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「くるみ・・」上演迄のドキュメント:井上バレエ団  (2004.7.19)

井上バレエ団は、私が好きなバレエ団です。とてもエレガントな雰囲気のバレエ団で、 出演者は皆、いかにも良家の「お嬢さん」と言った感じで、奥ゆかしさ、品のよさが自然に滲み出てくるようです。 ダンサーの方々が皆小柄なこともあってか、東京バレエ団や松山バレエ団等と比べるとこじんまりとしてスケールの小さい舞台ですが、 身近な親しみやすさのようなものを感じます。「井上博文によるバレエ劇場」として始まり、現在に至ったというバレエ団の生い立ちによるのか、 小劇場なりの良さが感じられます。
藤井直子さんは、井上バレエのプリマを、もう10年以上も務めておられますが、いつになっても、可愛らしさ、 初々しさが溢れていて、とても、そんなベテランとは思えません。ほんとうに彼女のクラシック・チュチュ姿は、 綿菓子のような、ふわっとした甘さが滲み出ていて、お菓子の国のお姫様という感じなのです。これほどクラシックチュチュを可愛らしく 着こなすバレリーナは、世界広しといえど、あまり居ないのではないでしょうか。 彼女がステージに現れると、いつも「まあ、可愛い!!」という呟きが客席から聞こえるのも納得いきます。 直子さんは、テクニックを見せびらかすような派手な踊りをしません。このため、「藤井は、技術力はなく、ただこなしているだけ」と言った 評を見たことがありますが、私は、そうは思いません。こんなに可愛い表情のダンサーはめったにいないし、それだけで夢を与えてくれる・・・・、 こんな可愛らしさ、新鮮さを自然に表現できるのも技術だと思います。
そんな、藤井直子さん主演の、井上バレエ団の「くるみ割り人形」上演のドキュメントの映像があります。 1995年ごろのテレビ番組の録画です。
カメラは、井上バレエ団の「くるみ・・・」公演の数日前から、舞台裏のダンサーの素顔を追い、「くるみ・・・」が出来上がっていく様子をドキュメントしたものです。 わずか30分の映像の中に、素敵な映像がぎっしりつまっていてなかなか興味深いものです。
 
概要をお話します。
公演の数日前、井上バレエ団の稽古場では、本番に向けてのリハーサルに熱が入ってきます。でも、まだダンサー達には余裕があります。
雪の女王役の井神さゆりさん「金平糖より年上の、冷たいイメージをうまく表現したい」、藤井直子さん「甘く、しかも女王の威厳を出せたらいいな」と抱負を語っています。
また、王子役のパトリック・アルマンは、「大切なことは、バレエを心から愛し、楽しむこと」と井上バレエの若いダンサーたちを励ましています。
いよいよ公演当日、劇場に来て、思い思いにストレッチをするダンサーたち、次第に緊張が高まっていきます。
公演数時間前、舞台衣装に着替えて、高まるプレッシャーに「緊張しています。おうちに帰りたい」と藤井直子さん。
「金平糖のパ・ド・ドゥ」開始直前、舞台の袖で待つ直子さん、緊張がピークに達し、舞台を覗いたり、衣装を気にしたり、そわそわと落ち着きません。 そんな直子さんに「僕が付いている。大丈夫だよ。」と語りかけるように、手をとって、やさしく舞台へと導くパトリックアルマン。直子さんは、にっこり、軽く頷いて、ステージ中央へ。パ・ド・ドゥの始まりです。
 
このアダージョでは、パトリック・アルマンが終始リード。直子さんは、アルマンの力強い腕の中で、伸び伸びと泳いでいる魚という感じ。二人は、微笑ましく、とても気持ちの良い雰囲気です。 かって、有名な男女によるパ・ド・ドゥで、男性ダンサーが、肝心なところで、女性のサポートを忘れ、女性が危うく倒れそうになったのを観たことがありますが、この時は、男性に「しっかりしろよ」と憤りさえ感じたのですが、この「くるみ・・」はそんなことは微塵もなく、全く安心して観ていられましたv。
直子さん、最初のうちは、かなり険しい表情でしたが、徐々に緊張がとれてきたようで、アダージョ終盤では、柔和な笑顔を見せるようになりました。
アダージョが終わって、王子のバリエーション、そして、金平糖の精のヴァリーエーション。直子さん、すっかり落ち着いたようで、伸び伸びと踊っていました。 ヴァリエーションの中盤あたりから、直子さんの額と胸には、汗が光っていました。ジーンと胸が熱くなります。 そして、コーダ。終盤、回転の速いピルエットでは、やや疲れが感じられましたが、力を振り絞って懸命に踊る姿に感激です。フィニッシュの見せ場、「さあ濃、来い!!」と待ちかまえるアルマン。直子さん、思い切り高くジャンプ、そして、真っ逆さまに、フィッシュダイブして体をアルマンに預けます。 アルマンは、がっしりとキャッチv。ハッと息をのみました。割れんばかりの拍手。 抱き起こされて、大きく肩で息をしながらもアルマンと顔を見合わせて、「上手なサポート有り難う」と言っているような感謝の眼差し。人柄の良さを感じさせます。
踊り終わってのレヴェランス。鳴り止まぬ拍手と喝采。深々と頭を下げる直子さん、こみ上げてきたものがあったのでしょう、 目には、光るものがありました。こういう場面を見るとますますバレエが好きになります。
舞台から戻り、「よく頑張ったね」との声に、流れる汗をぬぐいながら嬉しそうに、晴れ晴れとした表情で頷く直子さん。ダンサーとして、このうえない喜びを感じた一時でしょう。観ているほうも、心から「お疲れ様」と労ってあげたくなる一瞬です。
 
当時、テレビ東京に「バレエ誕生」という番組がありました。土曜日の真夜中2時から30分間、パ・ド・ドゥをほぼ2本づつ放送するというものでした。新進ダンサー達のフレッシュな踊りを楽しめました。この「くるみ・・」は、この中の一つなのです。
しかし、この「バレエ誕生」は、スポンサーが下りてしまったとかで、わずか1年でなくなってしまったのです。大好きな番組だっただけに、なくなってしまって、本当に残念に思っています。
当時に比べたら、今の方がずっとバレエファンは増えていることでしょう。
この素敵な番組の復活を望んでいるのは、私だけではないと思います。どこかのテレビ局さん!!、ぜひこの番組の復活を考えてもらえないものでしょうか。

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