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眠りの森の美女~グラン・パ・ド・ドゥ:ファン・へミン、イ・スンヒョン     (2013.1.29)
何とも微笑ましい、とても素敵な、眠りの森の美女~第3幕グラン・パ・ド・ドゥの映像が、YouTubeに載っていました。 踊っているのは、韓国ユニバーサルバレエ団のファン・へミン (Hyemin Hwang) とイ・スンヒョン (Seunghyun Lee) 。 2012年バレエジョアン10周年記念-祝賀公演(발레조아 10주년 기념공연 - 축하공연)となっていて、ファン・へミンのパートナーは、いつもの夫君のオム・ジェヨン(Jaeyong Ohm) ではありません。二人はゲストとして招かれたようで、イ・スンヒョンは、緊張気味のファン・へミンを力強くかつ優しくサポートしていました。

ファン・へミンは、力を入れて曲げたら折れてしまうのではと思わせるほど、ほっそりとした華奢な体型、 それでいてギスギスした感じではなく、静かな物腰、清楚かつ理知的な雰囲気。抜群のプロポーションに、伸びやかなつま先、叙情的な表現で、 バレリーナの資質をすべて兼ね備えていると言えそうな舞姫。 派手さはないけれど、端正・丹念な、しっとりとした踊り、 それでいて、今にも崩れてしまいそう頼りなさ。これが却って「頑張って!《と応援したくなる魅力でもあり、彼女は、 私の抱いているオーロラ姫のイメージにぴったりのバレリーナです。 ただ、このグラン・パ・ド・ドゥでは、ファン・へミンには緊張が感じられ、とりわけアダージョは険しい表情。バランスがギクシャクしたりしたところもあり、 ほとんど笑顔が見られませんでした。おそらく祝賀公演のゲスト出演で、「失敗は許されない《という重圧を感じていたのでしょう。 踊りは繊細で上品でとても感じの良いものでしたが、見せ場のディフィカ(フィッシュ・ダイブ)は、一度目こそ無難にこなしたけれど二度目と三度目は・・・。 二度目のダイビングはやや足がもつれて、三度目は「今度こそ!《という気負いからかタイミングがずれ、左足の蹴り上げが遅れてしまった。 イ・スンヒョンがとっさに受け止めたので良かったものの、ファン・へミンの頭が大きく揺れてヒヤッとしました。 危機一髪、ファン・へミンを救ったイ・スンヒョンは偉いと思います。 とはいえファン・へミンのフィッシュ・ダイブの決めのポーズは本当に美しい。 蹴り上げた左足をまっすぐ上に伸ばし、腰を直角に曲げて胸をそらし、頭を思い切り持ち上げて正面を見つめて・・・、本当に魚が跳ねているよう。

それにしても、パートナーのイ・スンヒョンのサポートはうまかった。ファンへミンの動きを良く見て、しっかりアシストしていたのが印象に残りました。 ファン・へミンのウェストをデリケートに支え、ファンへミンが完全にバランスを確保したのを見届けてそっと手を離す・・・・理想的なサポートです。 終盤、オーロラが座った体勢から右手で王子につかまりアチチュードで立つ場面、僅かに右へ揺らいだファン・へミンを、 イ・スンヒョンは即座に支えて助け、続くプロムナードでも、トゥで立つ右足と支えの右腕がギクギクしていたファン・へミンをガッシリと支えました。 アラベスク・パンシェでも、ファンへミンはイ・スンヒョンに助けられ、歯を食いしばって、左足を高く挙げた難しいポーズに挑みました。 オーロラの場合、180度まで脚を開くと下品に見えてしまうこのポーズ、ファン・へミンは節度をわきまえて脚の高さを150度位に抑え、 脚をまっすぐ伸ばして、背中からトゥの先まで惚れ惚れするくらい美しい曲線を描きました。

アダージョのフィニシュでのリフトの後のディフィカは、二人が完全に結ばれて一つになったことを表現するこのポーズ。 二人のタイミングが重要ですが、ファン・へミンはしっかり左足をイ・スンヒョンの背中にからめて、ひざの上でバランスをとって、二人一緒にぱっと手を離して静止。 沸き起こる拍手の中、ファン・へミンの額には汗が光り、高まった胸の鼓動が聞こえるよう。 身を起こされて、今まで緊張で強張っていた表情が、やっと穏やかになりました。観客に向かってのレヴェランスでは、拍手に微笑みながら、グッと思わずこみ上げてくるものがあったのでしょう。しきりに目蓋をしばつかせていました。 クラシック・バレエのアダージョは女性ダンサーがバランスを保ってその技能や才能を披瀝したり、ゆったりしたテンポに添って完璧な均衡と美しいボディ・ラインを誇示する見せ場を盛り上げる場面。 このアダージョ、女性は男性のサポートがなかったら何も出来ない。男性のがっちりとした支えがあればこそ、 女性は細いポアントで立って上安定な難しいポーズを決めることができるのです。 このグラン・パ・ド・ドゥ、ファン・へミンは緊張気味で、サポートのイ・スンヒョンにかなり助けられた感じでしたが、 ダンスール・ノーブルとは、イ・スンヒョンのような優しくしかも力強いダンサーを指すのでしょう。

続く一人で踊るヴァリエーションでは、ファンへミンはやや落ち着いてきたのか、要所要所を危なげなく決めて笑みも見えました。 この部分は、トゥで立った踊りが大部分ですが、とりわけポアント立ちのアラベスクは美しかった。 フィニッシュのシェネでは途中から拍手がおき、ミスなく終えて深々とお辞儀する姿が可愛らしかった。

グラン・パ・ド・ドゥ最後の二人のコーダでは、ファンへミンはとても軽快で跳んでいるよう。フィニッシュのピルエットをピタリと止めたときは、さすがにホッとしたのでしょう、 安堵の表情を見せました。
それにしても、クラシックチュチュを身に着けたファンへミンは本当に美しい。 たたずまいからも清楚な輝きが香り立つ・・・。 クラシックチュチュとトゥシューズがこんなによく似合う人も珍しい。全てが彼女のため作られたように思えるくらい。まさにクラシックバレエの人形です。 清楚で爽やかな首筋、華奢ながらしなやかな腕、シャープなトゥにまろやかな曲線を描く甲、優雅に揺れる清楚な短いチュチュからすっきり伸びた美しい脚、 それに、時折コトンと心地よく響くトゥシューズの音。 プレッシャーと戦いながらも懸命に踊ったバレリーナ、彼女を力強くサポートした男性ダンサー。 この男女が織り成すグラン・パ・ド・ドゥという共同作業、本当に微笑ましいデュエットでした。

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