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日本バレエ協会関西支部「眠りの森の美女」   (2002.9.23)
<若きダンサー達の二夜の競演に感激>

社団法人日本バレエ協会関西支部は、現代クラシックバレエ発祥の処、ロシア・サンクト・ぺテルブルクのマリインスキー劇場とワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミーと提携して、大阪フェスティバルホール毎年「バレエ芸術劇場」を開催しています。1999年1月の第26回公演では、1月28,29日の二夜にわたり「眠りの森の美女」が上演されました。この二夜の公演の記録のDVDがあります。 
 
この「眠り・・・」プロローグ+3幕の完全全曲版なのです。「眠り・・・」は長大なため、完全全曲の上演は少ないのです。東京バレエ団などは、第二幕の大部分をカットした演出です。ノーカットの完全全曲版を堪能させてもらえたのは本当に嬉しいことです。 それに、松山バレエ団の「眠り・・・」などは豪華絢爛で鼻につくところがあるのですが、これは必要十分な舞台の装飾という感じで、とても親しみが沸きました。
                           
この公演の出演者は、初々しく素敵な関西の若手ダンサー達です。この公演は特定のバレエ団によるものではなく、関西のいろいろなバレエ研究所から集まったダンサー達が協力して演じたものです。従って、二夜、ソリスト達の多くは異なっていて、それぞれを比較して観るのも楽しいものです。 このように多くのダンサーが集まって行う公演では、ダンサーの技量も違うし、練習時間も限られます。それなのに、この映像での、ダンサー達の踊りは素敵ですし、まとまりの上でも大バレエ団のものに引けをとらない素晴らしいものです。これにはダンサーもスタッフも大変な苦労があったと思います。
 
プロローグが終わって第1幕。いよいよ、オーロラ姫の登場です。この場面は、いつもわくわくします。 オーロラ姫は、一日目は堀川美和、二日目は楠本理恵子。二人ともスラッとして若く美しい魅力的なバレリーナです。 キビキビとして可愛らしい中に現代的な踊りの堀川美和、しなやかで叙情的で優しさを感じさせる楠本理恵子。二人の踊りは対照的で、とても見ごたえがありました。
堀川美和は、「眠り」全幕は初めての経験なのでしょう。初めのうちはかなり緊張しているようでした。 出だしのソロでは時折笑みも浮かべんでいましたが、「ローズアダージョ」のバランスにさしかかると一転表情が厳しくなりました。 優雅に見えながら一瞬たりとも緊張の糸を緩めることができないこの場面。真剣そのもの、必死に難しいバランスに挑んでいました。 支えの王子の手を握り締めた腕がグラグラ揺れて「大丈夫かな?、うまく立てるかな?」と心許なくハラハラしましたが、意を決してアンオーまで腕をあげて必死にバランスをとり、思わず笑みがこぼれたのを見て「アッ、立てた!。良かった!。」と感動しました。 ただ、せっかく思い切って高く手を上げたのに大急ぎでハッシと手を下ろして掴まってしまったのは残念。 手を挙げきったところでグッと堪えてもう少し優雅にバランスを維持して欲しかった。 ローズアダージョ後半のプロムナードでは、3人目の王子に支えられてぐるっと一回転し手を離したとたんグラリ。 あわや転倒とハッとしたものの即座に4人目の王子の手をギュッと握りしめて懸命に体を立て直しました。 歯を食いしばって懸命に難しい技に挑むダンサーの姿、本当に美しく、思わず「頑張れ!!」と言いたくなりましたが、やはりこの部分は満足な出来とは言えません。 見た目も危なっかしくて、終わるとドッと疲れる。もっと長くバランスを保てるよう、もっともっと稽古を重ねてほしいものです。 終盤近くになると、堀川美和の胸も背中もきらきらと汗が光っていました。これほど汗にまみれた舞姫を観たことがありません。 それほどまでに彼女は緊張していたのでしょう。それだけに、踊り終えてほっとした彼女の笑顔が素敵でした。 一方、二日目の楠本理恵子は、とても落ち着いて、終始笑みを絶やさずに踊り抜きました。 バランスをとるだけで精一杯で、支えの王子の手から目を離せない人も多いけれど、最初のバランスも、プロムナードを伴う終盤のバランスも、サポートの王子を見ず観客に視線を向けていたのは偉いと思います。 ただアンオーまで手を上げてバランスを崩して破綻・・・を恐れたのか、王子の手を離してバランスをとった時、腕を肩までしか上げなかったのには不満。 いかにも手抜きをしたようで中途半端。 恐怖にもめげずアンオーまで腕をあげて、懸命に至難なバランスに挑んだ堀川美和の努力を褒めたい。 ロシアのバレリーナにこんな踊りをする人が多いようですが、リスク回避のようで好きになれません。




