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ベームの魔笛             (2001.6.3)

モーツァルトは死の直前にオペラ「魔笛」を作りました。
でも私は、このオペラの音楽を聴いていると、死をまじかに控えた人が作ったとは、どうしても思えません。純粋無垢なモーツァルトの気持ちが凝縮されたおとぎ話に引き込まれてしまうのです。
悲劇と喜劇、童話の世界と実際の世界が混然一体となった名作ですが、悪くいえば、支離滅裂の曲です。この理由としては、作曲を依頼し台本を書いたシカネーダーが、類似のものが他の劇場で行われていたために、第1幕の作曲が完成後、第2幕の主人公たちの性格を変更してしまったためだとと言われています。すなわち、第1幕では、夜の女王:善者、ザラストロ:悪者だったのが,第2幕では正反対になっています。ですから、初めてこの歌劇を観ると奇妙に感じます。しかしながら、個々の曲は素晴らしいものです。
また、このザラストロが出てくる場面や火の試練等はヨーロッパの秘密組織であるフリーメイソンの入団式と関係あるとの説もあり、これらを暴露したためにモーツアルトは殺されたのだという説があるくらいです。
 
「魔笛」のレコードはたくさん出ていますが、私が持っている全曲盤は、次の3つです。
第1は、ザヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団のレーザーディスクです。
アライサのタミーノ、ルチア・ポップのパミーナ、ブレンデルの鳥指しパパゲーノ、グロベローヴァの夜の女王という配役。なかなか楽しめる一枚です。
 
第2は、デーヴィス指揮ドレスデン・シュターツカペレのCDです。マクローリン、ムレイ、プライス他の出演。
 
第3は、ベーム指揮ベルリンフィルのアナログLPレコード。1964年の録音です。
イヴリン・リアーのパミーナ、フリッツ・ヴンダーリッヒのタミーノ、フィシャー・ディスカウのパパゲーノ、ロバータ・ピータースの夜の女王という豪華なキャスティング。
このレコードが私が最も好きなものです。
このレコードが発売されたのとほぼ同時に、クレンペラー指揮の魔笛も発売になり、音楽雑誌を賑わせたのを覚えています。クレンペラー盤は、台詞をすべて除いたもので、歌を聴くという面では面白い試みでしたが、オペラですから、やはり台詞が必要に思います。
ロバータ・ピータースがミスキャストと言う評が多いのですが、私は必ずしもそうは思いません。上手に歌っていると思います。夜の女王は難役。歌いこなすのは大変なことだと思います。
これはLPレコードですから、音質から言ったら最近のディジタル録音のCDには及びません。でも、とても暖かみのある音質でこのレコードを聴くとホッとします。多分にベームの指揮が影響しているものと思います。
 
モーツァルトのオペラには、「魔笛」や「後宮よりの逃走」を中心としたドイツ語のものと、「フィガロの結婚」、「ドン・ジョバンニ」、「コシ・ファントゥッテ」と言った、イタリア語のものがあります。作曲された当時オペラはイタリア語というのが通例だったということですから、モーツァルトがドイツ語でオペラを書いたのはかなり勇気が必要だったようです。映画「アマデウス」にも、このあたりの話が出てきます。でも、私は、ドイツ語だからと言っても少しも不自然ではなく、音楽と溶け合って素晴らしいと思います。いわゆる、ジュングシュピール(歌芝居)と言って、台詞が通常の言葉で語られますが、むしろ、レチタティーブよりも自然で、私は好きです。
 
ともあれ、1960年代に録音されたオペラが、今でも少しも色あせないのは、驚くべきことだと思います。やはり、良いものは、良いですね。

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