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眠りの森の美女:上野水香、牧阿佐美バレエ   (2003.10.11)

牧阿佐美バレエ団の「眠りの森の美女」に行きました。オ−ロラ姫は上野水香、草刈民代、平塚由紀子のトリプルキャスト。 私は草刈民代出演の日の切符を買ったのですが、怪我で急遽降板、上野水香に変更になってしまいました。 正直、上野水香のオーロラ姫にはあまり期待しておらず、草刈民代が観れないならと、払い戻しも考えたのですが、実際、払戻しも結構あったようで、周りには空席が目立ちました。
 
上野水香は、プリマ草刈民代の急な代役と言うことで、かなりのブレッシャだったようで、出だしは緊張して、顔が引きつっているようにも見えましたが、 その険しい表情からは、草刈民代の分まで頑張るんだという意気込みと、プリマバレリーナとしての責任感が感じられました。 ロ−ズアダ−ジョ最初のバットマン・デヴロッペ。180度近く高く挙がる脚には驚嘆でした。 そして4人の王子とのバランスの場面。各国から訪れた4人の王子からバラの花を受け取る間、 オーロラ姫はずっとポワントで立っていなければならない難技。 この作品の見せ場の一つですが、必死にバランスを取上野水香の表情は真剣そのものでしたが、 まっすぐに伸びたポアントと、まろやかに円を描いた腕は気品に満ちてとても美しかった。 何より、歯を食いしばって懸命に維持したバランスに、「決めるんだ!!」という意地を感じました。 舞台の上のダンサ−たちも、観客も、懸命にバランスをとる野水香のけなげな姿に、視線が釘付けになってしまい、 まだ終わらないのに、観客は興奮し、会場は大きな拍手に包まれました。 ローズアダージョを無事踊り終えてのレベランス、ホッとしたのでしょう。やっと笑みがこぼれました。 第一幕最後のカラボスの毒針に倒れるところの汗びっしょり息を弾ませての熱演、 第2幕幻想の場の丁寧な踊り、妻になる喜びを、のびのびと表現した第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ、どれもとても美しかった。 グラン・パ・ド・ドゥでは難しい3度のフィッシュダイブはなかったものの、フィニッシュのフィッシュダイブをバッチリ決め、 大きな拍手を受けました。また一人、オ−ロラ姫を踊る新しいヒロインがうまれました。
 
ダンサーの体は時代を映すと言われますが、上野水香というバレリーナ、その体は、それを象徴しているように思います。 しなやかな曲線を描きながらスーット伸びていく長い脚、アニメのヒロインを思わせるような大きな目の小さな顔。 この上野水香、どこかが違う、これが21世紀、いや未来に向けての体なのかなと思うけれど、優雅さがなく気品に欠ける。 このため、ことオーロラ姫について言えば、上野水香は、似つかわしくないと思ってしまうのです。

主役以外では、リラの精の田中祐子。表情がとても豊かで、踊りも魅力的でした。 フロリナ王女の橘るみ、バランスの良さにびっくり。幾度かアラベスクのポ−ズをピタリと決めて、拍手を誘いました。 ただ全体的にポアントの音がかなりうるさかったことが気になった。 以前、東京バレエ団の「眠り・・」を観たときも、結構うるさかったのですが、その比ではありませんでした。 しかも、一番音を立てていたのが、上野水香でした。これは、チョッと頂けない。 下村由理恵などは、高いジャンプから着地しても、コトリとも音を立てません。これだけは、ぜひ改めて欲しいと思いました。 このステージ、新書館からDVDで発売になるようで、会場で予約を受け付けていました。 昨年の「ロミオとジュリエット」のDVDはさわりを繋げたハイライトで気に入らなかったのですが、ぜひ今回は全幕を収録して欲しいと思います。
 
それにしても、草刈民代の踊りが見られなかったのが心残りです。ファンとして残念でしたが、 一番悔しかったのは草刈民代自身でしょう。 苦しいレッスンを続けて来て、もう一息で本番というところでの突然の怪我で降板なのですから。 草刈民代は私の好きなバレリーナの一人です。多くの振付家や演出家にその存在感を絶賛されているバレエダンサー。 彼女の踊りはとても華やか、プリマの風格を感じます。 アンドゥオールが完全にできていないようで脚が高く上がらず、シルビー・ギエムや上野水香のような180度超開脚の超絶技巧は無理だけれど、とても品の良いの踊りなのです。 10年ほど前に彼女が踊ったオーロラ姫は絶品で、身体の先まで神経を行き届かせようとする意志が感じられて、心なしか不安で 心許なささえ感じるバランスが、かえって初々しさのようなものを感じさせて、魅力的でした。 この時から10年たち、結婚によって私生活も充実し、演技には円熟さが加わって、名実ともに日本を代表するバレリーナになった今、 草刈さんが、牧バレエ団の他のダンサーより、一歩も二歩も上をいき、牧バレエ団のプリマとして君臨している所以です。 そんなわけで、私は、今回の草刈民代さんは、さぞかし素敵なオーロラ姫だろうと期待していました。 それが突然の降板、本当に残念です。

草刈民代は、かつて「情熱大陸」という番組で、 上野水香を「今はまだ、資質のすばらしさだけで踊りを作っているけれど、踊りに対して自分の意志があれば、 それなりのものは見せてもらえるでしょう」と 先輩の意地を示して、余裕のエールを贈っていました。 そんな後輩の上野水香に、チャッカリ主役の座をさらわれてしまった。鳶に油揚げで、さぞ悔しかったに違いありません。
実は以前にも、草刈民代さんの降板で上野水香さんが「白鳥の湖」の主役に急遽抜擢されたことがありました。 どうも草刈民代は上野水香さんに分が悪い。 今回も主役をさらわれ、上野水香は草刈民代の手ごわいライバルになってしまった感じです。 この世界、うかうかしているとすぐ追い越されてしまいます。 この若き妖精・水香の存在に、草刈民代は牧バレエ団の女王といえども、心中穏やかではないに違いありません。
でも、草刈民代には、上野水香にまさる「華」があります。この人ほどステージで華やかに輝く日本人バレリーナは他に居ません。 左足首を捻挫、骨にひびが入ったということですが、しっかり怪我を直して、元気なステージを見せてほしいものです。そして、ぜひもう一度、「魅惑の草刈オーロラ」を再現して欲しいと、願っております。
 
 チャイコフスキー「眠りの森の美女」
 演出・振付:テリー・ウェストモーランド
 オーロラ姫:上野水香、フロリモンド王子:ウラジーミル・ネポロージニー
 リラの精:田中祐子、フロリン王女:橘るみ、ブルーバード:菊地研、
 指揮:堤俊作、管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
 2003年10月11日、ゆうぽーと簡易保険ホール

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