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海賊のグラン・パ・ドゥドゥ:キム・ジヨン、イ・ドンフン     (2014.4.25)
バレエ「海賊」は、その華やかな内容ゆえに、ショーとしての性格がどんどん強められていき、 音楽も演出の方針に合わせて、 さまざまな演目や作曲者の作品が次々と織り込まれていきました。 日本では「海賊」は全幕公演をされることが少なく、部分的に抜粋したものを見ることのほうが圧倒的に多いと思います。 その中でも第2幕の洞窟の中でのメドーラ・コンラッド・アリの3人がみせるパ・ド・トロワが有名で、 優雅なアダージョやコーダの32回のグランフェッテなど見所が多くて楽しめます。 コンサートなどでは、コンラッドがいないメドーラとアリのパ・ド・ドゥとしてよく上演されるのです。

とても素敵な、海賊のグラン・パ・ドゥドゥの映像が、YouTubeに載っていました。 踊っているのは、キム・ジヨン、 (Ji-young Kim) とイ・ドンフン(Dong-hoon Lee ) 。いずれも、韓国国立バレエのプリンシパルです。 2012年5月、芸術の殿堂野外舞台でのバレエコンサートのようです。 キム・ジヨンは、サンクトペテルブルクのワガノワ ・ バレエ ・ アカデミー卒業後、韓国国立バレエ団のプリンシパルとして入団し、 一時オランダ国立バレエ(Het Nationale Ballet)で踊っていましたが、 2002年から韓国国立バレエ団のプリンシパルに復帰したというベテランです。

アダージョは、しっとりとした情感をこめた踊りで見ごたえがありました。 このアダージョ、アチチュードやアラベスクのバランスといったポーズや高く挙げられたリフトなど難しい場面が多く、 緊張してコチコチになっているダンサーも多々見かけますが、キム・ジヨンもアダージョの最初はかなり緊張しているようでした。 冒頭のアラベスクの口付けの部分はぎこちなく、アチチュードのプロムナードにに続くアラベスクパンシェではイ・ドンフンに支えられたキム・ジヨンの右腕がギクギクしてやや不安定。 でも頑張って180度近くまで左脚を挙げて、美しいポーズを決めました。 これで気を良くしてか、腰を高々と頭上に挙げられて背中を反らす独特の場面では、折れるのではないかと思われるほど腰を曲げた華麗なポーズで拍手を誘いました。 この後再び男性の手につかまりアチチュードしてからのアラベスク・パンシェ。今回も支えの腕がギクギク揺れて危うかったものの必死に堪えて、 左足を180度近くまで高く挙げてバランスをグッと堪えて頑張った姿に感動。 パートナーのイ・ドンフンは、快調なキム・ジヨンにおされ気味でしたが、最後のリフトでは、渾身の力を振り絞ってキム・ジヨンを頭上に高々と持ち上げました。 腰をかがめて、キム・ジヨンの腰と腿を掴んでグイッと上げ、必死にふらつく足元をふんばって、ゆっくりと上手に消えていきました。 レヴェランスではキム・ジヨンと顔を見合わせて、お互い労わりあっている表情が素敵でした。

女性のヴァリエーションには、たくさんの種類の音楽が使われていて、どの踊りが踊られるか楽しみで、見せ場のひとつです。 これらは、「メドーラ」、「パキータ」、「バヤデール」のガムゼッティ、「ドン・キホーテ」の森の女王の踊りのうちのひとつが殆どです。 いずれも、華やかなヴァリエーションで、コンクールや発表会で定番になっています。 このバレエコンサートは、メドーラのヴァリエーションが踊られています。 前半はキム・ジヨンのしっとりした女らしさにうっとり。片足のつま先を軸足の膝に付けてバランスを取るルティレがこのうえなく美しい。 このポーズをこんなに繊細で正確にできる人は珍しい。後半の高速のシェネを終えての両足のトゥで立ってのフィニッシュでは、 少し乱れたトゥの先を歯を食いしばって必死に堪えた姿に感動。 背中にはうっすらと汗がにじんで、ほっとした表情がこの上なく美しかった。

そしてコーダ。難関のグランフェッテ・アントゥールナンではキム・ジヨンの表情は真剣そのもの。笑顔を忘れて必死に回っていました。 前半は観客の手拍子に合わせてダブルを入れて軽快に回っていましたが、後半軸足がずれてきて辛そうでハラハラしたけれど、懸命に回る姿は本当に美しい。 フィニッシュで僅かにトゥが乱れて危うかったけれど懸命に堪えて回りきり、破綻なく無事終了。観客のブラボーの叫びに満面の笑みでした。 そして高速のシェネで舞台を駆け回り、最後は高々とリフトされて終了。ハアハアと肩で息をして、首筋には汗が光っていました。 42歳定年のパリオペラ座に見られるように、若さの芸術と言われるバレエ。キム・ジヨンは1978年生まれだそうなので、そろそろ肉体的に厳しくなってくる年代でしょうが、体力的な辛さを乗り越えて懸命に頑張る姿に感動でした。
このバレエ「海賊」〜パ・ド・ドゥのメドーラのコスチュームは、薄いレースドレスの場合とクラシックチュチュの場合があり、全幕の上演ではレースドレスの方が多いようです。 ただ、バレエコンサートではクラシックチュチュで踊って欲しい。 レースドレスは脚が見えにくいのでミスを誤魔化せるでしょうが、コーダのグランフェッテでは、裾がまつわりついていかにも踊りにくそうで頂けない。 一方、クラシックチュチュは脚が丸見えなので踊る方はミスの誤魔化しがきかなくて大変だけど、見る方は美しい脚の動きを堪能できて楽しい。 今回のキム・ジヨンの衣装は、真横に張り出した丈の短いスカートのクラシックチュチュ。 キム・ジョンによく似合っています。 プロポーション抜群で、かつ優雅で品がよいキム・ジヨンだからこそ、これを見事に着こなせたのでしょう。 韓国国立バレエ団には、キム・リフェ(Li-hoe Kim)、パク・スルギ、(Seul-ki Park<)、イ・ウンウォン(Eun-won Lee)といった若いプリンシパルが育ってきています。 弱肉強食のバレリーナの世界で追われる立場の大御所キム・ジヨンですが、 長い脚の優れたプロポーションを武器に、上品で優雅な踊りに磨きをかけて、これからも第一線で活躍して欲しいものです。

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