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JUNさんの「瀕死の白鳥」     (2002.3.19)

注)JUNさんの踊りの感想です。JUNさんのお許しを得て掲載させて頂きました。


淡いライトの中に、背中を向けて一羽の白鳥が浮かび上がります。しかし、白鳥はしだいに動けなくなり、うずくまってしまう・・・。必死に立ち上がろうとするのですが、ついに力つきてしまいます・・・・
 
丁寧にまた正確に刻むブーレ、しなやかに波打つ腕。
それは、夢を見ているよう・・・・、それはそれは、素晴らしい踊りでした。
JUNさんが、心を込めて踊った「瀕死の白鳥」。私は、うっとりと見入っていました。
 
昨年、JUNさんからご自身の「瀕死」のビデオを見せて頂き、それ以前に見た「瀕死の白鳥」にはない驚きを覚えました。
でも、今回の「生」のステージは、その何倍もの驚きと感動でした。
JUNさんは、「瀕死」を、とても丁寧に、情感をこめて踊って下さいました。
神経の行き届いた指先の動き、波打つ腕のしなやかさ、細やかなブーレ・・・ 、どれをとっても、言葉に言いあらわせないくらい美しい。
”死に至る白鳥”そのもの、といっても、言い過ぎではないと思います。
 
著名なバレリーナ、プリッセッカヤ、マカロア、モイセーエフ・・・・。かつて、これらの「瀕死・・」を観ました。それぞれ、とても素敵です・・・ 。
でもJUNさんの「瀕死・・」は、これらよりはるかに新鮮な驚きと感動を、私に与えてくれたのでした。
 
JUNさんの「決め」ポーズはとりわけ美しいものがあります。
JUNさんは『私も今日、ず〜と「アチィテュード」でとまっていたかった。 時間がとまってほしいほど、止まっていたかった。』と言っておられました。
そう、彼女は、今回、特に「決め」に注意を払っておられたようです。
『踊りの中で今回、挑戦した事は、一つ一つ止まる。流れる様に踊ると言うのではなく、ポーズを決める。流れの中に、止まる一瞬をつくり出す。わざと止めるのではなく、自然の流れの中で止める。』ということなのです。
 
この言葉を聞いて、ふとシルヴィギエムが言った、『クラシックバレエはバランス!!』という言葉を思い出しました。
時間が止まったようなハッとするアチィテュードのバランスの美しさ!!。クラシックバレエの最高の「美」であり「華」です。
JUNさんは、このクラシックバレエの基本を忠実に守りぬき、それを美しく開花させたのです。彼女の「瀕死」の新鮮な魅力は、こんなところから生まれたのでしょう。
 
JUNさんご自身、「去年の瀕死よりは今年の瀕死の方が、良かったと思う。 でも来年また瀕死を踊ったら来年の方が、いいかもしれない。瀕死を踊るチャンスがあったら踊り続けたい。」と言っておられましたし、
踊り終わってのレヴェランスでは、「ただただ、お客さまを見るよりも、踊り終わった余韻の中でお辞儀をしていました。」と、大きな拍手の中に、何度も何度も、頭を下げておられた姿が印象に残りました。ご自分でも納得のいく踊りだったに違いありません。
「一瞬の輝き」を求めて、毎日精進を続けてきたバレリーナ。ベストを尽くして、それが開花し、ホッとして歓びにし浸るバレリーナの姿・・・・
こんなバレリーナを観るとき、観客の自分も歓びを共有できたように思い、嬉しく感じるのです。
あらためて「バレエって、なんて素敵なんだろう!!!」と感じる瞬間です。
バレエを観る楽しみは尽きません。

JUNさんは、今回の「瀕死」についての想いは、並々ならぬものがあったようです。
次のようなメッセージを送ってくださいました。
 
どんな言葉を綴ればいいでしょう。
  
何度 踊っても、私にとって「瀕死の白鳥」は奥の深い作品です。
去年の白鳥と今年の白鳥の違いは、まずクラッシュク的な髪の結び方。昔ながらの髪の結び方ではなく、ごく普通のおだんごにして髪を結びました。 古いという形ではなく、今を生きる白鳥のイメージです。
 
次に、爪には付けず爪をしました。少し、オシャレをして舞台に立つと言う気分をつくる事と、白鳥に少しでも見れる様に、爪を白鳥の羽根にイメージしたからです。
 
トゥシューズにしても最後まで悩みました。 甲が美しく見えるグリシコを履くか、いつも履いているフリードを履くか。
リハーサルはグリシコを履きました。パドブレが滑らかに踏む事ができ、気持ちが良かったです。
でも全体的な踊れを考えると、柔らかさを出すためには、ふだん履いているフリードを履く事にしました。 つけまつげも2つ買いましたが、安いつけまつげの方が目もとによく合い、つけまつげにはお金をかけない方がいい事を知りました。
 
踊りの中で今回、挑戦した事は、一つ一つ止まる。 流れる様に踊ると言うのではなく、ポーズを決める。流れの中に、止まる一瞬をつくり出す。 わざと止めるのではなく、自然の流れの中で止める。
 
しかし、残念な事に、今回の瀕死は自分の中で死にきれなかった。
娘は私の踊りを観て「早く死んだ」と言いましたが、最後にもーー少し余裕をもって死にたかった。
 
まだまだ 私にとって 完璧な瀕死ではないけれど、去年よりも新鮮な瀕死であった事は確かです。
教師として、母として、踊り込んだ今年の瀕死は、次に私が何をしなければならないかを教えてくれました。
別の踊りも踊りながら「瀕死」を踊り続ける。
別の踊りを踊った事で「瀕死」の成長があると思います。それで次ぎに私が選んだ演目は「ジフシー」。 ジフシーを踊った後に「瀕死」を踊ったら、また新しい発想が浮かんでくると思います。
 
私は時代と共に成長していく瀕死を踊っていきたいです。
これからも私の瀕死を観続けていただければ幸いです。
私は「瀕死の白鳥」をこよなく愛しています。
瀕死と言う作品に出会えた私は幸せなバレリーナだと思います。

以上がJUNさんから頂いたメッセージです。 彼女がどんなに「瀕死の白鳥」を愛し、大切にしているかがわかります。 JUNさんのHPに、彼女が今回の「瀕死」に挑んだ時の気持ちが載っています。
『楽屋で化粧して、舞台そででレッスンをして、舞台のリノリュームの上に腰をおろして、開演前の客席を眺めた。
舞台前に、ひとりでアラベスクのバランスを確かめる。
誰も私の瀕死を見て指導してくれる人はいない。頼るのは自分。 そして長年踊ってきた瀕死と言う振り付けだけが 私を支える。音楽を聞けば体が踊り出す。 自分に強くならなければ踊れない。舞台の上では誰も助けてくれない。
舞台に立って思った。私は舞台に立って踊る事が好きなんだと。だから踊り続けたい。 舞台と言う空間の中で。』

JUNさん、いつまでも「瀕死の白鳥」を踊り続けてください!!!。



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