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瀕死の白鳥:渡邉順子、2007年4月神奈川県民ホール   (2007.4.26)
「美しい日本の香り」、溢れる気品、陶酔の4分間

注)渡邊順子さんの踊りの感想です。渡邊さんのお許しを得て掲載させて頂きました。無断で複写複製を禁じます。

JUNさんこと渡邉順子さんが、今年二度目の「瀕死の白鳥」を踊りました。今回は神奈川県民ホールです。本番を控えた数日前、順子さんから次のメールを頂きました。「毎回、勉強して勉強して、この作品を踊っていますから、踊る深みと言うのが初めの頃とは違ってきたと思います。『美しい日本の香り』それが今回の私の瀕死のテーマでしょうか。『瀕死の白鳥』は、最初から最後まで、自分だけが頼り。この踊りで本当に自分に強くなれました。2月に踊った時とはまた違う気分で、大きく深呼吸して踊りたいと思います。
これを読んで、私は彼女の今回の舞台にかける意気込みを感じました。 4分間集中して「瀕死の白鳥」を踊り続けるのは大変なことです。「瀕死の白鳥」は、たった一人の踊り。これほどダンサーが神経をすり減らすバレエは他にないでしょう。トゥで立ちっぱなしの上に、初めから終わりまで、一時も気を抜けない。わずかな気のゆるみが命取りになる・・・、本当に、難しい作品だと思います。パ・ド・ドゥでは、女性は、精神面、肉体面とも、男性を頼りにできますが、「瀕死の白鳥」は、最初から最後まで頼れる人はいない。信じるのは自分だけ。ダンサーに極度の緊張を強いる過酷な作品だと思います。でも、渡邊順子は、今回も最高の舞台を作りました。「瀕死の白鳥」を踊る人は少なくないけれど、心に染みいる真の「瀕死の白鳥」を踊れる人は、渡邊順子を置いてほかに居ないと思わせた見事な踊りでした。
渡邊順子さん、出だしは、かなり固くなっていたように感じました。後ろ向きで登場したブーレは何となくぎこちなく見えましたし、振り向いた表情は強ばっていました。出を待つ足は震えが止まらなかったのでは・・・と思わせたほどでした。初めての神奈川県民ホール、無理もないと思います。でも3度のアラベスクを決めて安心したのか、にわかに表情が穏やかになりました。 踊り進むにつれ、みるみる自信に満ちた表情に変わってきて、最後力尽きて横たわる時は、何とも穏やかな美しい表情でした。
「今回の『瀕死の白鳥』で初めて歓喜の死を味わいことができました。」と順子さん。 大きく波打つ胸、汗が滲みキラキラ輝いていた背中・・・・、彼女の心臓の鼓動が聞こえるよう・・・。胸がジーンと熱くなりました。
今回の舞台、順子さんご自身、役にのめり込み、死に至る白鳥そのものになったようでした。「役にのめり込む」ことが出来たのは、彼女の一層の成長の証だと思います。自信がついたからこそ、役にのめり込むことできたのでしょう。言葉どおりの無我之境(精神が1ヵ所に集中されて自らを忘れる境地)。本当に陶酔の4分間でした。
 
