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DVD「輝く水香のいま」     (2003.4.13)
 (上野水香 ロメオとジュリエットを踊る)

  「輝く水香のいま」というDVDが発売になりました。2003年2月に行われた牧阿佐美バレエ団公演「ロメオとジュリエット」の舞台の合間に彼女や振付師等のインタビューを交え、全体で54分としたものです。このDVD、「水香ファン」には喜ばれるかもしれませんが、私はかなり期待していただけに、チョット?という感じでした。
 
2月の「ロメオとジュリエット」のステージは若手のホープ・上野水香のジュリエット挑戦ということで評判になったのですが、せっかくの舞台が十分に収録されていないのです。インタビューなどが多すぎ、全体の構成が、中途半端になってしまっています。このDVD「上野水香ロメオとジュリエットを踊る」と副題がついている以上、もっと舞台の映像を重視すべきだったでしょう。バレエはストーリーと踊りと音楽が融合した総合芸術です。これを短い踊りのシーンとインタビューの繰り返しでは、せっかくの舞台の流れがとまってしまいます。テレビのドキュメンタリーでしたらこのような構成でよいと思いますが、バレエの舞台映像のDVDとして販売する以上、バレエの流れ重視すべきだと思います。特に、この「ロメオとジュリエット」は、「シンデレラ」と同様、バレエのストーリーは、綿密に練られたプロコフィエフのオーケストレーションに支えられています。それを、ズタズタに切ったのでは音楽も台無しです。インタビューは、バレエの流れを壊さないように、最初と、幕間と、終わりだけに、すべきだったと思います。同種のものに、アメリカンバレエシアターの「海賊」の映像がありますが、バレエ全編の中に、主役たちの話が上手に挿入されていて楽しめました。
 
このようにDVDの構成には不満なのですが、ふだん見られないリハーサル・シーンや、上野水香さんの話は結構楽しめました。ただ、水香さんのジュリエットには、なんとなく「これが、ジュリエット?」と、首をかしげたくなるようなところがありました。出だしは少女らしく可愛いらしく輝いていますが、バルコニーのパ・ド・ドゥなどロメオと恋に落ちるあたりの表現は、まだ役を十分に自分のものにしきれていないといった感じがしました。彼女の個性とテクニックが前面に出てしまった踊り、というところが感じられました。「ジュリエット」で忘れられないのが、マーゴ・フォンティーンや森下洋子さんですが、この映像の上野水香さんからは、この時の感動は味わえませんでした。 彼女はインタビューで「ドラマが伝わるように踊りたい」と言っていましたが、これにはもう少し時間がかかりそうに思いました。 ぜひ、もう一度彼女のジュリエットを観てみたいと思います。
 
これに引きかえロメオ役の森田健太郎さんは素晴らしい。役をしっかりつかんでいるというか、ジュリエットに対する情熱をうまく表していたし、バルコニーのパ・ド・ドゥなど、派手ではないけれど、とても情感たっぷりでよかったと思います。 森田健太郎さんが、ある雑誌のインタビューで、「女性が不安定になったとき、僕がさっと出て助けてあげたい」と言っていましたが、この気持ちこそ、バレエの女性のサポーターとして最も大切なことだと思いますが、今回のパートナー、上野水香さんに対しても、この気持ちが感じられました。
 
特筆すべきは舞台映像と音の美しさです。おそらく私が持っているバレエの映像の中でも、一二のものでしょう。それだからこそ、細かく切られたストーリーが残念です。ぜひ、全編を収録したDVDを販売して欲しいものです。

「輝く水香のいま」(上野水香ロメオとジュリエットを踊る)(新書館)
 上野水香(ジュリエット)、森田健太郎(ロメオ)、牧阿佐美バレエ団
 2003年2月8日、東京・簡易保険ホール

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