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「海賊」〜パ・ド・ドゥのヴァリエーション:木下友美  (2013.09.18)

何て美しいんでしょう!!。YouTubeで素敵な踊りを見ました。木下友美の「海賊」のヴァリエーションです。 越智インターナショナルバレエのダンサーだった時、全国バレエコンクール(2007年,名古屋)に出演した時のもののようですが、長い脚のスリムな均整の取れたプロポーション、 表情は穏やか愛らしく、踊りは、丁寧で柔らかく上品で、タメるべきところしっかりタメて、回るところは無理なくスムーズに回って・・・。 こんな素敵なバレリーナが居るんだ・・と、うっとりとして眼を離せませんでした。
 
このヴァリエーションは、アダンのバレエ「海賊」の第一幕のパ・ド・ドゥのメド-ラのソロや、第三幕夢の場面のメド-ラのソロで踊られますが、もともとは「ドン・キホーテ」(ミンクス作曲)の追加曲としてリカルド・ドリゴが作った「森の女王」のバリエーションのです。バレエ「海賊」は、その華やかな内容ゆえに、ショーとしての性格がどんどん強められていき、音楽も演出の方針に合わせて、さまざまな演目や作曲者の作品が次々と織り込まれていったのです。まさに「いいとこ取り」。当時のバレエは、ショービジネスの頂点に立つ人気エンタテインメントの1つであり、そのため、プリマバレリーナの踊りにどの曲が合うのか、どのような舞台に仕上げたいのか、演出家が自由に大胆に腕をふるえた時代だったのでしょう。「森の女王」のエレガントさを強調するために、キープするところはきっちりキープしてメリハリつけ、上半身のしなやかで大きな動きで脚を先導し、エカルテ・ドゥヴァンやグラン・バットマンの極限の開脚のびっくり技や、最後に究極の難技イタリアン・フェッテもあって、 バランスと回転のオンパレードでミスも目立ちやすく、バレリーナ泣かせの踊りでもあるのです。それだけに、これをコンクールで踊るには、よほど勇気が要ることでしょう。
木下友美の踊りは、このヴァリエーションのお手本とも思えるくらい凄く綺麗でうっとりです。 アティチュードとアラベスクのポーズが惚れ惚れするほど美しい。全く力みがなく自然で、こんな素敵なアティチュードとアラベスクは珍しい。
出だしのアティチュードでは、アンオーの腕がまろやか可愛らしく、優雅なアラベスクでは、まっすぐ伸びた綺麗な脚にうっとり。 続く、脚を垂直に跳ね上げたエカルテ・ドゥヴァンでは、両足とも、いとも優雅に高々と上がり、グッと堪えて決めた華麗なバランスのポーズの美しさにハッと息を呑みました。 片足は上がるけれど、もう一方は上がらないという人も見かける中で、両足とも同じように上がるのは、素晴らしい技術です。 さらに、脚は挙がるだけ高く挙げたほうが良いとされるグラン・バットマン。高々と蹴り上げた脚は無理なく爪先までまっすぐ伸びて、開脚の角度は180度超。 ここまで楽々と自然に高々と脚が挙がるのは股間接が完全に開く証拠。完璧なアン・ドゥオールが身についているのでしょう。しかも爪先から手の指先まで神経が行き届いていて、惚れ惚れするほど美しい。

見所で至難なイタリアンフェッテ。片手アロンジェのアラスゴンドとアンオーのアティチュードの組み合わせの連続というこの難しい技ですが、これだけ正確に美しく踊れる人も珍しい。
振り上げた脚はほぼ垂直でピタリと止まる。並々ならぬ技術の高さが分かります。この場面、今にもトゥが崩れそうでハラハラ・ドキドキと手に汗握る人やバランスを失ってメロメロ・・・破綻、となる人も多いなか、 こんなに高く脚を挙げても殆どグラつかず、トゥの先のズレも少なく柔和な表情で軽々とこなしたのは流石です。 片足のポアントで立ったままで、180度近くまで高く脚を上げ、続く回転でも全くバランスが崩れず、美しいアチチュードのポーズをグッと堪えてピタリと決めるという、人並みはずれた技術を習得しているのでしょう。彼女の努力に敬服します。 ただ、本来15回のイタリアンフェッテを11回でやめて、ピケ・トゥールに変えてしまったのは、手抜きのように思えて頂けない。 ウルトラC的なスタミナ勝負で、力尽きてメロメロになることも多いだけに、コンクールという場で失敗したくない気持ちはわかるけれど、頑張って15回まで回りきって欲しかったと思うのは贅沢でしょうか。 でもフィニッシュは両足のトゥを揃えて立って、微動だにせずピタリと停止したのは見事。日頃のたゆまぬ精進の賜物でしょう。

バレエ「海賊」ヴァリエーション 木下友美
このコンクールで木下友美は惜しくも2位だったのですが、イタリアンフェッテを15回まで回りきっていたら、1位になっていたのに違いないと思えるくらい素敵な踊りでした。

木下友美は、しっとりとして清楚で慎ましやかな雰囲気。コンクールにありがちな緊張は見られず、かと言ってうまさを鼻にかけるような感じもしない。 繊細でしなやかな身のこなしには、ほのかな気品が漂い、見終わったとき心の中に花が咲いたようなホッとした幸せな気持ちになる。 フワッとまろやかな弧を描く腕、トゥの先までスッキリ伸びた長い脚・・・、 ピンクの可愛らしいチュチュがとてもよく似合う。 ポアントでの足の運びは軽やかで、まるでチュチュの裾からピンクに光る泡を撒き散らしているよう。 手の指の先から、伸びやかな爪先まで細かく神経が行き届いて、繊細な輝きが香り立つ。まさにクラシックバレエを踊るために生まれてきたと思われるくらい。 難しい箇所に差し掛かっても、柔和な笑顔を失わず、愛くるしく上品な雰囲気が漂うバリエーションでした。 可憐で知的な優しさ、優雅な気品・・・、バレリーナの資質をすべて備えた魅惑の舞姫・木下友美。是非、生の舞台を見たいものです。

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