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森下洋子の「ドンキホーテ」 1971  (2014.12.26)
このドンキホーテは、森下洋子がヴァルナバレエコンクールで金賞をとり、世界のプリマとして羽ばたきはじめた頃のものです。まだ20代後半だと思います。
森下洋子のドンキホーテは定評があり、この後にも幾度か、全幕も、パ・ド・ドゥも踊っていますが、なぜか記憶に鮮明に残っているのが、この舞台なのです。
 
このステージは、なんといっても、森下洋子の新鮮さが魅力です。それに素晴らしいテクニック。
このとき、振り付けをした、松山樹子さんが、「テクニックは非の打ちどころがない。人間的な情緒を身につけるように指導していきたい」と言っていました。
 
本当に森下洋子の技術は素晴らしいと思います。
アダージョのバランスもとても長く微動だにしませんし、コーダでのフェッテ・アントゥールナンも寸分の軸足のズレもない。また清水哲太郎に高々と頭上にあげられたリフトもピタッと決めて見事です。厳しいレッスンの成果でしょう。
森下洋子のように、バランスも回転も共に得意なバレリーナは、世界広しといえども、そう居ないと思います。
あのマーゴ・フォンティーンだって、自分で「ピルエットは苦手」と言っているくらいですから。
 
でも、師でもあり、母でもある松山樹子さんが言われるように、情緒というか、人間的魅力というか、そのようなものが当時はまだ十分でなかったのかもしれません。最近は、これらを身につけて、彼女はなおさら魅力的になったと思います。
うまく言えませんが、技術ではない何かなのです。フォンティーンは舞台に現れるだけで、フワッとした、えもいわれぬ魅力が感じられるのです。
 
ところで、ドンキホーテのキトリは、オーロラやオデットのように人間的情緒を要求するのではなく、もっと気楽に楽しんで踊れるような作品だと思うのです。ですからテクニックも多少誇示する位の方が面白いように思います。
 
そんなわけで、ドンキホーテのステージに限って言えば、このときの、森下さんの若さ、新鮮さと軽快さが、とてもふさわしく思えたのです。
このステージは、その後の森下洋子の多くのキトリの中でも、軽快さとシャープさという点では出色のものでしたし、バランスも見事でした。松山樹子さんの言われた通りテクニックは完璧でした。
私は森下洋子の踊りというと、少なくともこの頃は、スピード感と、抜群のバランスが頭に浮かびます。どちらかと言うと叙情派というより、テクニシャンであったような気がします。
従って「白鳥の湖」ですと、オデットよりオディールの方がぴったり合っていたような気がします。
そんな中でこのキトリは森下洋子の良さが最も出たステージだと思うのです。
最近はもっと叙情的で内面的な面も表現しておられ、名実共に最高のダンサーになりましたが、このころの若々しい、新鮮な彼女も別の面で、とても素敵だったのです。
 
この舞台は、数ヶ月後NHK教育テレビでも放映されました。
ただその当時まだ私はホームビデオを持っておらず、録画することが出来ませんでした。
もしどなたかこの時の録画をお持ちでしたら、ぜひ見せて頂きたく存じます。
あの感動をもう一度味わいたいと思うのです。
 
森下洋子は、天才バレリーナと言われますが、本当は人一倍努力をする人だと思います。彼女が、「バレリーナの羽ばたき」(ゆまにて出版)の中で言っている言葉にそれが良く現れています。引用させて頂き、終わりにします。
「踊りは一朝にして上手くなるものではありません。毎日毎日の鍛錬によって、一歩ずつ階段を登っていくのです。開かれた世界の扉を叩くとき、私は日本のバレリーナである誇りを失わず、日本の皆さんから教えられ守られている感謝を忘れません。」
>森下洋子「ドンキホーテ」
1977年頃:松山バレエ団公演
キトリ:森下洋子
バジル:清水哲太郎

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