年末近くなると、「第九」の演奏会と「くるみ割り人形」の公演がたくさん行われます。
私もこの「クルミ割り人形」が楽しみで、年末には、よく見に行きます。「くるみ割り人形」の舞台は毎年各バレエ団が趣向をこらして演出するので、どれもが楽しいのですが、そんな中でも、1987年というかなり昔のものなのですが、川口ゆり子が金平糖の精を踊った舞台が忘れられません。
川口ゆり子の舞台を初めて見たのは彼女がまだ15歳位のときで、牧阿佐美バレエ団定期公演での「白鳥の湖」の舞台でした。この時は、牧阿佐美バレエ団の、大原永子、森下洋子、靱啓子、武者小路由紀子さん、そして川口ゆり子が、毎晩替わって、オデットとオディルを踊りました。川口ゆり子と武者小路由紀子は、この時最年少で、二人とも「白鳥の湖」の初舞台だったのです。当時私は大学生でしたが、学生会員ということで、一回500円と安く鑑賞できました。卒業近くまで、この牧阿佐美バレエ団の定期公演に幾度も通ったものでした。
「白鳥の湖」初舞台での川口ゆり子はさすがに緊張していたようで、笑顔を見せる余裕がないほどでしたが、歯を食いしばって一生懸命に、この大役を踊りぬきました。オデットとオディルを巧みに踊り分け、とてもういういしい素敵な舞台だったのです。レヴェランスでの彼女の涙ぐんだ表情を未だに覚えています。
こんな川口ゆり子の記憶があったのですが、「クルミ割り人形」の金平糖の精でも彼女の誠実な踊りに自然にひきこまれて見入ってしまいました。彼女は派手に足を高く上げたりせず、むしろ控え目で地味です。あまり強く役をつくろうとせず、自然に自分のもっているものを見せてくれるようです。
私も吉田都をはじめ、幾度か金平糖の精を見ましたが、このパ・ド・ドゥがどんなに立派でも、それがかえって、物語の中から浮きあがってしまうような感じにさせてしまうこともあるのです。その点この川口ゆり子の金平糖の精は、スーッと物語の中に解け込んでいくようで、とても自然で気持ちがいいのです。三谷恭三のサポートもとても上手で川口ゆり子もそれを信頼しきって、のびのびと踊っているようでした。パ・ド・ドゥを集めたコンサートと違い、全幕物の場合は、踊りがドラマの中に溶け込むことが最も大切だと思います。
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この舞台は、NHKが録画し、テレビで放送してくれました。もちろんビデオに録りましたが、第二幕お菓子の国だけのハイライト版とはいえ、川口ゆり子や、師である牧阿佐美の話や、開幕前の舞台裏の映像も加わって、とても楽しい放送でした。
川口ゆり子が「プリマは、コールドバレエの人たちに、一緒に踊りたくないと言われないように、精神的な修行も必要です。」と語っていたのは、慎ましやかな彼女の性格が自然に現れたようでした。
また「リフトで差し上げられる時、チョット体を緩めるだけで、パートナーから『今日は重いね』と言われることもあります。
男性の上に乗るのではなく、浮かんでいるように心がけます」と、パートナーをいたわる気持ちが溢れていて、本当に爽やかに感じました。
また出の直前まで、繰り返し練習をする彼女、真剣な表情から彼女の緊張がひしひしと伝わってきます。このビデオ、大好きで、幾度も幾度も、楽しんでいます。
川口ゆり子にせよ、森下洋子にせよ、いまだに、第一線で活躍されているのには敬服します。人一倍の努力の結果であるに違い有りません。いつまでも素敵な踊りを踊り続け、私たちに夢を与えて下さることを願って止みません。
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牧阿佐美バレエ団公演
金平糖の精:川口ゆり子、王子:三谷恭三
1987年12月、郵便貯金ホール
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なお、YouTubeに、川口ゆり子と今村博明による『くるみ割り人形』のパ・ド・ドゥの映像が載っていました。 ユースバレエ・シャンブルウエスト(1989年)となっているので、 1989年、夫の今村博明と「ユースバレエ・シャンブルウエスト」(現在の「バレエ シャンブルウエスト」の前身)を設立した直後の映像でしょう。 映像が不鮮明なのは残念ですが、夫婦によるパ・ド・ドゥだけあって、二人の息はぴったりで、微笑ましい踊りです。 |
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