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くるみ割り人形:草刈民代、牧阿佐美バレエ     (2004.1.24)
民放による牧阿佐美バレエ団の「くるみ割り人形」の放送

2年ほど前、CS放送シアターテレビジョンが、牧阿佐美バレエ団の「くるみ割り人形」を放送してくれましたが、また、再放送をしてくれるようです。 日本のバレエ団の公演の中継録画は、今までNHKがたまに放送してくれましたが、民放が放送してくれるのは、とても珍しいことですし、素晴らしいことだと思います。 ただ、この放送、二年前の映像にしては、なぜか鮮明さに欠けた気がします。ビデオカメラのせいなのか、その後の処理の為なのか分かりませんが、CSにしては物足りない感じがしました。この辺は、改良の余地がありそうです。 最近、「ローマの休日」のように古い映画がディジタル・リマスタリングで見違えるようになったものもありますから、再放送で、鮮明さが増していれば有難いのですが。 ともあれ、シアターテレビジョンは、バレエの放送に積極的です。今後も、優れた日本のバレエ公演の放送をしてくれることを期待します。
 
さて、この「くるみ割り人形」は、2001年末に行われた、牧阿佐美バレエ団公演からの録画です。牧阿佐美バレエ団の芸術監督、三谷恭三の演出・改訂による舞台。 この「くるみ」はイワーノフ版の流れをくむもの、要するに「くるみ割り人形」には子供が主人公を演じる “メルヘン・かわいい系”と、大人のダンサーが主役の“ヤングアダルト系”の二派の演出があり、 牧阿佐美バレエ団の「くるみ」は前者に属するというものです。
 
この公演では、柴田有紀、草刈民代、上野水香が日替わりで主役を踊りました。このうち、今回の放送での主役「金平糖の精」は、 映画『Shall we ダンス?』で女優のデビューもした、日本を代表するプリマ、草刈民代。 人気のダンサー、正木亮羽さんとの、クライマックスのグラン・パ・ド・ドゥが最大の見所です。
 
草刈民代の華やかな雰囲気は、金平糖の精、オーロラ姫など、クラシック・バレエのプリンセスで、ひときわ映えます。 草刈民代の踊りは、どちらかというと控えめな感じですが、私はとても好きです。節度というものをわきまえていて、あまりテクニックを誇示するのではなくて、 このあたりが、踊りに品の良さをかもし出しているゆえんでしょう。 アダージョでのバランスも、なんとなく心許なさを感じさせ、思わず、そっと支えたくなるような気持ちにさせるところが、かえって初々しくて、魅力を感じます。 私は、シルヴィー・ギエムのように、これでもかと言うように完璧でビクともしない強気のバランスや、 最近、上野水香がよく見せる、楽々と180度を超える超人的なアラベスクの開脚は、好きではありません。確かにテクニックは凄いけれど、下品に感じてしまいます。 むしろ、開脚も120度位とほどほどで、バランスも何となく不安でそっと支えたくなるような草刈民代の踊りに、上品で、新鮮な魅力を感じるのです。 正木亮羽は、今回始めてみましたが、とてもサポートが上手だと思います。 デリケートに、しかも、しっかりと、草刈民代をサポートしていて、 草刈民代に、不安を与えまい、安心して踊ってもらおうという気持ちが 伝わってきます。草刈さんも正木さんを信じ切って、安心してサポートを受けているようで、二人で協力して、最高の美を作り出そうとしている姿に、感動を覚えました。 パ・ド・ドゥのパートナーとして理想ですね。このパ・ド・ドゥ、ほのぼのとした二人の共同作業が感じられて、とても素敵でした。 コーダは、フェッテとシェネからのリフト。ばっちり決めて笑みがこぼれました。

「一回一回の舞台は挑戦の場でもある。もっともっと踊りを通じて自分を知り、演じているときに解放された瞬間が経験出来ることを願い、意志を持ってそれに挑戦してゆきたい。」 と草刈民代(草刈民代のすべて(新書館))。 彼女が、笑みを忘れた位に険しい表情をして、一生懸命に踊る舞台姿を見ていると、この気持ちが肌で伝わってきます。 バレリーナが、自分の芸に溺れず、さらに技を高めようと真剣に取り組んでいる姿って、 本当に美しいですね!!。「素敵です。頑張って!!」と応援したくなります。ただし、草刈民代の踊りには、いつも感じる気になる点があります。 アラベスクパンシェでは脚が曲がって見え、アチチュードでは、膝が下を向いて、俗に言う犬のおしっこのポーズになってしまっているのです。 脚を付け根から外に十分開くターンアウト(フランス語ではアンドゥオール)はバレエの基本ですが、これが十分でないのかもしれません。 これが正しく出来ていればいれば、膝が下を向くことはないはずですから。尤もこれは一朝一夕でなおせるものではありませんが。

雪のシーンもとても素敵でした。雪の女王の橋本尚美さんは、本当に可愛らしい。また、デヴィッド・ウォーカーの見事な美術とポール・ピヤントの素晴しい色彩を感じさせる照明も見所のひとつです。
演出・振付:三谷 恭三
音楽:P.I.チャイコフスキー
   美術・衣装:デヴィッド・ウォーカー
   キャスト・金平糖の精:草刈民代、王子:正木亮羽、雪の女王:橋本尚美
 
私は、十数年前に、川口ゆり子さんが、金平糖の精を踊った、牧阿佐美バレエ団の「くるみ割り人形」のビデオを持っています。
何度も観た為に、テープが痛んで、画質は落ちてきましたが、この時の川口さんの踊りも、大変初々しく素敵です。
今回のビデオを加え、牧阿佐美バレエ団の「くるみ割り人形」は二本になりました。いずれも私の大切な宝物です。


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