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グラン・パ・クラシック:メリッサ・ハミルトン、ダヴィッド・チェンツェミエック   (2015.5.2)

「グラン・パ・クラシック」はパリ・オペラ座の往年のエトワール、イヴェット・ショヴィレのために創作されたグラン・パ・ドゥ・ドゥーです。 物語は無く、オーベールの音楽と典雅な踊りを楽しむもので、ロシアの振付師グソフスキーはショヴィレの実力が遺憾なく引き出されるようにとの意図で、超絶技巧をこれでもかと織り込みました。 これが後世のダンサー泣かせとなったのですが、これを見事に踊りこなしたのがシルビーギエムで、抜群の脚力に裏付けられた、びくともしないバランスと回転技を誇示した超絶技法に驚かされます。
 
ロイヤルバレエのメリッサ・ハミルトン(Melissa Hamilton)が踊った、グラン・パ・クラシックの映像があります。 メリッサ・ハミルトンは、1988年,北アイルランドのベルファスト生まれ。2007年,英国ロイヤル・バレエにコール・ド・バレエの一員として入団、 2010年にソリスト,2013年にファーストソリストに昇格し、外国人ダンサーの多いロイヤル・バレエの中で数少ないグレートブリテン出身者として期待されているそうです。 パートナーは、同じロイヤルバレエのダヴィッド・チェンツェミエック(Dawid Trzensimiech)です。

このメリッサ・ハミルトンのグラン・パ・クラシックは、シルビー・ギエムのようなアクロバットまがいの超絶技法ではなく、 むしろ、バランスもヴァリエーションも、今にも崩れそうでハラハラする不安なところもあるけれど、 気品のある透明感が感じられ、とてもなめらかで丁寧に踊っています。きっと彼女は繊細で慎ましやかな性格なのでしょう。 チェンツェミエックと踊る最初のアダージョ。メリッサ・ハミルトンは、体はとてもしなやかそうで、アラベスク・パンシェの開脚では、軽々と180度を越えていました。アンドールが完璧に出来ている証拠でしょう。 フィッシュダイブの後、両手を腰に当てて右足のトゥで立つバランス。チェンツェミエックの腰の支えを失った途端、メリッサ・ハミルトンの上半身がグラッとなったけれど、必死に堪えてバランスを保ちました。 これを3回繰り返すのだから大変ですが、懸命に頑張って無事やり終えたのは偉い。。 チェンツェミエックに右手を支えられたプロムナードの回転後のアラベスクのバランス、握りしめた手が震えてなかなか離せず、こわばった表情に思わず「頑張って!!」と応援したくなる。 意を決して、離した手をアンオーまで高く挙げ、グッと堪えます。鋭いトゥの先からすっと伸びた美しい足の甲がギクギク震えながらも、必死にバランスを持ちこたえる姿には感動します。

そして難しいテクニックの連続の女性のヴァリエーション。 左手を腰に、一瞬ポーズをとり、続いて両手を腰に右足一本で巧みに回るという、体力の限界に挑戦するようなキツク至難な踊り。 このアクロバットまがいの超絶技法はシルビー・ギエムの独壇場というところですが、私はギエムの踊りには「どうだ!」と言わんばかりの傲慢さが鼻につき好きではありません。 同じロイヤルのプリマ、マーゴ・フォンティーンがそうだったように、メリッサ・ハミルトンはバランスは得意だけれど、回転は苦手のようで、 回転は危なっかしいところがあって、このヴァリエーションを踊るのは相当大変だったことでしょう。 今にも崩れそうでハラハラして思わず身を乗り出し固唾をのんで見つめてしまいましたが、笑顔を忘れて懸命に踊る健気な姿には、 むしろ初々しさといじらしさを感じさせ、完璧なギエムよりも、はるかに美しいと思いました。 そして終盤近くに最大の難関は、足でリズムを取って、はずみを付けて踊る26連続のルルヴェ。 「これが踊れたら怖いものなし」と言われるほどで、とてもキツく、次第にかかとが落ちてきてメロメロになりがち。体力と精神力の限界に挑戦するようなパです。 メリッサ・ハミルトンの表情がひときわ厳しくなりました。「頑張れ!」と声をかけたくなりました。 懸命に踊って、19回目のルルベのところで心配が現実になりました。振り上げた左脚を戻してルルベに入った瞬間、右足のかかとが落ちて、転げそうになってしまった。 でも必死に堪えて、最後まで踊りぬいたのは偉かったのですが、踊り終わってのレヴェランスでは、 観客の暖かい拍手に無理やり笑顔を作っていましたが、どこか納得いかないという表情。ミスが気になっていたのでしょう、ミスが後をひかなければ良いがと心配になりました。

そして最後のコーダ。コーダ終盤の見せ場の32回のグラン・フェッテ。軽快に廻り始めたものの、9回あたりから軸の右足が少しずれて不安だったのですが、14回目で悲劇が起きました。 右足のトゥの先が滑ってバランスを崩し、たまらず左脚を床についてしまい、これ以上回れなかった。 アダム・クーパーが「舞台には魔物が居る」と言っていたように、本番の舞台ではプロでも思わぬミスが出るのでしょう。 それにしても、もう一歩のところで思わぬアクシデント、メリッサ・ハミルトンはショックだったことでしょう。

このグラン・パ・クラシック、メリッサ・ハミルトンにとっては不本意な結果だったことでしょう。でも、舞台にはミスが付きもの、気にすることはないと思います。 気品溢れる清楚でスリムな美しい容姿のメリッサ・ハミルトン。加えて慎ましやかで繊細な静かな物腰という類稀なバレリーナの資質を武器に、一層大きく羽ばたいてくれることを願っています。
 
2014/12/29: Melissa Hamilton(UK)&Dawid Trzensimiech(Poland)-Grand pas Classique--Final of The 1st IBCC(Ballet) Melissa Hamilton:Bronz Medal winner  

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