさわやかな幸せの一時)

素敵なステージを観ました。バレエ「ヘンゼルとグレーテル」です。
「ヘンゼルとグレーテル」は、エンゲルベルト・フンパーディンクが、19世紀後半に、作ったオペラで、子供向けとはいえ、大人も十分楽しめ、欧米では「くるみ割り人形」と同様、クリスマス前後に広く上演されています。
 
フンパーディンクは、グリムの童話をもとに、妹ヴェッテの子供たちのために小さな家庭劇を作りましたが、その後、本格的なオペラに作り替え、R.シュトラウスが指揮をして、ワイマール宮廷劇場で上演されました。以来、「ヘンゼルとグレーテル」は、世界中で愛されるようになりましたが、ドイツの神話をオペラにしたワーグナーの手法を巧みに取り入れながらも、ワーグナーの楽劇ほどの重厚さ・長大さを求めず、気軽に、おとなも子供も楽しめる人気のオペラになっています。
東京シティバレエ団は、このオペラを、実に清らかでさわやかなバレエに作り替えました。
主要な役柄は、ヘンゼル、グレーテル、魔女、お父さん、お母さん・・・ですが、何より、ダンサーの皆さんが力を合わせて、ステージを良くしようと懸命に努力している気持ちが
伝わってきて、観ている方は、とても気持ちがよいのです。ステージは、幸せに溢れて、流れるように進み、私はバレエということを忘れて、自然、物語に吸い込まれていくようでした。
 
第一幕、貧しい夫婦ペーターの家。
幕が開くと、お腹をすかしたヘンゼルとグレーテルが登場。デュエット「いっしょに歌いましょう」が踊られます。このメロディはいつ聞いても楽しいものです。
グレーテルは 山口智子さん、ヘンゼルは、堀内充さん。私は、この二人の踊りを観たのは今回が初めてですが、この劇の素朴で清らかな主人公のイメージにぴったりで、あまり派手なパやポーズを控えて、丁寧に自然に、とても楽しく踊ってくれました。
森の中、ヘンゼルとグレーテルは、森の奥へ奥へと進み、道に迷ってしまいます。
疲れて眠ってしまった二人。夢の中での「眠りの精」の美しい踊り、14人の天使が舞い降りてくる夜の場面など、バレエならではのファンタジックな世界が広がります。
ここは、フンパーディンクの神への祈りと感謝の気持ちが強く感じられるところです。
この場面は、オペラの場合も、バレエが挿入されるところですが、オペラの時は、パントマイムに近い群舞によることが多いのですが、今回は、トゥを使った本格的な踊りで、ソリストとコールドバレエの幻想的な美しい踊りに、しばしうっとりと見入っていました。
オペラでは、ソプラノが歌うところですが、今回は、江東少年少女合唱団のコーラス。
これが、実にさわやかで素敵でした。
 
第二幕、ヘンゼルとグレーテルが小鳥の声で目を覚まします。
ここでの小鳥の踊りが、とても可愛らしくて良かった。先日、「コッペリア」で主役を踊った、志賀育恵さんを中心に、軽やかなステップがすがすがしい。この曲はオペラにはないものです。
続いて、お菓子の家と魔女が現れます。魔女は、スケートボードを使ってステージを駆け回り観客の笑いを誘います。
グレーテルの山口さんと魔女の金井利久さんの、マイム主体のやりとりがとても面白い。
かまどで燃える火を表現した火の精の踊りが見事でした。この曲もオペラにはありません。そして、ヘンゼルとグレーテルは魔女をかまどに押し込めて・・・・。
ヘンゼルとグレーテル、二人を探しに来た両親、そして子供たちは、魔女をやっつけたことを喜び、神へ祈りをささげます。 ここでもフンパーディンクの神へ感謝の気持ちを強く感じながら、幕となります。
 
このバレエ、ストーリーや踊りの面では、何一つ不満はないのですが、あえて言うと、
魔女をかまどに押し込めたあたりから、フィナーレにかけて、今まで見慣れたオペラの「ヘンゼルとグレーテル」に比べて、若干、盛り上がりに欠けていたように感じました。
オペラですと、魔女をかまどに押し込めた部分で、子供達から拍手と歓声が起こるし、大人もつられて拍手するところですが、今回、客席は静かであまり反応がなかった。この部分のステージの展開が、淡々として、踊りにメリハリがなかったからかもしれません。この点が、今後の課題でしょうか。
 
私は、このバレエを、見終わって、ほんのり、幸せな気持ちになりました。美しい音楽に、さわやかな踊り、とても楽しい一時でした。派手なパ・ド・ドゥのポーズやフェッテを取り入れた豪華なバレエのステージとはひと味違う、素朴でさわやかな美しさがありました。
 
とりわけ、音楽の流れが、とても自然で、ステージによく溶けこんでいました。
これには、指揮をされた福田一雄さんの編曲によるところが大きいと思います。フンパーディンクのオペラのオリジナル曲に加え、バレエのために多くの曲が挿入されていましたが、これが実にステージとぴったりで、さすが、バレエ音楽にかけては、右に出る人は居ないといわれる福田さんのお力の賜だと思います。オーケストラはあまり大きな編成ではないようでしたが、とてもさわやかな美しい音でした。最近、バレエの演奏を軽視するのか、バレエの公演で、音をはずしたりするオーケストラが多い中、今回のオーケストラの演奏は出色です(演奏は東京シティ・フィル)。この辺にも、オーケストラのメンバーひとりひとりに、このバレエに賭ける、福田さんの気持ちが、しっかりと伝わっているように思います。
 
東京シティバレエ団が、この「ヘンゼルとグレーテル」を上演したのは18年ぶりとのこと、オーケストラがバックでは今回が初めてとのことです。ただ、こんな素敵な作品なのに、猛暑のせいもあってか、2階席にやや空席が目だったのが残念でした。一人でも多くの人に観て欲しかった。やはり「ヘンゼルとグレーテル」は、「くるみ割り人形」等に比べ、知名度は、まだ低いのでしょうか?
ぜひ、東京シティバレエ団の皆さんが、この素晴らしいバレエを、同バレエ団のレパートリとして確立し、「ヘンゼルとグレーテル」が、いつもクリスマスに上演され、子供にも大人にも、夢を与えてくれる素敵なバレエ作品になることを願ってやみません。
 
2002年7月20日 ティアラこうとう大ホール
演出・振付  石井清子
ヘンゼル 堀内充、グレーテル 山口智子、魔女 金井利久
父  青田しげる、母  長谷川祐子、東京シティバレエ団
編曲・指揮 福田一雄 、演奏 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

TDSのHPに写真があります

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