今回の「瀕死」、順子さん、特にアームスに注意をはらっているようでした。指先一本にまで神経を使った繊細な動き、波打つ腕は骨がないかのようにしなやかでした。 このアームスへのこだわりは、白鳥に「気品」を与えました。全身からほとばしり出る品の良さ。今回の彼女の大きな収穫の一つでしょう。それに表情の美しさ。。はじめ固かったけれど、踊り進むにつれ、「出来のよさ」を確信したのでしょう、実に穏やかな表情に変わりました。幾分憂いを帯びた、なんとも言えない美しい表情なのです。こんなに穏やかな「死に至る白鳥」を見たのは初めてです。彼女が「美しい日本を思わせる白鳥」とは、このことだったのかと分かりました。 心を研ぎ澄まして、身を磨り減らして踊り抜いた4分間。レベランスでの彼女、性根尽き果てて、大きく肩で息をしながらも、美しい瞳は潤んでいました。
渡邊順子の踊りを見たとき、いつも、「最高の踊りだった。これが渡邊順子のピークだ」と感じるのですが、その次の舞台では、これを凌ぐさらに素敵な踊りを踊るから凄い。この陰には、血の滲む厳しい稽古と心の鍛錬があるのでしょう。渡邊順子の「瀕死の白鳥」は、もう一度見たいと思わせる、彼女自身の良さを生かした、宝石のように美しい、素敵な「瀕死の白鳥」だと思います。 その上今回は、今までにない「色気」が加わった。美しく伸びた肢体から、ほのかに漂う大人の「色気」、思わず、ゴクッと生唾を飲み込んだ新鮮な驚きでした。 色気はタブーとも言われているクラシックバレエで、はからずも感じた「健康的なお色け」」。少しのいやらしさもなく、スケートの浅田真央にはなく荒川静香に見られたような、しなやかな女性の魅力です。 これは、渡邊順子が円熟の域に入った証拠でしょう。妻として、母として、ダンサーとして、満ち足りているからなに違いありません。全く正反対とも言える「気品」と「色気」を併せて身につけ、演技に幅が出てきた渡邊順子。 年齢を重ねるにつれ、「気品」と「色気」は一層深みを増し、彼女の最大の武器になることでしょう。 大切に育てて欲しいものです。

全力を出しきり、また一歩前進した渡邊順子。「若さの芸術」と言われるバレエ。 ダンサーの年齢からは、体力的なピークは過ぎようとしていても、衰えを知らぬ精神力。白鳥の「気品」に大人の「色気」・・・、彼女の進歩は留まることを知りません。





渡邊順子「瀕死の白鳥」
2007年4月22日、神奈川県民ホール・大ホール





撮影:ダンス・スクエア 鈴木紳司氏

この感想をHPに載せるにあたり、JUNさんから以下のメッセージを頂きました。 掲載させて頂きます。

今年の2月に目黒パーシモンホールで15回目の「瀕死の白鳥」を踊り終え、 ゆっくり家族で花見を楽しみました。 バレエは教えても自分はバレエの稽古から少し離れた生活をしていました。 「一日休むと自分に分かり、二日休むと周りに分かり、三日休むとお客様にも分かる」と言う 有名な言葉が身にしみて分かった思いもしました。

舞台の当日も朝から家族の朝食を作り、昼食も一緒に食べ、「出かけてくるわ〜〜〜」とお母さんモード。 楽屋で化粧して衣装に着替え、スクエアの鈴木さんに「瀕死の白鳥」の振り付けを変ったこと、 トゥシューズの紐つけに3時間という時間を費やしたこと、よこすか芸術劇場(2004年)に踊った時には グリシコ・マヤで今回の舞台はグリシコ・ワガノワで踊る、トゥシューズについての違いなどを話していた。
袖幕で出番を待つ。 近頃、60歳ごろまで「瀕死の白鳥」を踊り続けたマイヤ・プリセツカヤの気持ちが少し分かってきた。 絶対に自己満足のために踊っているのではない。
舞台に立ち、ふと3階席を見上げたらそこには観客が座っていた。 (あとでそれが主人と娘だと分かったが) その時の私は「3階席で見る人もいるのね〜〜」と踊っていても余裕があった。
16回目の「瀕死の白鳥」を踊り終え。 今年は8月に仙台で踊るぞ〜〜〜。 来年の2月はまた目黒で踊って、4月は神奈川県民ホールだな〜〜〜。
体中の力が抜けて、生きることも、踊ることも凄く楽になった。
41歳。渡邉順子。まだまだ踊ります。 ここまでたどり着くハードルは低いものではなかったと思う。 でもそのハードを超えた時、青い青い空が綺麗だと思えるものだと思う。

JUNバレエスクール  渡邉順子
    
死に至る白鳥を演じる渡邉順子の表情。汗が光る背中、彼女の心臓の鼓動と息づかいが聞こえるよう。(撮影:新井氏)

注)渡邊順子さんの踊りの感想です。渡邊さんのお許しを得て掲載させて頂きました。無断で複写複製を禁じます。

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