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小林紀子の「ジゼル」 1975  (2014.12.26)
このジゼルは、小林紀子が小林紀子バレエシアターを組織して間もなく踊られたものです。 確かこの「ジゼル」で小林紀子は、芸術祭優秀賞を受賞したと記憶しております。
 
小林紀子の踊りは一言で言って、とても優雅でした。第一幕の村娘は素朴な優しさが漂い、そして第二幕のウィリもあくまで透明な中に気品を感じました。 どちらかと言うとおっとりとした清楚な感じの女性像を演じていました。 小林さんの踊りは、テクニックを誇示するものではなく、むしろ地味なくらいでした。だからこそ、内面的な面を要求されるジゼルは、彼女の良さを表すのに最もふさわしい踊りのように思います。 この辺は、彼女の教え子でもある下村由理恵のジゼルが、少女のような可愛らしさ中にも凛とした強さを持った現代的な女性を感じさせるのと対照的です。
 
とは言うものの、狂乱の場での迫力は凄いもので、身の毛が立つようなリアリズムを感じました。 また、第二幕の精霊ジゼルのヴァリエーションの美しさは今でも鮮明に覚えています。 アントレでは腕を組んでゆっくりと中央へ進んでいきます。 まず最初は左足をデヴロッペして右足をゆっくりと上げていくポーズ。 懸命に粘って右足をゆっくりと上げ、アラズゴンドに開脚しグッと堪えます。 続いて、足裏全体を床に付けたまま右足を軸にして、左足を水平に上げてゆっくりアラベスクでの一回転。 軸足の下に回転台があるのかと思わせるほど、なめらかで美しかった。 無事回り終えたのもつかの間、最後は左足のアラズゴンド。右足を軸足にして、左足をゆっくりと限界まで上げていきます。軸の右脚のくるぶしがギクギクと揺れ今にも崩れそうになったけれど、歯を食いしばって必死に持ちこたえて見事に静止。 至難な技にひたむきに取り組む小林紀子の健気な姿に感動でした。 そして最後の難関、両腕を胸前で組んでの極限のアラベスクパンシェ。前につんのめりそうになるまで、ゆっくりと体を倒していきます。 足元がふらつきかけ、今にも崩れそうになりながらも、必死に堪えたアラベスクパンシェ。自らのバランスの限界挑み、精魂こめて踊りぬいたバレリーナの姿、本当に美しいものでした。
 
数年後に小林紀子は引退して、後進の指導に専念しました。まだ若いのにととても残念に思ったのを覚えています。 でも、このバレエ団から下村由理恵を初め、素敵なダンサーが育っているのを観るに付け、彼女が「ひとつのバレエ団を持ち動かしていくということは、それだけ大変な仕事なのです。それと若い人たちを育てると言うこと、それも確かなメソードで一貫してやらないと意味がない。それやこれや、自分が踊っていたのではとても・・・・・」(音楽の友社:バレエの本)と言っていることが、なるほどと思えます。

1975年:小林紀子バレエシアター公演
ジゼル:小林紀子
アルブレヒト:小林功

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