そんなわけで、少なくとも「ローズアダージョ」では、何が何でも難しいテクを見せつけようと頑張るのは筋が違うけれど、腕を真上まで上げなくて物足りなさを感じた楠本理恵子に比べて、 今にも崩れそうな心許なさがあったものの、アンオーまでしっかりと手を上げて汗びっしょりになって果敢に難しい技に挑戦した堀川美和の努力に拍手を送りたいと思います。
 
第二幕「幻想の場」では、堀川美和の懸命に踊る姿に感動です。特にヴァリエーション。見せ場のグラン・バットマンは優雅だったし、ラストの高回転のシェネもピタリと決めました。 途中から、胸も額も、流れ落ちる汗でキラキラ輝いていました。 これほど汗まみれの舞姫は見たことがありません。おそらく、体力的にも精神的にもギリギリだったのでしょう。限界まで頑張っている舞姫の姿は、本当に美しい。 一方、楠本理恵子も美しい踊りでしたが、そつなく、うまくまとめたという感じで、あまり印象に残りませんでした。
一転、第三幕「グラン・パドドゥ」では、楠本理恵子と王子役の水野英俊のパートナーシップの素晴らしさが光ります。 堀川美和と福岡豊のペアも決して悪くはないのですが、楠本・水野のペアに比べると、ほんの少しお互いの気合いにぎこちなさが感じられるところがありました。 福岡豊に支えられて回るプロムナードでは堀川美和の腕がギクギク揺れていたし、アラベスク・パンシェに移るところでグラッとなって支えの手をギュッと握りしめ、ハッとしました。 このぎこちなさは二人の課題かもしれません。堀川美和は、ローズアダージョの時に比べると、ずっとリラックスしているようで、時折笑顔も見せていましたが、やはり緊張していたのでしょう、 パドドゥの終わり近くでは、やはり胸や背中に汗が光っていました。胸がじーんと熱くなります。汗びっしょりになって必死に頑張った堀川美和に、心からご苦労様と言って上げたい。 楠本理恵子は、ほっそりとしたシルエットがとても美しく、痩せすぎ??と思うくらいスリムなせいか、少し弱々しく感じたところもありましたが、かといってギスギスした感じではなく、とてもしなやかで、気品に溢れ、オーロラ姫のイメージにぴったりでした。 水野英俊は、サポートがとても丁寧で、デリケートに、しかもしっかりと楠本理恵子を支え、楠本理恵子も安心しきったようで微笑ましさが感じられます。 ローズアダージョにせよ、幻想のシーンにせよ、パドドゥにせよ、楠本理恵子、腕の動きがとてもしなやかで魅力的でした。また、体もとても柔らかなようで、アラベスク・パンシェでは180度近くまでも脚を上げて静止。 ここまで上げると(シルヴィ・ギエムのように)下品に感じる人もいるのですが、楠本理恵子は上品で、とても気持がよいのです。内から自然ににじみ出る気品なのでしょう。


「青い鳥のパドドゥ」のフロリナ王女は、一日目が田中小百合、二日目が山下麻耶。 ほっそりとして優しく上品な感じの田中小百合の踊りは優雅で良かったし、幾分ふっくらとして笑顔の可愛い山下麻耶もとても魅力的です。 どちらも素敵ですが、強いて言えば、山下麻耶の180度を超えるアラベスクや高いジャンプのテクニックと、波打つアームスに代表される体の柔らかさが印象に残っています。 「白鳥の湖」なら、田中小百合がオデット、山下麻耶がオディールに似合いそうな気がします。 リラの精は、一日目が真忠久美子、二日目が麻生川薫。個人的には真忠さんの優しさに魅力を感じます。
 
この公演、一日目も二日目も、ダンサー一人一人が、一生懸命に演じている気持ちが伝わってきて、見終わったとき、とても爽やかな、いい気持ちになれました。 大バレエ団による公演のような、豪華さはありませんが、よくまとまっていてとても良かった。小さな公演には時としてキラッとした輝きを見いだすものです。 この公演は、守山俊吾氏指揮関西フィルハーモニー管弦楽団の演奏も、小編成ながら、なかなか見事な演奏でした。 最近の生のバレエの演奏は、オーケストラが音を外すようなひどいものが多いだけに、こんないい演奏は出色です。
 
最後にこのDVDは、映像がとても美しいのです。市販の映像やBS等の放送の映像と比べても少しもひけをとらず、むしろ良いくらいなのです。 ダンサー達の美しい踊りを十分楽しめます。カメラマンや編集者の技術の成果でしょう。 この映像は、関西のビデオ制作会社によるものですが、おそらく相当優秀な集団なのだと思います。これからも素敵な映像を期待します。
ただ、あまりに鮮明なので、ミスもよく分かってしまい、出演者にはかえって恐怖かもしれません。
ともあれ、この二つのDVD、私の大切な宝物として大切にしていきたいと思います。

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