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瀕死の白鳥:渡邊順子 2006   (2006.11.11)
  蘇った「黄金の甲」のライン、芸術品の輝き

注)JUNさんの踊りの感想です。JUNさんのお許しを得て掲載させて頂きました。無断で複写複製を禁じます。
「アラベスクもアチチードも決めれなくて、見るからに下手な踊りだったのです」。 2005年6月の八王子での「瀕死の白鳥」のあと、JUNさんこと渡邊順子さんは、相当落ち込んでいました。 衣装も新調し、トゥシューズも変えて、意気込んで臨んだのに、不本意に終わったステージ。「瀕死の白鳥」の舞台11回目目にして初めて味わった屈辱でした。
「二度と、こんな惨めな気持ちを味わいたくない」、彼女は死にものぐるいでレッスンに励みました。そして1ヶ月、失意の白鳥は蘇りました。演奏を替え、振付を替えて・・・・。 踊り終わった、彼女の表情は晴れやかでした。
でも、彼女の右脚は大きなダメージを受けていました。 「瀕死の白鳥」は、ほとんど全編をトゥで立って踊ります。トゥを使っての連日の練習は、足首に過度の負担を強いていました。 右足には激痛が走り、彼女は、トゥシューズで立つことはおろか、バレエシューズを履くことすらできなくなってしまったのです。
右脚はJUNさんの利き足。脚の負傷はダンサーの命取りにもなりかねません。 辛抱強く、彼女は治療に専念しました。そして、一年間、彼女は舞台に立ちませんでした。
 
先日、JUNさんから二つの「瀕死の白鳥」のDVDが届きました。 一つは、9月17日の関内ホール、もう一つは10月10日のよこすか芸術劇場のものです。 彼女は、一年間のブランクの後、トゥシューズを履いて舞台に立ちました。 この再起の舞台、私はこの二日とも見に行けませんでしたが、彼女がDVDを送ってくれたのです。
今回は、二つとも、本田美奈子さんの歌を伴奏に使っていますが、この二つの踊りは対照的です。 まず衣装は、関内ホールの方はロマンティックチュチュのような丈の長い衣装、よこすか芸術劇場の方は足の動きがよくわかる短いクラシックチュチュ。 初めの方はJUNさん自身の振付。ゆったりとしたバランス重視の踊りです。 後の方は故メッセレル女史の振付を基本にしたもの。オーソドックスな細やかなブーレと繊細な指先の動きが特徴です。
初めの舞台で、JUNさんはバランスの限界に挑戦しました。 右足で支え、左足をアチチュードにあげて、今にも前方へつんのめりそうになるまで、体を前方へ倒していきます。 右足元がギクギクし、体も大きく揺れましたが、JUNさん、必死に堪えて10秒近くも持ちこたえました。立派です。 可愛らしいダンサーが歯を食いしばって、ギリギリまで頑張ったバランス。まさに「瞬間の美」、思わず拍手を誘われました。 

一方、二つめの舞台。 短いクラシックチュチュから覗く美しい脚は魅力的でした。それに、腕と指の使い方が丁寧でうっとりでした。故メッセレル女史の教えを忠実に守っていたのでしょう。 美しい甲は、神から与えられたJUNさんの宝物。トゥで立った「黄金の甲」は健在でした。ゆるやかなカーブを描く美しい甲のライン、まさに「芸術品の輝き」です。 このステージ、今までになく表現力豊かで魅力的でした。それに何より、昨年にも増して、健康的な「お色気」を感じました。 練習を再開したとき「体重を落とすことから頑張らなければなりません。」と言っていた彼女。 厳しい訓練に耐えて引き締まった肢体は、かといってギスギスした感じではなく、むしろ、ふんわりとそれも全身から自然に滲み出たような、ふくよかで健康的な「お色気」を醸し出していました。 色気抜きのクラシックバレエで、ほのかに感じられた「バレリーナの色気」、彼女のダンサーとしての精神的肉体的な円熟度の高まりを示すものでしょう。 ラストの白鳥が死に至る場面、背中には汗が光っていました。精魂込めて踊った証でしょう、ジーンときました。 JUNさんご自身も手応えを感じたようで「一皮むけて、キラキラ輝いてきた」と言っておられます。踊り終わって、彼女の表情は晴れやかでした。「最後のレベランスは膝をつきお客様に目線を合わせる。客席の方と一緒に呼吸を合わせる。私流の礼儀。本当に自分の命を刻み踊りましたと報告するような気持ちでお辞儀する。」 JUNさんは、ご自分のHPにこう書いています。
このとき、客席から「ブラボー!!」の叫び。「瀕死の白鳥」は地味な踊りですから、拍手はあっても、通常「ブラボー!!」の声がかかることはありません。 「瀕死」を踊ったら世界一のと言われるダンサーのステージでも、日本の有名なダンサーが踊った「瀕死」のステージでも、拍手だけでした。 でも、今回は「ブラボー!!」の声。その人は、きっと、「自分の命を刻んで」踊るJUNさんに、心から感動して、思わず、叫んでしまったのだと思います。
 
JUNさんのステージには、毎回、新しい発見があります。この二つの「瀕死の白鳥」、どちらもとても魅力的ですが、やはり、JUNさんの「黄金の甲」には、クラシックチュチュが似合います。 でも、初めのステージで見せた、バランスの限界への挑戦は見応えがあり、今回の新たな発見でした。二つの異なった「瀕死」を踊り抜いたJUNさん。 さぞ自信がついたことでしょう。この自信をバネに、JUNさんの踊りは、一層磨きがかかっていくことでしょう。
「来年もまた新鮮な光りを放つ『瀕死の白鳥』を踊ります」と彼女。期待に胸がふくらみます。  


この感想をHPに載せるにあたり、JUNさんから以下のメッセージを頂きました。 掲載させて頂きます。
今年の私は舞台に立つのが嫌でした。 できることなら踊りたくない。そう思った時期もありました。 まったく稽古もせず6ヶ月間、椅子に座ってのバレエの教え。6月の末からクラスレッスンに週1回、通いはじめました。 体重は53キロ。この体重を落とすことから頑張らなければなりません。 トゥシューズを履いたのが8月。 本当に舞台に立って踊れるのだろうか。
9月の舞台は「孤独の歳月」「白鳥」で1作品のような振り付けにしました。 振り付けの内容は<踊っている最中に足を怪我し踊れなくなったバレリーナが赤い靴を握り締めもう一度踊ろうと決意する物語> そして本田美奈子さんの「白鳥」の曲に合わせて怪我したバレリーナが白鳥となり天界に飛び立っていく物語。
10月の「瀕死」は9月のときよりも一皮むけて、天界に近づき今までとは違う光りがキラキラ輝いてきた「瀕死」だったと思います。 来年もまた新鮮な光りを放つ「瀕死の白鳥」を踊りますので、いつまでも私の「瀕死」を見続けてください。
山口さん、私が踊り続ける限り舞台感想を書き綴ってくださいね。
JUNバレエスクール 渡邉順子
注)JUNさんの踊りの感想です。JUNさんのお許しを得て掲載させて頂きました。無断で複写複製を禁じます。


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