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ロミオとジュリエット:森下洋子、清水哲太郎、松山バレエ   (2001.5.3)

松山バレエ団のロミオとジュリエットは素晴らしい舞台でした。
主演は、森下洋子さんと清水哲太郎さん。
「森下洋子舞踊暦50年」のと銘打っての公演。オーチャードホールのロビーは沢山の祝福の花に溢れていました。
このステージでは、森下さん、清水さんはもちろんのこと、他の団員の方々も、このシェークスピアの名作にかける意気込みを感じました。
いわゆる、「妖精のバレエ」の”軽さ”とは一味違います。重厚しすぎるかなと思うくらいどっしりとした重みを感じさせながら、ステージが進んでいきました。 演出の清水哲太郎氏の意図するところなのかもしれません。
 
森下洋子さんの踊りは、相変わらず初々しい。可憐にしかも劇的に悲劇のヒロインを演じていました。
私は、森下さんが17歳位の時、ジゼルのペザントパ・ド・ドゥ(ジゼルは牧阿佐美さんでした)で新鮮さに打たれ、20歳位の時、モーツァルトの「レ・プティリアン」のキューピットで大好きになりました。その時、彼女のこの世の人間とは思えない軽快さ、可憐さに魅せられたのですが、今回も、軽快さもさることながら、表現力、演技力はすごいものがあり、凄まじいまでの迫力に圧倒されました。
 
バルコニーのシーン。森下さんの、純粋な愛の表現の中に鋭く指し込むような「迫力」を感じました。自然に流れるような踊りは、まさに研ぎ澄まされた技の輝き。いわば、ご夫婦である森下さんと清水さんの「技」のぶつかり合いというところでしょうか。
クライマックスの自分の胸を刺すことに至るところは、さらにこれを上回るもの。森下さんの独壇場ともいうところで、ものすごい力で舞台をリ−ドしているジュリエットに、観客には、大きな感動を呼んだのでしょう、長い長いカーテンコールの拍手が続きました。
かつて、マーゴフォンティーンの「オンディーヌ」の映像を観た時、鳥肌が立つほどでしたが、これに匹敵するほどの迫力でした。森下さんの体はとても小さいのに、オーチャードホールのステージが狭く感じるくらいなのです。やはり人並みでない、舞踊暦50年の重みなのでしょう。
一緒に観ていた私の妻は、森下さんの踊りを生で観るのは初めてだったのですが、「素敵だった。森下洋子さんの踊りをもっと観たい」と、いたく感激した様子でした。それほど、森下洋子さんのこのステージにおける「存在感」は大きいものがあったのです。
 
オーケストレーション豊かなプロコフィエフの音楽を堪能させてくれた演奏も最近のバレエ公演にない、充実したものだったと思います。先日の日本バレエ協会の「白鳥の湖」の時は、オケが不安定でダンサーが気の毒なくらいでしたが、今回は、わずかに音を外すことがあったものの、森下洋子さんも他の皆さんも、オケにのって安定したステップを維持できていたようでした。
  
森下さんは、ヴァルナバレエフェスティバルで優勝し、一躍世界の檜舞台に躍り出て以来現在に至るまで、常にバレエ界のトップスターとして君臨しておられます。トップの座に着くより、そのトップの座を維持していくことが、どんなにか大変なことでしょう。
森下さんは、次のように言っておられます。「父母、先生方、お客さま。たくさんの人々の大切なかけがえのない時の生命を削り取って、私が生かさせて頂いているのを、切実に感じるのです。」「ほんとうにもったいないことです。捨身で生涯を務めなければ、来世への申し訳がたちません」(公演のPGMより)
この言葉の通り、決して奢らず、自分を取り巻く人々に敬意を払う謙虚な気持ち。この気持ちこそ、いつも新鮮な感動を呼び起こす、彼女の踊りの源のような気がします。、
森下さん、清水さんは、私と同世代です。50代半ばになろうとするお二人が、現在も第一線で活躍されておられるのは、驚嘆すべきことですし、お二人の精進には頭が下がります。
「私も頑張らないと」と、私に大きな勇気を与えて下さったように思います。
清水さん、森下さん、お体を大切に、いつまでも素敵なバレエのプリンスとプリンセスであられることを願ってやみません。
    ロミオとジュリエット
    ジュリエット:森下洋子
    ロミオ:清水哲太郎
    2001.5.3、オーチャード・ホール
パンフレット

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