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エスメラルダ〜パ・ドゥ・ドゥ〜ヴァリエーション:伊野波 都   (2016.12.4)

エスメラルダのヴァリエーションは、1982年にベン・スティーヴンソンという人により振付けられたヴァリエーションなので、古典のエスメラルダには存在していなかったヴァリエーションです。 バレエのバリエーションの中では珍しくタンバリンを持って踊るのが特徴的で、タンバリンエスメとも呼ばれています。 とても興味深いバレエの映像がyou tubeに載っていました。 2015年のエデュケーショナルバレエコンペティションの録画で、Aristo Ballet Studioに学ぶ伊野波都という若いダンサーの踊りです。
伊野波都は小さな頭に長い手足という均整の取れたプロポーション。病的なまでに華奢で弱々しさを感じさせる舞姫が多い中、伸びやかでふくよかな肢体が健康的で色っぽい。 とりわけ、くるぶしからトゥの先端までまろやかな弧を描く甲がこの上なく美しい。 溌剌としてキビキビとした身のこなしと可愛らしい表情。 それでいて、ゆっくりして柔らかな動きもきちんとこなす。 何より笑顔が美しくチャーミング、踊ることが楽しくてたまらないといった感じで、こんな笑顔を見るとこちらも嬉しくなってしまいます。 踊りは本当に正確で美しく、最初から最後まで一時も目を離せませんでした。こんなにじっと見とれてしまったのは久しぶりです。 出だしの脚を高々と跳ね上げる3回のグランバットマンは脚が無理なく180°近くまで上がり、つま先が綺麗に伸びてうっとりでした。 アン・ドゥオールが完璧に身についているのでしょう。こんなに上げても下品にならずとても優雅。 引き続き後ろ足でタンブリンを打ちつけながらのアラベスクとアティティードのコンビネーションも、ひときわ険しい表情になったけれど、全く危なげなくスムーズで美しいこと。見事でした。 続く見せ場の3回転ピルエット。一度目はピタッと決めたものの、二度目の最後で思わぬアクシデント。足首が崩れて突然コケた。 でもそこが彼女の凄いところで、笑みを浮かべて、何事もなかったかのように最後まで踊り続けた立派でした。
このヴァリエーションでは、伊野波都の精神力の強さに感心しました。これは、日頃の厳しい稽古で培った賜物なのでしょう。 途中軸足のトゥが崩れてコケても、とっさに手をついて、尻餅を回避し、柔和な笑顔を崩さず、最後まで踊りぬきました。
ハプニングにも全く動じず、リカバリーの対処方法をしっかり身に付けている証拠でしょう。偉い!!。
以前ある有名なバレエ団の公演で、主役級のダンサーが、ドタンと大きな音で尻餅をつき、その後も気が動転したのかメロメロで散々な踊りになり、「プロなのにしっかりしろよ!!」と言いたくなったことがあった。 このダンサーに伊野波都の爪の垢を煎じて飲ましてやりたいと思ったくらい。 コンクールなので、コケたことは、減点の対象になったでしょうが、このコケかたが何とも色っぽい。ゾクッとしたほど魅力的なのです。 「バレリーナはアスリート」という記事を読んだことがあるけれど、伊野波都にはアスリートのような精神力の強さが備わっているのでしょう。 「舞台には魔物がいる」と言われるくらい、舞台にアクシデントはつきもの。それを物ともせず、至難な二度の3回転のピルエットに果敢に挑戦した伊野波都の勇気を称えたい。 終盤の見せ場のバロネ・スュル・ラ・ポアントで立って、反対の脚の爪先でタンバリンを叩くところは、ゾクゾクするほど魅力的。 美しいトゥは全くブレず、ふくよかな太腿にはほのかに色っぽさが漂い、これほど脚を高く挙げても上品さも失わず、立派でした。
伊野波都はこのコンクールでシニア部門の第2位に終わったけれど、この映像のコメントに『「ピルエットで転んでしまったのに諦めずに最後まで踊りきったのがすごいですね!」「これ転けなかったら絶対1位だったと思います。」』とあるように、私も、第1位のダンサーの踊りより華があって、はるかに惹きつけるものがあると感じました。 コンクールは通過点であり、その結果は順位しかないけれど、プロになる前にコンクールという舞台を踏むことによって、本番の厳しさを体験して成長に役立てると同時に、自分を良さをアピールして自身の飛躍に続ける絶好のチャンス。 実際このステージの後、伊野波都には海外のバレエ団から、研修生としての多くの誘いがあり、彼女は、まずロシアで研修を受けたようですし、 ハンガリー国立バレエ学校への入学も決まったそうです。
伊野波都のエスメラルダのヴァリエーションの稽古の映像が、Aristo Ballet Studioのfacebookに載っていました。 留学先のハンガリー国立バレエスクールの学校公演でのエスメラルダのリハーサルのようです。今後の活躍を期待しています。
また、伊野波都は、第2回とうきょう全国バレエコンクール2014年でも高校生・シニア部門で1位になっています。 エデュケーショナルバレエコンペティション2015の1年前で、少女っぽくてやや色っぽさに欠けるけれど、初々しく美しい踊りです。

ヴァリエーションの稽古(伊野波都)

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