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ジゼル、草刈民代、ミハイル・シヴァコフ、レニングラード国立バレエ  (2010.1.17)
   草刈民代最後のジゼル

草刈民代が、バレエの現役を引退しました。彼女は、今後、ドラマや映画を中心に女優として活動していくそうです。最後のクラシックバレエの舞台は「ジゼル」で、彼女の夫で映像監督の周防正行がが映像化し、この映像が、WOWOWで放送されました。
 
草刈民代の「ジゼル」には、あまり期待していなかったのですが、技術面の??を除けば、結構楽しめました。ダイナミックなパも、息を呑むポーズもなかったし、時々よろついたりして不安でしたが、彼女ならではの慎ましさ、清楚さが伝わってきて、独特なノーブルな美しさは健全でした。 クラシック最後の舞台にジゼルを選んだ理由を聞かれて、「ドンキホーテや白鳥の湖は踊れなくなった。ジゼルはまだ肉体的に無理がない」ということを第一に挙げていました。技術面の限界を感じていたのでしょう。裏を返せば、ドンキやオディールのグラン・フェッテのような曲芸的超絶技巧は無理だけれど、ジゼルなら何とかごまかせると思ったのでしょう。その証拠に、今回の舞台、「あれ? 振を端折っている?」と感じたり、「あ〜、脚が十分上がらない……!!」、「やばい〜、バランスが……??」とハラハラしたところがあったものの、パもポーズも大きな破綻はなく、無難に踊り終えたという感じでした。 その意味ではジゼルを選んだのは正しかったということでしょう。また彼女は、「ジゼルの中にバレエの原点があり、古典バレエの最後はジゼルで締めくくりたかった」といっていました。 派手な技巧を見せびらかすのではなく、ステップで構成されている芝居を演じるという面では、成功したと思います。 第1幕では、パートナーのミハイル・シヴァコフとの呼吸は良く合っていて(パートナーのミハイル・シヴァコフが合わせたという感じでしたが)、 恋する娘が相手の裏切りを知って狂い死ぬという感情表現の難しさを、さら〜とやってのけ、ドラマをきちんと作り上げていました。 登場シーンの瑞々しさ、恋する娘の恥じらい、身体が弱い様子など、自然で、狂乱の場は、あっさりしすぎた?ものの、ジゼルの虚ろな心を感じさせて哀れを誘いました。シヴァコフは、実にノーブルなアルベルトで好演でした。 でも、ジゼルのソロの中で、下手から上手へ、右足を前方にあげて、左足の爪先立ちで、ツンツンとバロネする所では、バロネが最後まで続かず、4回位毎に一呼吸置いて回転を入れていました。これはいかにも誤魔化しの様で頂けません。バロネは続いてこそ魅力的なのです。また最後のピケターンの静止では、足首がふらついて今にも右に倒れそうだったけれど、必死に堪えて事なきを得ました。
 
第2幕でも、バランスが不安定でハラハラさせられたところもあり、テクニック的には厳しいものを感じました。動きもややギクシャクして滑らかでないので、精霊「ジゼル」の超現実的な存在を感じさせないのです。ウィリーとして目覚めたジゼルが、ミルタに無理矢理踊らされる、アティテュードでくるくる速く回転する最初の難関は、連続の回転を端折ってごまかしたのが見え見え。何とかつじつまを合わせて踊り終えたという感じで興ざめでした。目当てのアラベスク・パンシェも危なっかしく、脚の上げ方は中途半端で、静止時間も不十分。危うくなってもごまかさずにグッと堪えて頑張って欲しかった。また、高く跳びあがれないようで、精霊としての浮遊感が感じられませんでした。特にリフトでは、シヴァコフは、「よいしょ!!」と持ち上げるのがメチャメチャたいへんそうで気の毒なくらいでした。終盤には草刈民代も汗びっしょり。アラフォーの彼女は体力的にも相当しんどかったのでしょう。でも、楚々とした品のある美しさを体いっぱいに漂わせて、儚くも美しい幻想の世界をたっぷりと見せてくれたのは流石で、輝く美貌と深みある演技力でアルベルトへの愛情を感じさせ、見事に古典バレエ引退の舞台を飾ってくれました。カーテンコールでは拍手が鳴り止まず、草刈民代は、何度も何度も引っ張り出されていました。
 
森下洋子のように60才を超えてもまだ踊っている人もいる中で、古典バレエ全幕出演とは言わなくても、まだまだ踊れそうなので、草刈民代がバレエから完全に引退してしまうのは惜しいような気もしますが、振を端折ってごまかしたり、バランスが危うくてハラハラさせられたりして、技巧面では??と感じるところも多々あったので、バレリーナとしては丁度良い引き時かもしれません。 草刈さん、現役生活、本当にお疲れ様でした。
 
   ジゼル:草刈民代、アルベルト:ミハイル・シヴァコフ
   ミルタ:オクサーナ・シェスタコワ、森番ハンス ロマン・ペトゥホフ
   ペザント・パ・ド・ドゥ:サビーナ・ヤパーロワ、アンドレイ・ヤフニューク
   ベルタ:ヤニーナ・クズネツォーワ、バチルド:エレーナ・モストヴァーヤ
   公爵:アンドレイ・ブレグバーゼ、アルベルトの従者:アレクサンドル・オマール
   ドゥ・ウィリ:ユリア・カミロワ、マリア・グルホワ
   指揮:ドルゥガリヤン、管弦楽:レニングラード国立歌劇場管弦楽団
   2009年1月31日、神奈川県民ホールでの録画
 

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