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コッペリア:神戸里奈、熊川哲也K-BALLET   (2005.10.2)

熊川哲也演出・振付の「コッペリア」のDVDが発売されています。2004年5月の公演の記録です。K-バレエは、すでに19世紀の名作「ジゼル」「眠りの森の美女」「白鳥の湖」を上演してきましたが、今回は「コッペリア」。初めて、喜劇を手がけました。その後、K-バレエの演目は、やはり喜劇の「ドン・キホーテ」と続きます。熊川版「コッペリア」で何よりも感心したのは全体の構成・演出のうまさです。100年以上も前に作られた古いバレエを現代の観客に飽きさせずに楽しませようとの努力が随所に見られるのです。この「コッペリア」は熊川哲也の現代的感覚の演出と振付、ダンス・シーンの構成のうまさで、とても楽しいのです。群舞も含め、ダンス全体に新鮮な振付がほどこされ、アクロバットの要素も多く、作品全体が躍動感にみちていて、軽快で若々しい感じがする演出です。
この作品で一人のスターが誕生しました。神戸里奈さんです。主役のスワニルダは、荒井祐子、康村和恵、神戸里奈のトリプルキャスト。荒井祐子さん、康村和恵さんは、すでに知る人ぞ知る日本で有数のバレリーナですが、神戸里奈は大作の主役は初めてという大抜擢。でも神戸さんのスワニルダは、愛らしさと好奇心旺盛なところのバランスが絶妙。表情が豊かでとてもキュートで、かつ清楚でチャーミングな表現力はまさにスワニルダのイメージにぴったりです。何度も観たくなるような魅力に溢れていました。
またキャシディのコッペリウスも、通常コッペリウスに感じる物悲しさがないながら、人形作りに飽くなき情熱をそそいでいることを感じさせる大熱演で見事でした。
 
熊川哲也さんは、落ち着いた演技で共演者たちをリードし、際立った存在感をみせていました。今まで熊川さんの踊りは、相手役のバレリーナを引き立てるというよりも、火花散る競演を繰り広げるイメージが強く出ていました。けれどもこの「コッペリア」では、少し違った面を見せています。大役が初めてというスワニルダ役の神戸里奈さん。第1幕や2幕では、とても初々しくて軽快だったものの、 第3幕のグラン・パ・ド・ドゥでは、アダージョで、ややハラハラさせられるような頼りないところも感じられました。熊川さんは、そんな神戸里奈さんを、恋人フランツというよりも、妹を見守る兄のような優しい表情で、しっかりとサポートしていました。いつもながらの完璧なテクニックとクールな表情に加えて、人間としての幅が出てきたように感じました。
 第3幕での「祈り」と「ブライドメイド」の踊りは熊川さんが振付したそうです。康村和恵さんの「祈り」は見事でした。しっとりと敬虔な雰囲気の中に、喜びに溢れた素晴らしい踊りを観ることができました。また「ブライドメイド」での、センターの長田佳世さんは、正確な安定した踊りがとても美しくかった。
機械仕掛けの人形に恋をした老博士と若さあふれる恋人達が織り出す物語を、熊川ならではの鋭利な視点でとらえ、とても見所のあるバレエに仕上がっていると思います。

    演出・再振付:熊川哲也、原振付:アルトゥール・サン=レオン
    音楽:レオ・ドリーブ、美術:ピーター・ファーマー
    スワニルダ:神戸里奈、フランツ:熊川哲也、コッペリウス:スチュアート・キャシディ
    2004年5月 Bunkamura オーチャードホール

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