これは、1975年のロイヤル・バレエの日本公演での「眠りの森の美女」の感想です。
オーロラ姫はメールパーク。王子はデヴィット・ウォールでした。
メールパークは、ロイヤル・バレエで、フォンティーンの次の世代のプリマとして活躍しました。1974年に大英帝国勲章を受章しています。お茶目なお転婆娘役で定評があったのですが、この来日公演では、珍しく?オーロラ姫を踊りました。
私もお茶目な娘役というイメージがあり、どんなオーロラかなと興味がありました。
でも予想に反して、メール・パークの踊りはとても丁寧で、お茶目な娘ではなく、優雅なお姫様を演じていました。
ロイヤル・バレエのローズ・アダージョの振り付けは、他のバレエ団のそれとひと味違います。お目当てのアチチュード・バランスが独特なのです。
私の見た限りの日本やロシアのバレエ団の公演では、ポアントで立ったオーロラが現在支え担っている男性の手を離して次の男性に移るとき、次の男性は現在の男性のすぐ横に並んで手を添え、手を離した女性がいつ手を下ろしても良いように備えています。
万一、女性が手を離した時にバランスを崩して倒れかけても、次の男性の手に掴まることができるので、女性には安心感があるでしょう。
しかし、このロイヤルバレエの舞台では、次の男性は現在の男性から数メートルも後方に居り、女性が手を離した後から、ゆっくりと近づいてくるのです。
女性は否応なしに、長くバランスを維持しなければなりません。女性が不幸にしてバランスを崩しても支えてくれる男性はいないのです。まさにバレリーナにバランスの極限を求める過酷な振り付けです。特に、終盤近くのアチチュード・アン・プロムナードでは、男性にぐるっと回された後に手を離すのですから、よりバランスがとりにくく、女性の恐怖感は大変なものだと思います。
日本のバレエ団に海外のバレリーナが客演するとき、直前に来日することもあり、4人の王子と十分に時間合わせをする時間がないためか、サポーターとの呼吸が今一つでバランスも不十分の場合もあるようですが、さすが自分のバレエ団の中で踊るとあって、メールパークと4人の王子の呼吸はぴったり。メールパークは、この至難な技をいともた易くやってのけました。
また、第三幕のパ・ド・ドゥも、ポアントのバランスはたっぷりで、フィッシュ・ダイブもとてもダイナミックで綺麗でした。
ローズアダージョにせよパ・ド・ドゥにせよ、ロイヤルでは、ポアントのバランスをたっぷりとって、静の美しさを強調しているように思います。マーゴ・フォンティーンのうっとりとするバランスの美を創出したフレデリック・アシュトンの振り付けが根付いているのでしょう。
ともすれ、メール・パークのハイレベルな技巧の持ち主としての評価は間違いないようでした。
彼女はロイヤルをやめた後、ローザンヌ・バレエフェスティバルの審査員などを務めているようです。
このあとロイヤル・バレエでは、アントワネット・シブリー、レスリー・コレア、ヴィヴィアナ・デュランテ、ダーシー・バッセル、そして吉田都さんとオーロラを踊るプリマ達が続きます。でも私には、1973年に東京バレエ団に客演したマーゴ・フォンティーンこそ、今でも忘れられない最高のオーロラ姫でした。
1975年:ロイヤル・バレエ
オーロラ姫:メール・パーク
王子:デヴィット・ウォール
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