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バレエコンサート(牧阿佐美バレエ1970)    (2003.11.23)
 川口ゆり子、大原永子、森下洋子の初々しい映像

「バレエコンサート(牧阿佐美バレエ1970)」というビデオがあります。1970年に作成されたものです。内容は、川口ゆり子の「ジゼル」から「ペザント・パドドゥ」、大原永子の「眠りの森の美女」第三幕からグランパドドゥ、そして森下洋子の「白鳥の湖」第三幕から「黒鳥のパドドゥ」です。
3人とも、その後牧阿佐美バレエ団を離れ、大原さんは、英国スコティシュバレエ、森下さんは、松山バレエ団で活躍、川口さんは、バレエ・シャンブルウエストを組織されますが、このビデオでは、当時牧阿佐美バレエ団の看板だった3人の初々しい踊りが楽しめます。1970年にはビデオテープはオープンリールしかありませんでしたから、この映像は最初オープンリールで発売されていたそうですが、目の玉が飛び出るくらい高価で、一般の人がとても買えるものではありませんでした。その後、1970中頃、ホームユースとしてベータとVHSのビデオが開発され、映画などのソフトも徐々に売り出されるようになりました。そんな中で、このバレエの映像もビデオカセットで発売されました。当時は東京放送(PONY)からの発売で、定価は3万円でした。現在のビデオカセットやDVDが約3000円ですから、10倍も高かったのです。
この映像はスタジオ録画で、カメラがダンサーの動きを良く追っていて、美しい踊りを存分に楽しめますし、アップも多く、ダンサーの表情もよくわかります。難しい技にさしかかった時のダンサーの真剣な表情、それを決めてほっとした笑顔など、ばっちり、とらえれれていて、とても興味深いものです。 森下洋子さんが、独りでバランスをとるとき、ウェストを支えていた清水さんに、「大丈夫、手を離して!!」と呟いていたのが、口の動きでわかります。 1970年というと、3人とも20代、30分程度のものですが、若く初々しい踊りの記録は、今となっては、とても貴重だと思います。
 
ブルグミュラー曲「ジゼル」第一幕から「ペザント・パドドゥ」
川口ゆり子(村の娘)、佐藤勇次(村の青年)
この曲は、「ジゼル」第一幕で、農民の男女によって踊られる小曲ですが、アダンの原曲にはなく、後から付け加えられたものです。
川口さんは、カメラを意識してか、時折険しい表情を見せますが、とても丁寧で慎ましやかな、素敵な踊りです。当時、20代に入ったばかりで、とても可愛らしく、懸命に踊る姿を見ていると、つい「頑張って」と声をかけたくなります。
その後、川口さんが、あるテレビ番組で「プリマは、コールドバレエの人たちに、一緒に踊りたくないと言われないように、精神的な修行も必要です。」と語っておられましたが、この映像でも。慎ましやかな彼女の性格が自然に現れているようで、とても爽やかです。私は、この映像が大好きで、繰り返し繰り返し、楽しんでいます。 
 
チャイコフスキー曲「眠りの森の美女」第三幕から「グラン・パ・ド・ドゥ」
大原永子(オーロラ),加藤正雄(デジレ)
1960年代、森下さん、川口さんが10代の頃、牧阿佐美バレエ団は、ティーンエイジャーバレエ団の愛称で親しまれていました。そんな中で大原さんは、文字通りプリマバレリーナとして、同バレエ団のけん引役でした。1970年代後半から、彼女は英国スコティッシュバレエに招かれプリマとして活躍されました。後に、スコティッシュバレエには下村由理恵さんも入団しました。大原永子さんは、小柄で手足も余り長いほうではなく、バレリーナとして見栄えのする体型ではないと思います。でも、スコティッシュに招かれたとき、大柄な外国のダンサーの中で、かえって小柄な体系が生きたと聞いております。日本人としての体型を生かし、叙情性、しなやかさを武器に、日本人でしか生み出せないバレエを作られたのだと思います。王子の加藤正雄さんと、とても息の合った素敵な踊りです。ほっそりとした痩せぎすのバレリーナが多い中、この映像での永子さんは、いくぶんふっくらした感じで、とても魅力的です。あまり高く足を上げたりせず、どちらかというと控えめな踊りですが、とても正確で、しなやかな魅力的な踊りです。
 
チャイコフスキー曲「白鳥の湖」第三幕から「黒鳥のパドドゥ」
森下洋子(オディール)、清水哲太郎(王子)
当時森下さんは牧阿佐美バレエ団に籍をおいていましたが、この数年後、松山バレエ団に移り、清水哲太郎さんと結婚、そして、1974年にヴァルナ・バレエコンクールでゴールドメダリストとなり、一躍世界のスターになりました。このビデオの森下洋子さん、清水哲太郎さんとも、20歳前半で、とても若々しい。内面的な表現などには。現在の森下さんに較べると、十分とは言えないところがあるかも知れませんが、バランスにせよフェッテにせよ、技術的には非の打ち所がないほどで、いつ見ても新鮮な驚きを覚えます。特に、グランフェッテは、軽快そのもの。難しい技をいとも容易くやりとげるのには驚きです。でも、この影には人一倍の厳しい練習の積み重ねがあるにちがいありません。彼女の努力の結晶だと思います。彼女の母でもあり師でもある松山樹子さんが、「森下洋子は努力の人です。彼女は天才と言われることが好きではないのです。ただし、彼女はチャンスを逃さないし、それを成功させるために死にものぐるいで努力することの出来る人なのです。」(バレリーナの羽ばたき)と言っておられました。だからこそ、森下さんが、年齢を超えて、私たちに夢を与え続けてくれるのだと思います。
 
最近、斎藤友佳里さんや上野水香さんのような日本人バレリーナが出演した舞台がDVDで発売されるようになりましたが、まだまだ、日本のダンサーやバレエ団によるビデオやDVDでの発売は少ないと思います。日本にも、世界に勝るとも劣らない素敵なバレリーナが一たくさん居ます。ぜひ日本の優れたバレリーナやバレエ団の踊りを収録した映像がもっともっと発売されることを期待します。

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